軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

09話『偏才』

『新しい魔法が習得したいって……なら、すればいいんじゃないの?』

「それができれば相談などしない」

溜息混じりに俺は言った。

「クリス。今まで気づかなかったが、もしかして俺は魔法が下手なのか?」

『……えっと、取り敢えず、どうしてそんな結論に至ったのか聞かせてもらってもいいかしら』

「魔法の習得が遅すぎる。これでも練習はしているつもりだが、未だにDランクの魔法すら満足に使えない。学園の同世代と比較しても、《火球》すら使えないのは多分俺だけだ」

『……ああ、そういうことね』

納得したようにクリスは言った。

『ごめんなさい。伝えておくのを忘れていたわ。貴方の身体は、機関の教育によって 偏才化(へんざいか) しているのよ』

「……偏才化?」

聞き慣れない単語に、俺は眉を潜めた。

『知っての通り、魔力には色んな運用法があるわ。圧縮、多重起動、並列起動……これらを上手く活用すれば、通常の魔法をより高度に使いこなすことができる』

機関で教わった知識だ。特に秘匿されている情報でもない。その気になれば学生でも容易に調べることができるし、図書館に行けば参考資料も山ほど見つかるだろう。

しかし次の一言は、俺が全く知らないものだった。

『偏才化とは、ある運用法に特化した体質を作り上げることよ。偏才化した人間の魔力運用は、常人とは比べ物にならないほど効果を発揮する』

完全に初耳だ。

淀みなく説明するクリスに、俺は冷静に訊く。

「……俺も、その一人ということか」

『ええ。貴方は圧縮に偏才化しているわ』

淡々と、クリスは述べる。

『例えば貴方が愛用している、速度と貫通力に特化した《魔弾》。あれって仕組みは簡単だけど、他の人は真似できないでしょう? それは貴方が圧縮に偏才化しているからよ。ただのEランク魔法である《魔弾》を、あそこまで殺傷力の高い魔法に昇華できるのは貴方くらいね。ちなみに 02(オズ) は並列起動に偏才化しているわ』

クリスの話を聞きながら、俺は後ろ髪を軽く掻いた。

「……まるで実感が湧かないな。いつの間に俺の身体は、そんな風に改造されていたんだ」

『まあ、機関もわざわざ説明しなかったからね。でも悲観することはないのよ? 偏才化は、誰もが羨む達人の境地と言っても過言ではない。実際、機関の兵士でも習得できたのは極僅かなんだから』

「訓練兵だった頃、俺だけやたらと個別カリキュラムが多かったのも、そのせいか」

『そういうことよ。偏才化を習得するには、特定の魔力運用をひたすら研鑽する必要がある。気が遠くなるほどの鍛錬を経た末に、選ばれし者のみが習得できるの』

事後承諾というのは若干、納得がいかないが……当時の俺の立場を考えれば仕方ない。機関も大戦が終わった後のことなんて考えている余裕はなかっただろうし、何より俺自身も考えていなかった。たとえ事前に偏才化の相談があったとしても、俺は二つ返事で承諾していただろう。

『ただ偏才化は、特定の魔力運用に特化する代わりに、それ以外の魔力運用が苦手になるという欠点もある。……貴方が通常の魔法を上手く扱えないのは、これが原因ね。数ある運用法の中でも、圧縮は特にピーキーなテクニックよ。それに特化した貴方は、普通の魔法が苦手になっているわけ』

「……なるほど」

多重起動や並列起動は、通常の魔法を、原型を残した状態で応用するためのテクニックだ。対し、圧縮は原型を変化させるテクニックである。それに特化した俺は、原型を残したまま魔法を使うのが苦手になっているらしい。

『貴方、先月王都のギルドに登録した際、Bランクの魔法力があったでしょう?』

「ああ」

『本来ならDランクの魔法すら使えない人間が、Bランクの魔法力なんて取れるわけないのよ。その例外が偏才化ってわけ。……登録した時、不審に思われなかった?』

「……そう言えば、英雄科の生徒やギルドマスターに怪しまれたな」

『偏才化は習得難度が高いから、あまり有名ではないの。マスターなら知っているとは思うけれど、学生が習得しているとは思っていなかったんでしょうね』

事情は大体把握した。

Dランクの魔法すら上手く使えない俺が、高い魔法力を叩き出したのは、偏才化という体質によるものだったらしい。

「解けないのか、この偏才化とやらは」

『……その気になれば解ける筈だけど、オススメしないわ。再三言うけれど、その力は貴重だし、とても強い。貴方もその力に何度も助けられたんじゃない?』

それは、確かに。クリスの言う通りだ。

「なら、偏才化したままでも普通の魔法は習得できるのか? 来月の競技祭に向けて、人目を憚らずに使える魔法が幾つか欲しいんだが……」

『……なるほど、競技祭のために魔法を習得したかったのね』

そう呟くクリスの声音はどこか嬉しそうだった。

順調に日常を満喫しているとでも思われたのかもしれない。実際、その通りではある。

『分かった。それじゃあ信頼できる人を紹介するわ。続きはその人に相談してちょうだい』

「……信頼できる人?」

『私たちの身分に関する話じゃないわよ? 魔法の知識や腕に関して、信頼できる人よ。幸い学園にいるしね』

クリスは続けて言う。

『偏才化は稀に、生まれつきの体質となることもあるの。だから相談する際は、先天的なものだと説明しておきなさい。後天的な偏才化は特殊な訓練を受けないと習得できないから、知られると詮索されるかもしれないわ』

「分かった」

表向き、俺の偏才化は先天的なものとしておく。

そのくらいの嘘なら簡単に貫き通せるだろう。ボロが出る余地も少ない。

「で、その人物は誰なんだ?」

『それは――』

放課後。俺は早速、クリスに紹介された人物のもとを訪れていた。

現在、鷹組の生徒たちは外で競技祭に向けての練習を行っている。俺は先に、フィジカルレースに出場するチームメイトたちに「所用がある」とだけ伝えて校舎に戻った。

魔法学準備室。

プレートの文字を見て、ここが目的の部屋であることを確認した俺は、ドアをノックした。

「失礼します」

ドアを開くと、部屋の中にいる一人の女性がこちらを見た。

「あら、トゥエイト君?」

青髪の女性に、俺は用件を伝える。

「シルフィア先生。少し相談したいことがあって来ました」