軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第13話

私が夢を言い終えた、その瞬間。

周囲は、まるで死んだみたいに静まり返った。

そして——次の瞬間、空を突き破るような大爆笑。

……うん、完全に予想通りの反応だよね〜。

だって、周りの同級生たちが冒険の話で盛り上がってるとき、私の頭の中にあるのは「今日の食事で人間の最低栄養摂取基準をどう満たすか」だし。

みんなが恋愛を楽しんでるとき、私が考えてるのは「インフルエンザの季節にどう対策するか、もし感染したらどうやって一人で生き延びて回復するか」だし。

誕生日パーティーで盛り上がってるときは、「どこの店なら誕生日特典で無料でもらえるか」調べてるし。

……だから、夢って言われても。

私、たぶんちょっとズレてるんだと思う。

でも。

一人でここまで生きてきたんだから、私、めちゃくちゃ偉いよね!

「とにかく、最も正直な夢を言えって言われたので……これが、私の夢です」

私はマイクを次の人に渡して、表情を崩さないまま、すっとその場を離れた。

そしてそのまま、遠くの魔物の森まで歩いていって——

ようやく。

完全に表情が崩壊した。

胸を押さえて、息を荒くする。

「うわああああ恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!」

笑われるに決まってるでしょこんなの!!

あの引率の先生にしつこく突っ込まれて、うっかり本音が漏れた。

まだ自分のクラスじゃなかったのが救いだよ……

知り合いに聞かれてたら普通に死ぬ……!

[wwwwwwwwww]

[これは草]

コメント欄も大爆笑。

[青春してない夢すぎる]

[高校生にしては現実的すぎるだろ!]

[もっとこう……壮大な目標とかないの!? 何かを倒すとか、頂点に立つとかさ!! この年齢はそういうのが青春だろ!?]

「ないです。全くないです」

私は真顔で答えながら、深呼吸して心臓を落ち着かせる。

そのとき。

カラフルな名前に、公式認証マークがついたユーザーがコメントを送ってきた。

[非公開ID-S級冒険者:みんな笑うな。俺は50歳になって、ようやく「健康」がどれだけ大事か分かった。S級冒険者になったところでどうなる? 今の俺は、ただ健康な身体が欲しいだけだ]

[えっ!?公式認証のS級冒険者!?]

[同じ配信見てるの!?!?]

[非公開ID-S級錬金術師:私も同じ。三年間ずっと薬を作り続けたせいで、薬剤毒性が蓄積してね。肝臓がもう限界よ]

[え!?S級錬金術師も!?この国に三人しかいないやつ!?]

[ちょっと待ってこの配信どうなってんの!?]

[非公開ID-S級冒険者:今のすべてを捨てても健康が欲しい。でもな……もう一度やり直せたとしても、たぶん同じ選択をすると思う。それが青春だからな]

[非公開ID-S級錬金術師:ええ、私もそう思うわ]

[非公開ID-S級冒険者:だから少女よ。生きるためだけじゃなくて、遠い目標も持っていい。その過程だって、きっと楽しいものだ]

「遠い……目標?」

「うーん……」

私は少し考えて——

ポチに視線を向けた。

「ポチに嗅覚モジュールをつける!」

[???]

[それは確かに遠いな……]

コメント欄から、なんかこう……ぐったりした空気が漂ってきた気がする。

[南無……]

「なんでまだ除霊されてるの!?」

私はG172の昼夜境界帯に立っていた。

目の前には星空。

背後には太陽。

女剣士さんが、ふうと小さくため息をつく。

「まだ見つからないの?」

「うん……でも、見つかったところであんまり意味ないかも。そもそも私、申し込んでないし。クラスの行動予定にも入ってないから」

「同級生に会えたら、少しは嬉しいのかと思ってた」

「たぶん、そうでもないかな……別に、親しい人とかいないし」

私は空を見上げた。

気持ちよさそうに、すうっと目を細める。

[きれい……]

[これがG172ダンジョンか……。“光と闇の境界”って二つ名、めちゃくちゃしっくりくるな]

ポチのカメラが全景モードへ切り替わる。

くっきりと分かたれた、光と闇。

そしてその狭間には、両者が永遠にせめぎ合う境界線が横たわっていた。

恒星の重力によって、星全体の海は西半球へと固定されている。

けれど、恒星に近すぎるせいで西半球はあまりにも灼熱で、海水は絶えず蒸発し、また降り、蒸発し、また降りを繰り返していた。

そのため西半球の空は、いつも分厚い雷雲に覆われている。

反対側は、まるで死の領域。

冷たく、乾ききっていて、永遠の静寂だけが支配している。

その中間地帯だけが、かろうじて生命に適した温度を保っていた。

だからこの星では、あらゆる生命がその中間帯へと集まり、

東西半球の境界に沿って、星をぐるりと一周する「生命の環」を形づくっている。

紫色の森はその環に沿うように帯状に広がり、

魔物たちはその中で息づいている。

もし宇宙からこの星を見下ろしたら、

きっと息を呑むほど壮観なんだろう。

[G172って最近解放された新ダンジョンだよな。まだ行ったことなかったから、こんな綺麗な景色を見せてくれて助かる]

[G172は白鳥座主星群にあるって聞いた。私たちの太陽系から60光年くらいしか離れてないらしい。見上げれば、こっち側の太陽も見えるんだよな。ただの星にしか見えないけど]

[同じく白鳥座主星群にあるE133ダンジョンもめちゃくちゃ綺麗だぞ。でも、あっちは空気そのものが猛毒だから、人類は奥まで全然入れない]

[いや他のダンジョンの話はひとまず置いとけって。気づいたか? G172の植物、全部同じ方向に傾いてるぞ!]

「ほんとだ。全部斜めになってる。木まで傾いてるね」

私も、そこはずっと気になっていた。

[非公開ID-S級錬金術師:この現象のうち、七割は光の影響ね。向日葵が太陽の方を向くのと同じ。この星では太陽が常に西側にあるから、植物はすべて西側からエネルギーを受け取る必要があるの]

[非公開ID-S級錬金術師:残りの三割は暴風のせい。地表の風は東半球から西半球へ向かって吹き続けているから、植物は西側へ倒れ込むような形になるわ]

[待って、俺いま配信見て楽しもうとしてたんだけど、なんで急に授業始まってんの!?]

[話題変えてくれ!! 頭がパンクしそう!!]

[腹減った!! 配信者の飯が見たい!!]

「そういえば、たしかにお腹空いてきたかも……」

少し離れたところでは、引率の先生が生徒たちに森の植物について説明していた。

「この手の色鮮やかなキノコは絶対に食べるな! 特にこういう赤いものは猛毒だ!」

「見た目も匂いも魅力的だが、ほんの少しでも舐めれば命を落としかねない!」

「絶対に、絶対に触るなよ!」

ところが先生は、話しながら生徒たちの表情がおかしいことに気づく。

全員、妙に引きつった顔で、

先生の背後をまっすぐ見つめていた。

ぎゅっ……ぎゅっ……

「……?」

なんで後ろから、何かを噛む音がするんだ?

ぎゅっ……ぎゅっ……

先生が勢いよく振り返る。

「……ん?」

私はぽかんとしながら、口の中のキノコを飲み込んだ。

「あれ? みんな食べないんじゃなかったの?」