軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27 宮殿へ

***

「マリー、無理はしなくていい。君が望むことは何でも叶えてやるから」

マリーが自らの正体を明かして以降、ヴィンセントの声音はいつも以上に優しく、まるで壊れ物を扱うかのようだ。

周囲の騎士たちもその変化に戸惑っているようだが、さすがは精鋭たちだ。皆晴れやかな笑顔を浮かべるだけで、表だって口に出したりしない。

デイモンもやけに良い笑顔なのが気にかかる。

「……ありがとうございます、ヴィンセント陛下。私はもう大丈夫です」

マリーは微笑みながら、そっと彼の手を取る。それからちょっとだけ治癒の力を流した。

あれから二日が経った。

遠征とは思えないほどの充実した食事と睡眠のおかげで、マリーの調子はとてもいい。

マリーにつきっきりで数時間看病をしてくれていたヴィンセントも、ちゃんと食事はとったようで翌日は安心したものだ。

(翌日は……さすがに少し面映ゆかったわ……)

ヴィンセントにマリエッタだと明かし、お互いに涙を流したあと、我に返った二人はそそくさと距離をとってぎこちなく別れた。

翌朝顔を合わせたときの気まずさといったらなかった。

でも、マリーの懸念をよそに、ヴィンセントはマリーの姿を見つけると光が差すように嬉しそうに顔をほころばせたのだ。

幼い日の庭園でよく見た、あの日のような屈託のない笑顔で。

『うわっ、陛下……どうしたんだろ』

マリーの後ろで、デイモンが戸惑った声を上げるのを聞き漏らさなかった。あの頃の彼を知らなければ、とても意外に見えたはずだ。

「……では、出立する」

「「はい!」」

またあの残りの地点へと出発する。そこの浄化を終えれば、南部の瘴気は随分と落ち着くのだと聞いている。

「マリー、こちらへ。足下に気をつけて」

「ありがとうございます」

ヴィンセントとの間にあった壁が取り払われたようで嬉しい。

彼の手の温かさにまたじんわりと嬉しい気持ちになりながら、マリーは森の奥へと足を進めた。

また途中で力が不足してしまうかも──そう思って向かった任務だったのだが。

「なんだか、マリー様の神々しさが増したような気がしますね……?」

「え、ええ、やっぱりそう思う……?」

「はい、とてもまぶしかったです」

デイモンはきっぱりと答える。

この前の地点に到着し、瘴気の発生源と思われる澱みのある泉に手を触れ、いつものように祈ったつもりだった。

浄化の瞬間、マリーの体は柔らかな光を帯び、その輝きが一瞬にして辺りを包んだのだ。

まるで神の祝福を受けたかのように聖女の力が満ち溢れ、瘴気は瞬く間に消え去った。

「な、なんという……」

周囲の騎士たちも目を見張った。マリーの姿は神々しく、まるで女神そのものだったからだ。

(なぜかしら。力を使ったのに、まだあふれ出るほどの力を感じる)

瘴気を浄化し、通常ならば疲労により動けなくなるはずなのに、今はむしろ力が余っているかのようにしっかりと立っている。

「マリー、大事はないか?」

「は、はい。ご覧のとおり、ピンピンしています」

「……確かに、魔力の巡りはどこにも欠けがない」

そんなマリーを見て、ヴィンセントも不思議そうな顔をしている。

マリーが知らない聖女の特性が、まだあるのかもしれない。

「では、任務は完了だ。先程の浄化でこの先の地点まで全て瘴気が祓われているようだ」

「なんと! 聖女様、ありがとうございます!」

「あの瘴気を一度で……!? 星神は我らを見捨ててはおられなかった」

一度の祈りで、マリーは森全体を浄化してしまったらしい。

瘴気の浄化を終え、周囲の者たちに感謝されながらも、マリーの心は一つの決意を固めていた。

「マリー、どうかしたのか?」

自らの両手をじっと見つめているマリーを心配して、ヴィンセントが優しく声をかける。

その言葉に呼応するように、マリーは顔を上げて真っ直ぐにヴィンセントを見た。

「……私、宮殿へ向かいたいです」

その言葉にヴィンセントは一瞬、眉を寄せる。

「マリー、それは……」

「わかっています。危険なことも、無謀かもしれないことも。でも、ユイ様から直接お話を伺いたいのです。それに、彼らをそのままにしておいては浄化を完了したことになりません」

瘴気は澱みだ。発生源は負の感情だと言われていると聞いた。南部が特に瘴気がひどいのは、宮殿の影響もあるのではないか。

マリーはずっと、そんなことを考えていた。

瘴気に侵された彼らを浄化することで、この地に安寧が訪れる──その可能性が少しでもある限り、そのままにはしておけない。

「本当に、行くのか?」

「はい。私と……マリエッタのために」

マリーの真っ直ぐな瞳に射抜かれ、ヴィンセントは深く息をつく。

「……君がそう望むなら。私も共に行こう」

「ありがとうございます、ヴィンセント陛下」

ヴィンセントがついてきてくれるなら心強い。そして、今はもうこわくない。

自然とそう思えて、マリーは微笑んだ。