軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

書籍化記念SS 秘密の時間 sideマリエル

わたしはグレゴリーの部屋の扉を勢いよく開けた。

「グレゴリー来たわ!!」

「しー、マリエル様。お静かに願います」

「あ、そうだった」

あわてて口を手で押さえて、声を小さくする。こそこそ声で言った。

「今日は、『トトの挑戦』を読んでくれるのよね」

「はい、そうでしたね」

グレゴリーはくすっと笑う。

わたしはソファに座っているグレゴリーのとなりに、座った。今日は、トトがちゃんと最後までできるかの挑戦の本。わくわくして、胸がちょっとだけドキドキした。

ーートトの挑戦ーー

嵐が来る、という知らせが村に広がりました。

空はどんより暗く、風はいつもより強く吹いています。村のみんなは、しばらく家にこもる準備をしていました。

ところが狐さんは、ぎっくり腰。

「いてて……薪を取りに行きたいんだがなあ」

暖炉に使う木の枝を取りに行けません。トトは、すぐに言いました。

「狐さんの代わりに、ぼくが行く! おうちの分も取ってくる」

でも、ミミが、ぴしっと言います。

「この前、どうなったか覚えてる?」

そう。トトは、森でちょっと迷子になったばかりです。トトは、むっとしました。

そのとき、お母さんが言いました。

「トト、ひとりではだめよ。ちゃんと準備をして、ミミと一緒に、お母さんが決めた場所まで、約束できる?」

トトは、ごくりとつばをのみました。

ちゃんと準備をして、約束を守る。ちょっとだけ自信がなくなりました。でも、ミミに、お兄ちゃんらしいところを見せるチャンスです。

トトはずっと、皆に『頼りになるお兄ちゃん』って、思われたかったのです。

「うん、約束する!」

森は、嵐の前だからか、いつもより暗く感じました。風がざわざわと鳴ります。まるで、『帰れ……帰れ……』と言っているみたいです。

ミミも、少し不安そうな顔をしています。トトは言いました。

「大丈夫。ぼく、お兄ちゃんだから。先に歩くよ」

いいところを見せたくて、少し胸を張ります。本当はとっても怖くて、きっと、ひとりだったら、泣いてしまっていたかもしれません。

やがて、お母さんが決めた場所に着きました。

二人で、落ちている木の枝を拾っていきます。枝は、雨がまだ降っていないので乾いていて、トトはほっとしました。そのとき。

「あれ? あそこに、たくさん落ちてる」

少し先に、枝が山のように積もっている場所が見えました。トトは近づきます。

「あ! トト、待って!」

――ぶん。

低い羽音が聞こえました。そこには、蜂の巣があったのです。

「ごめんね、蜂さん! 今日は蜂蜜を取りに来たんじゃないんだよ! だから追いかけないで!」

トトは必死で逃げます。

「トト! そこの草かげに!」

ミミの冷静な声。トトは地面をはうようにして、草むらに身をかくしました。しばらくして、羽音は遠ざかります。トトは、どきどきする胸を押さえながらミミの所へ戻りました。

蜂の巣の下には、まだたくさん枝があります。

あれを持って帰れたら、きっとみんな驚く。ついでに、蜂蜜もとれちゃうかも。トトはそう思いました。

その時ミミが不安そうな顔でトトの服を引っ張ります。トトは、お母さんとの約束を思い出しました。

“決めた場所まで”トトは、ぎゅっと手をにぎります。

「……今日は、ここまでにして帰ろうか。ミミ」

「それがいいね」

ミミは、ほっとした顔をしました。

「ぼく、お兄ちゃんだから。ミミの分も持つよ」

帰り道、そう言って、トトは自分の分と、ミミの分の枝を持ちました。

集めた枝はたくさんではありません。ミミの分をあわせてもトト一人で持てるだけ。少ないけれど、ちゃんと約束を守って集めた枝です。

家に帰ると、お母さんが待っていました。

「まあ、トト。泥だらけね」

「トトがね、私の分も持ってくれたの。それに、ちゃんとお母さんとの約束も守ったの」

ミミが言います。お母さんは、にっこり。

「まあ、さすがお兄ちゃんね」

トトの胸が、ぽっとあたたかくなりました。狐さんも笑います。

「今日は、ちゃんと帰ってきたな。トトのおかげで、あたたかく過ごせそうだ。ありがとう」

トトは顔を少し上げて胸を張りました。

「狐さん、いつでもぼくを頼っていいんだからね」

「はは、頼もしいな」

ミミが、こっそりお母さんに向かって肩をすくめているのが見えましたが、トトは怒りませんでした。だって、今日は、特別な日です。

たくさん欲張ることよりも、我慢して引き返すことのほうが、大切だと知った日。

約束を守ることが、お兄ちゃんの証なのだと知った日。

トトはとってもご機嫌でした。拾ってきた枝をぽんと入れた暖炉の火は、いつもより少しだけ、温かく感じました。

コンコンコン。

その音に、わたしとグレゴリーは同時にビクッとした。

誰か来た! わたしはすぐに扉の方へ走った。うしろでグレゴリーがあわてて大切な本を落としそうになっているのが見えた。

だいじょうぶ。ここはわたしに任せて! わたしは急いで扉を押さえた。

「だれ?」

「あら、マリエルなの? グレゴリーに用事があるんだけど」

――いちばん来ちゃいけない人だ。絵本のことは、お母さんにばれてはいけない。グレゴリーとのお約束。絶対に守るわ。

「今ね、かくれんぼ中なの! だからグレゴリーはいないの!」

「あら、そうだったの。ふふ、見つかったら、私が呼んでいたって伝えてちょうだい」

「わかったわ」

扉に耳をぴたっとつける。コツ、コツ、コツ。足音がだんだん遠くなっていった。

よし……行った。

わたしは振り返ってグレゴリーを見る。グレゴリーもわたしを見る。

それから、二人で こっそり「やったね」という顔で笑った。

END

※5月5日、書籍発売 どうぞよろしくお願いいたします。