軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

74.悪役令嬢としての模範回答。

「一体、何を」

起動した魔法陣によって一瞬で場所を移動させられた大神官は驚いたようにコチラを見る。

私が移動させた場所は王城の敷地内のハズレにひっそりと存在する小さな東屋。つまり許された人間しか立ち入る事のできない私の秘密基地。

私は悪役令嬢らしい笑みを浮かべ、

「大したことはしていないわ。あなたが私にしたみたいに、今度は私があなたを誘拐しただけよ。デート中に邪魔が入るなんて不粋でしょう?」

挑発するようにオパールの瞳を見返す。

この男はきっとまだ幻惑石の欠片を隠し持っている。

お母様の外部干渉の魔法で無効化できる私以外の人間に使われて操られたら罪をなすりつけてきっと逃げ切られてしまう。

だから、決着は一番隙ができやすい断罪イベント時に2人きりでと決めていた。

「さてと、悪役らしいセリフでも述べてみようかしら? 素直に降伏するなら命だけは助けてあげる。でも抵抗するなら容赦はしないわ」

私は映像記録水晶で撮った動画を暗がりで再生してみせる。

師匠に作ってもらったのは、情報を拡散するための魔法陣。

それにライラちゃんのテレポートの魔法も組み込んでもらった。

「コレだけ派手にばら撒かれたら流石に回収しようがないでしょう?」

それは"神託"を否定するための証拠。

"加護石"がすでに存在せず、祀られていない神殿内部の様子が映し出される。

勿論、大神官に仕え甘い汁を吸っていた神官達の証言を添えて。

「神託を偽った。コレだけでも国家を欺く大罪だけど、幻惑石の入手ルートとか他にも外部に出さない諸々の悪事の証拠は今しがた陛下宛に送らせて頂きました」

私は得意げに改良型の 映像記録水晶(カメラ) を大神官に見せる。

大神官の指示で操られたフリをしながら、全ての証拠を舞台裏から 映像記録水晶(カメラ) に残した。

今回は私が演者だったから、自分で撮影する事はできない。

そこで神殿に出入りできるライラちゃんに依頼して、こっそりスイを連れ込んでもらった。

自撮りのためのセルフタイマーと大容量データ保存機能がついた改良型であれば、魔力さえあればいくらでも撮り続けることができる。

あとは動く撮影台と化したスイに固定してしまえば、神殿内全て撮影可。

大神官を含む神殿の悪事の証拠は今日この瞬間、私が追い詰められて魔物を召喚させるイベントに至るまで全て録画済みだ。

「さぁ、観念なさい」

神殿が自治権を失えば、お父様達が堂々と踏み荒らすでしょう。

これ以上は私の手には余るけれど、あとはお父様に任せてしまえば、もうきっと大神官は逃げられない。

何せ私のお父様はどう見ても"悪役"だから。

「……ふざけた事をしてくれますね」

ぎろっと私を睨む大神官のオパールの瞳を見ながら、

「あら、悪巧みをするなら騙し合いは基本じゃなくて?」

私は涼しげにそう述べる。

私は幻惑石の欠片を取り出し、悪役令嬢らしい笑みを浮かべる。

「私、この物語を愛していて、箱推しなのだけど。あなたのことは気に入らないの」

ゲームの中で何度も何度も手を変え品を変え、 リティカ(わたくし) を悪役に仕立て上げた悪魔。

だけど、全部のネタが割れた今、それは全く怖くない。

「悪役なら悪役に徹しなさいよ! 何 そっち(正義の味方) 側に混ざってんのよ!? そういう中途半端なキャラ付けが一番私の美学に反するわ!!」

この男をのさばらせたら、この先にあるのは国家転覆の目論見だけど。

「エタラブは全年齢対象の恋物語よ! 私は遠くから推しの幸せを愛でたいの、というわけであなたはいらない」

この物語の悪役は一人で充分だから。

そう言い切る私に、

「何を意味の分からない事を」

大神官は訝しげに眉を顰める。

「分からなくて結構。ただ大人しく退場してくれればそれでいいのよ」

そうは言ったけれど、とても大人しく引き下がってくれそうにない。

対峙しているだけで神経がささくれ立ちそうな魔力の圧を感じる。

「ふふ、その程度で勝ったおつもりで?」

私はずっと逃げ切ってきたのですよ、と大神官が何やら札を取り出してニヤッと笑う。

「つまり逃げ回るのがやっとの小物ってことでしょう?」

私は肩に乗っていたスイを手に取り、

「スイ、全部身絡み剥がしちゃっていいわ。食べちゃって」

大神官が何か仕掛けてくる前に決着をつけようとスイにそう命じる。

「きゅゅー」

この世界のイレギュラーならきっといけるはず! そう確信してスイを解き放った瞬間だった。

「もう遅いっ!」

パリン、と何かが割れる音がして細かいガラス片のような物が降ってきた。だが、それはキラキラと煌めくだけで手に当たる前に消失していく。

「この程度の目眩し、吹き飛ばすなど容易い。神聖力は嘘でも、生憎と魔法の類は得意でね」

大神官が手をかざすと突風が起こり、スイが飛ばされて壁に激突する。

「逃げ回るしか能がない? ただ慎重派なだけですよ」

「スイ!!」

「きゅーきゅゆ!!」

確かに壁に激突したはずのスイは、ケロッと元の形状に戻り"あいつ嫌い"とばかりに抗議の声を上げる。

伸びただけでノーダメージ。さすがスライム。

ほっとしたところに大神官から連続で攻撃魔法が放たれる。

「スイ"吸収"」

「きゅきゅきゅーー」

魔力の塊はスイにとってはただの食事だ。私の前にぴょこんと飛び出たスイは嬉しそうな声を上げ、全て平らげていく。

「ちっ、ちょこまかと」

スイが時間を稼いでくれている間に、私は魔物捕獲用の魔道具を起動する。

暴れる魔物でさえ生け捕りにし、決して離さない拘束道具。安全に討伐する事を考えた時、いっそ遠くから捕まえてしまえばいいのでは? というアイデアから生まれた6年前の研究費争奪戦グランプリ作品である。

「"拘束"」

派手な攻防を繰り広げているスイと大神官に向かって私は魔力の込められた鎖を放つ。それは見事大神官に絡みつき、動きを封じる。

「なっ!」

「公爵令嬢は課金し放題なのよ」

お金と権力はこうやって使うのよとドヤる私は、コレでおしまいねと胸を張る。

「さて、と後はお父様に連絡して」

そう思った私の首にひやりと冷たいモノがあたる。

「知ってますか? 切り札とは最後まで取っておくから絶大な効果を発揮するのですよ」

私に拘束されたはずの大神官がニヤリと笑う。

全く気配がなかったのにいつのまにか真っ黒な衣装の人間に取り囲まれていて、私の喉元には剣が当てられていた。