作品タイトル不明
第26話
「まったく……常識外れの能力だな……」
全身を鋼鉄の鎧で固めた警官が、谷の中央に立っていた。
つい先ほど、多数の冒険者協会調査員と警察部隊が邪教徒の集会現場へ到着し、この一帯を完全封鎖したところだった。
「配信映像という証拠がなければ、とても信じられん……層主級魔物を操っていた邪教の首領が、あれほどあっさり無力化されるとはな」
「A級? いや、少なくともA+級案件だ。しかも普通ならフルメンバーの冒険者パーティが必要になる。それを君ひとりで片づけた……」
鎧の警官は、感心しきった様子で私を見た。
「大したものだ」
モルモットたちは一匹ずつハムスター用のケージへ詰め込まれていく。
医師たちは、獣医に診せるべきか、人間用の薬を使うべきかで真剣に議論していた。
……あるいは、そのまま無害化処理へ回すべきか。
でも、それは私の考えることじゃない。
私は目を輝かせ、警官さんへ身を乗り出した。
「ということは……ポチの嗅覚モジュール、買えますか!?」
「うむ……今回の逮捕過程には映像証拠がある。賞金はそのまま君へ支給できるだろう。運がよかったな。たまたま私にその承認権限がある」
鎧の警官のおじさんは気だるげに腕時計を操作し、賞金確認画面を開いた。
「そうだ、さっきの救援パーティなんですけど、魂をずっと押し戻すの手伝ってくれて……その、白い団子みたいなのを口の中に戻してくれてて。半分は渡すって約束したんです」
生け捕りが賞金条件だったから、あのときは手伝ってもらうしかなかったのだ。
だが、救援隊長は手をひらひら振った。
「いやいや、それはいいって! 俺たちは友達に頼まれて人命救助に来ただけだし。邪教徒の賞金云々は、その場のノリで士気を上げるために叫んでただけだからさ。
そもそも君たちの情報がなきゃ、俺らは連中がこの谷にいることすら知らなかった。しかも俺たちの実力じゃ、逮捕どころか……あの巨大バッタから生きて逃げられるかどうかも怪しかったしな」
「友達に頼まれて?」
「うん。神代凛華。昔うちのギルドで剣士やってた子だよ。ちょっと上層部と揉めて辞めちゃってさ。今回はギルドじゃなく、個人的な付き合いで来たって感じ」
「そっか……でも、それで手ぶらで帰すのも申し訳ないよ!」
私は眉を寄せて考え込む。
「何か、私に手伝えることってありませんか?」
「君の能力、毒系なんだろ?」
隊長は顎に手を当てた。
「前にA級ダンジョンで高級ポーションを何本か拾ってさ。どう見てもすごそうなんだけど、効果がわからなくて怖くて飲めないし、売るにも説明できなくて困ってる。君が鑑定してくれたら助かる!」
「できます!」
「よし、じゃあ数日後に連絡する!」
「うんうん~!」
私は救援隊長と連絡先を交換した。
その直後、彼の腕時計が鳴り響く。
【誰の許可で勝手にダンジョンへ入った!? まだあの女と繋がっているのか!? 今すぐ本部へ来い!!】
「……はい」
隊長は一瞬で顔色を失い、そのまま駆け去っていった。
「さて、賞金は君へ送金すればいいわけだな。ダンジョン口座IDは?」
「G199991です」
「G級の新人冒険者か。先週金曜に覚醒したばかりで、この規模の事件を解決するとは……末恐ろしいな」
鎧の警官は腕を組む。
「どうだ、所属したいギルドは決まっているか? うちの警察部門へ来ないか。顧問待遇でもいい」
「えっ? えっ!?」
突然のスカウトに、私は完全に固まった。
「法医部門がちょうど君みたいな人材を欲しがっていてな。もっとも……凶器を味見して調べる仕事などもあるかもしれん。少々、いやかなり気持ち悪いが」
「……美味しければ大丈夫です」
「それは“美味しい”の定義次第だな」
「竹くらいなら平気です」
「……やめておこう。急に被害者の遺体が心配になってきた」