軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第19話

「確かに……毒の仕組みさえ分かれば、治療できる可能性はある……でも……だからといって、君の命を代価にするわけにはいかない!」

「無茶すぎる!」

担任教師とヒーラーたちが、痛ましげな表情で私を見つめていた。

けれど――私の意識は、そのすべてを振り切るように、目の前に浮かび上がった通知へと集中していた。

[毒効果反転が発動しました!]

来た!

発動が早すぎる――目撃証言と完全に一致してる!

毒スープを飲み込んだ瞬間、胃の奥から、熱と冷気が同時に弾けるように広がった!

「なにこれ!?」

「離れろ!」

熱の流れが皮膚の表面へと到達した途端、周囲の空気中の水分を一気に引き寄せる。

次の瞬間、私のまわりは、煮え立つような白い蒸気で満たされた。

「なんで蒸気が出てるんだ……!?」

周囲の表情は見えなくても、空気の震えで分かる。

――全員、呆然としてる。

……私も同じ。

その蒸気はさらに凝縮されていき――

やがて、ひとつの水球へと姿を変えた。

灼熱の水球が、私の身体を丸ごと包み込む。

まるで、全身を温泉に沈められているみたい。

でも――熱くない。

それどころか、同時に胃の奥から、すっとした冷たい感覚が広がっていく。

まるで、ミント風味の冷えた炭酸飲料を一気に飲み干したみたいに、さっきまでの熱をすべて押し流していく。

[水属性親和性+10(永久)]

[水属性魔法の詠唱速度+30%(永久)]

[状態「急速水分流入(1時間)」を獲得。大量の水元素が体内へ流入しています]

[水元素の加護を獲得。筋肉柔軟度+300%(1時間)/水属性魔法威力+100%(1時間)]

「……そういうことか!」

私は勢いよく目を見開いた。

同時に、水球がばしゃりと弾けて四散する。

「普通の神経毒や血液毒じゃない……これは――脱水!」

「水元素が急激に奪われたことで、筋肉が脱水してるんだ!」

「脱水!?」

周囲から驚愕の声が上がる。

「その発想はなかった……だが、確かに……患者の筋肉は異常なまでに硬直している。まるで木材のような硬さだ……脱水の可能性はある!」

一人のヒーラーが、目を見開いて立ち上がった。

「あり得る! 通常の硬直ではここまでの強度にはならない……ほぼ確定だ、脱水による硬直だ!」

別のヒーラーも強く頷く。

「筋肉の水分が今も失われ続けている……まだ心臓は完全には乾ききっていない。だが、心臓が乾燥すれば――終わりだ」

「……まだ間に合う!」

「直ちに水元素を注ぎ込め! 少なくとも生命維持は可能になる!」

ヒーラーたちは、一瞬で治療方針を固めた。

――けれど。

方針が決まった直後、彼らは互いの顔を見合わせ、再び表情を曇らせる。

「私の医療キットでは、外傷と一般的な毒、呪いまでしか対応できない……」

「……私も同じだ」

「この毒は特殊すぎる。我々が携帯している装備では対応しきれない」

「水元素を注ぎ込み、さらに流出を逆転させる……それには専用の錬金薬が必要になる」

「そんなもの、通常は使う機会がないから――」

「……」

せっかく灯った希望が、音もなく崩れ落ちていく。

「待って! 錬金薬なら……錬金術師でもいけるんじゃない!?」

私は振り返り、人混みの外にいる“緑色”を指差した。

一斉に、全員の視線がそちらへ向く。

突然注目を浴びて、緑髪の少女がびくっと震えた。

「わ、私!?」

彼女は慌てて両手を振る。

「私じゃ無理だよ! 成功率が低すぎるの! 十本作って九本は毒になるし……しかも、どれが安全か自分でも分からないんだよ!?」

息を切らしながら、続けて叫ぶ。

「他に錬金術師いないの!? 誰でもいいから……絶対そっちのほうがマシだから!」

少女は必死に周囲へ呼びかける。

……けれど、返事はなかった。

「他に選択肢はない」

神代が一歩前に出て、彼女の前に立つ。

「やれ。“水元素注入”の薬を作るんだ」

「でも……!」

「時間がない。言い訳してる余裕もないだろ」

「……」

「償いたいんだろ? なら――今が唯一のチャンスだ」

少女は唇を噛みしめ、黙り込む。

神代は手元の収納リングに軽く触れた。

「必要な素材は? いくつかなら、こっちにある」

「水元素系なら何でもいい……材料自体は揃えられる……でも……」

彼女は拳を強く握りしめた。

「仮に完成しても……どれが有効で、どれが毒か分からないんだよ……!」

「大丈夫」

私は歩み寄り、彼女の肩に手を置いた。

そのまま、ぐっと親指を立てて――にっと笑う。

「不味すぎなければ、それでいいから」