軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

215 最終話

辺境のアンデッドタウンには、似つかわしくない白く手入れの行き届いた教会が存在する。

その教会の裏には、ついにその名を轟かせることなく死んだ勇者の墓もあった。

「行ってくる」

『あ、ランドさん……』

クエラのゴーストがふわふわと飛んできていた。

『いよいよ出られるんですね』

「ああ」

『いってらっしゃいませ。お二人にもはや言う必要などありませんが、お気をつけて』

ミレオロとの戦闘からしばらく経ち、ようやく俺とミルムが出発できることになった。

アイルは立派に辺境伯領までの広大な地域の領主と、王都、辺境伯家、そしてこの地のアンデッドの三騎士団を束ねる騎士団長として結果を出していた。

その裏にはロバートやセシルム卿の支えも当然あるが、それを抜きにしても立派なものだ。

ぼやき続けているギレンと比べるとなおさら立派に見える。いや、ギレンもまぁ、王都ギルドを立て直しながら魔術協会の解体と再組織化の動きまで担わされたのだから、文句も言いたくなるだろう。

ここにはミッドガルド商会も大きく関わることになっているらしい。というより、すでにセラの工房を中心に半分くらい本社機能をこの領地に移すほど、ミッドガルド商会はすっかりこの地を気に入ってくれたらしい。隠れ家みたいな状態だな。

セシルム卿は軍務卿としてこの二人を支えながら、国の中枢としてその政治力を大いに振るっている。

そして……。

「クエラ、俺がいなくなればしばらく何も聞けなくなるけど、このままでいいのか?」

クエラは教会を軸に動くファントムになっていた。

最初こそアンデッドとして生きていくことにかなりのショックを受けていたクエラだが、この地で暮らしているうちに徐々に落ち着きを持って、今ではこの教会と墓場の管理者として住民のアンデッドたちとも良好な関係を築いている。

アンデッドの神官というのもなかなかすごい話だがまぁ、いまのクエラは生き生きして見えていた。これも変な話だがな。

『罪滅ぼしと呼ぶにはあまりに短すぎるでしょう。それにもう、罪滅ぼしという感覚でもなくなってきてしまっていますし……死してなお神官として頼っていただけることが、こんなにも幸せなことだとは思っていませんでした』

「そうか」

『はい。嫌になったとしても私の起こしたことに比べれば些細なことですから』

随分と、クエラの印象が変わったと思う。

そしてそれはメイルも同じだった。

『ん……』

『すごい……』

『そっちも……』

「いつ来ても不思議な光景だな……」

『『あ、ランド……』』

セラとメイルの相性は抜群に良く、二人とも似たような考えで昼夜を問わず何かを作ったり研究したりしている。

メイルの魔法理論がセラの作る装備品の質を向上させ、セラの作る魔道具がメイルの理論を形にしていく。

生きているときよりも生き生きとしている、という状況は二人にこそぴったりな状況だった。

『これ……持っていくといい』

『ん……』

二人から差し出されたのは……。

「ネックレス?」

『鎖一つ一つに魔法陣を入れた』

『中身は……色々……あとはこれ』

「これは……」

俺に渡したものと同じ、だがサイズが少し小さい……。

『ミルムに』

「ありがと」

メイルの最大の変化は、これまで他人に興味がなかったところが、セラとの出会いをきっかけにこうして他者のことを考えるようになったことだった。

『あと……これも……』

『これも……』

『これも……』

「おい待て、レイたちの分もあるのはありがたいけど持ちきれないから! 順番に渡してくれ」

『『ん……』』

見た目の幼さも相まって手のかかる子どものようだったが、まぁ、悪くない光景だろう。

二人に見送られて工房を出ると……。

『キュオオオオン』

『グモォオオオオ』

『きゅるー!』

レイ、エース、アールが待ち遠しそうに鳴いて俺を呼ぶ。

その隣には……。

「ベリモラス」

『寿命を伸ばすと聞いてな。であれば多少、付き合うのも一興かと思ってな』

「ああ、なるほど」

神竜にしてみれば、俺の寿命なんて一瞬だったわけだ。

だからこそ一箇所にとどまらず、慌ただしく世界を駆け巡っていたわけだが……。

「そういうことなら、よろしく頼む」

『その前に死なれては敵わんからな。はよう不死になれば良い』

「そうだな……」

そういえば、随分時間が経ってしまったが気になっていたことがあったんだった。

「ベリモラスがミレオロに与えた呪いって、何だったんだ?」

結局あの日、場所を特定することにしか生かすことが出来なかったベリモラスのサポートを改めて確認した。

『ん? あぁ……些細なものだ。あの女が自らかけていた魔法を全て、壊していくだけのな』

「そんなことが出来たのか……」

『人間の割に異常な、もはや人の身で耐えられる許容量は大きく超えていた。自らの記憶すら犠牲にしておったからな』

「記憶……」

『何のために自分が魔法を重ねてきたかなど、最期の瞬間まで思い出せたかも怪しい』

最期の瞬間……。

ああ、そうか。

「思い出してたんじゃないかな、しっかり」

『そうか。ならば少しは、役に立ったかもしれんな』

おそらくミレオロが最期に思い出したことは、メイルのことだったんだろう。

「さて、それじゃあ行くか」

「ええ。長い旅になるわよ」

「時間はいくらでもある、だろ?」

「そうね」

ミルムと笑い合う。

この先の旅路がどこに続くかはまだわからないが、俺たちはいつまでも歩き続けるだろう。