軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

06話『二日目種目検討会』

「鷹組はどうだったの?」

初日種目の検討会を終えた、翌日の昼休み。

いつも通り中庭で昼食をとっていると、対面に座るエリシアが訊いてきた。

「指揮を取っている生徒会の役員が優秀だから、かなり円滑に進行している」

「ミラさん、てきぱきと働いていますもんね」

俺の発言に、ミゼも同意を示した。

「獅子組はどうだ?」

その問いに答えたのはグランだった。

「まあ俺たちも似たようなもんだな。今のところは生徒会の指示に従って、うまくやってる」

「いつまで続くかは分からないけどね。ビルダーズ学園には貴族の子息令嬢も多いし、どこかで不満が爆発しなければいいけれど」

悩ましそうにエリシアが言った。

俺たちと違って英雄科の生徒であるエリシアは、貴族との交流も多いため、その手の不安が絶えないのだろう。

「鷹組は、生徒会の方が英雄科に釘を刺していましたね。チームワークが大事だから、足並みを乱すのは良くないとか……」

食事の手を休めて、ミゼが言う。

「ああ、それ獅子組の方でもあったぜ。似たようなことやってんだな」

グランが笑いながら言う。

一方、俺とエリシアは無言で視線を交わし、互いに小さく頷いた。

「……ふぅん。やっぱり、そういうことだったのね」

「……みたいだな」

俺とエリシアの様子に、ミゼが首を傾げる。

「えっと、何か分かったんですか?」

「あれは仕込みだ」

「えっ」

驚くミゼに、俺は説明した。

「さっきエリシアも言っていただろう。英雄科には貴族が多いから、たとえ相手が生徒会でも、そのうち不満を漏らすかもしれない。だから、そうなる前に釘を刺すための機会を設けたんだ。……あの時、発言した英雄科の生徒は仕込みだ」

「そ、そうだったんですか」

ミゼが得心する。

求心力を上げるにせよ、後のトラブルを回避するにせよ、このやり方は少々リスキーだ。しかしミラは、そのリスクに対する恐怖を微塵も表に出さず、最後まで完璧に演じきってみせた。結果として鷹組の士気は初日から非常に高かったし、獅子組も同様なのだろう。

「やり手ね、生徒会」

「まあ、こんな巨大な学び舎を支えている組織だからな。役員の選考基準も厳しいんだろう」

生徒会は学園の中でも、それなりに権力のある組織らしい。

腐った性根の人間が権力を持つと厄介極まりないが、生徒会にその様子はない。少なくとも金や権力では生徒会の席を手に入れられない仕組みなのだろう。エリシアの言う通り、生徒会はやり手だ。今のところは信頼もできる。

放課後。

鷹組の生徒は、先日と同じようにミラの指示に従って、二日目の競技の検討を行った。

「二日目の種目はドライブレース、エクソダス、グラディウスの三つです。それぞれ適性がある方は準備をお願いします」

俺とミゼは二日目の種目にも適性があると判断されている。

俺はドライブレース、ミゼはエクソダスだ。

「ドライブレースは、フィジカルレースと対になる種目です。こちらは乗り物の魔法具を利用してレースを行います。……コースはフィジカルレースと同じですが、魔法の制限はありません」

ミラの説明に頷く。

集まった面子はフィジカルレースの時と殆ど同じだった。どちらもレースと名のつく競技だ。似通った適性が求められているのだろう。

「こちらが、その乗り物……『ウィングボード』です」

人が乗れるほどの大きなブーメランに、ハンドルを取り付けたような乗り物だった。ブーメラン型の足場とハンドルは鋼糸で繋がっている。

「『ウィングボード』は四年前にテラリア王国で開発された乗り物ですが、大戦の混乱によってまだ一般には普及していません。過去、この乗り物の知名度を向上するためにビルダーズ学園でデモンストレーションを行いましたが、その際の評判が高かったため、今では正式な競技として取り入れられています」

競技祭の種目にも、色んな歴史があるようだ。

「ドライブレースもリレー形式ですが、次の走者へ渡すのはバトンではなく、この『ウィングボード』となります。今日の練習は、『ウィングボード』の操縦に慣れることを最優先にしましょう。それぞれチームに分かれた後、まずは各自二周ほどコースを走ってみてください」

前回と同じように七チームに分かれた後、早速、『ウィングボード』の操縦が始まった。

「おぉ……」

正面に対して身体を横に向けて乗り、鋼糸と繋がっているハンドルを握る。

全身から《靭身》の要領で魔力を発すると、『ウィングボード』がふわりと宙に浮いた。

操作は思ったよりも簡単だ。これなら運転と並行して、他の選手を妨害することもできる。速度に制限があるかどうかは不明だが、地面や建物に近づくと強制的に速度が落ちる仕組みになっていた。安全面にも配慮されている。

機関に属していた頃は数々の珍しい経験をしてきたが、このような乗り物で空を飛ぶのは初めてだ。空中で他の生徒と衝突しないよう、ハンドルを切って対応する。

「では最後に、軽く競争してみましょう」

開始位置まで『ウィングボード』を運び、その上に乗る。

「また会ったな、トゥエイト」

隣の生徒に声を掛けられる。

その男は、先日も俺と同じ第一走者で、こうして声を掛けてきた人物だった。

「昨日のフィジカルレースでは負けたが、今度こそ俺が勝つぜ」

そう言って男は、これから始まるレースに向けて意識を集中させた。

だから誰だよ、お前。

ドライブレースの練習は滞りなく終了した。

最後の簡単な競争で、俺のチームは四位になった。

「トゥエイトさん、『ウィングボード』はどうでした?」

ミゼの問いに、俺は少し考えてから答える。

「中々面白いな。貴重な経験だった」

「では、出場する種目もドライブレースということで……?」

「いや、フィジカルレースにしようと思う」

目を丸くするミゼに、説明した。

「『ウィングボード』は面白いが、使い慣れていない分、いざという時にボロが出てしまいそうだ」

「ボロ、ですか……」

あまり好ましいことではないが、ミゼは俺の過去をある程度知っているため、会話がしやすい。

ボロというのはつまり、俺の正体が露見するかもしれないということだ。

「本番の際、訪れる観客たちの中に、トゥエイトさんの正体を見抜ける方はいるんでしょうか?」

「確実にいるだろうな。だから正直、競技祭ではあまり目立ちたくはない」

ビルダーズ学園は、テラリア王国の中核を担う人材を多く輩出している。生徒の実力を示す魔法競技祭は、王国の人材評価にうってつけの場となるだろう。そのため他国からの視察も警戒せねばならない。今の俺に機関や局と密接な関係はないが、いちいち接触されても面倒だ。

そもそも――俺の正体を知る観客というなら、国王陛下がそれに該当する。

ただの学生として平穏に過ごしたい俺にとって、ああいう極端な権力者とは暫く関わりたくない。競技に出る際は色々と気を遣わなければならないだろう。

「続いて、エクソダスの練習を始めます」

小休止していた生徒たちに、ミラが良く通る大きな声で言う。

「エクソダスは特殊な環境で行いますので、皆さん私について来てください」

その指示に従って鷹組の生徒たちはグラウンドから離れる。

案内された先には、広大な迷路が二つあった。

「野外演習場を繋ぎ合わせて作った巨大な迷路です。本番でもこの環境を使います」

ざっと見たところ、この迷路は迷宮をモチーフにしているようだ。

迷宮と違って上下の階層はないが、通路と部屋の集合というこの構造には、迷宮探索のノウハウが活用できるだろう。

「エクソダスは、仕掛け班と脱出班の二チームに分かれて競技を行います」

ミラが競技の説明を開始する。

「まず仕掛け班が迷路内にトラップを仕掛け、次に相手チームの脱出班がその迷路を突破するといった流れです。それぞれの班は五名ずつとなり、最終的に脱出できた人数によって勝敗が決まります。仕掛け班が使用していい魔法は定点設置式のみ。脱出班は制限なしです」

説明を聞きながら、俺は隣にいるミゼに小声で質問した。

「ミゼはエクソダスに選ばれていたよな? 理由は分かるか?」

「多分、座学の成績が良かったからだと思います。今の説明を聞く限り、このエクソダスという競技は魔法に関する知識量が勝敗を左右するように思いますから」

「そんなに成績が良かったのか」

「いえ、その……私の力です」

どこか罪悪感を抱いている様子でミゼが言う。

その態度と言葉に、俺は納得した。

――《 叡智の道(ウィズダム・ロード) 》か。

所有者の記憶を次々と継承できる特殊な魔法だ。この魔法を継ぐミゼの頭には、膨大な知識が蓄えられている。

真面目なミゼのことだ。ズルをしているように感じているのかもしれないが、元々、魔法は生まれ持った才能が大きく影響する分野である。あまり気にする必要はないだろう。

「どちらの班を希望するつもりだ」

「脱出班です。前に皆さんと迷宮を探索した経験が活きそうですから。……あ、でも、罠の解除などはまだ経験していませんでしたね」

迷宮内には罠が仕掛けられていることもある。

しかし先月エリシアやグランたちとも共に行った迷宮探索では、罠に引っ掛かることがなかった。

「……床の中央は当然警戒するとして、角を曲がった直後や、地形の変わり目には注意した方がいい」

目の前にある迷路の構造を確認しながら、俺は言う。

「それと、あの入り組んだ通路の出口付近は注意した方がいいな」

「出口付近ですか? 通路内ではなく」

「通路内は誰だって警戒する。そこを抜けて、安心した矢先に罠に掛かるパターンが多い。相手チームの仕掛け班の腕次第だが、気をつけた方がいいだろう」

「分かりました」

その後、エクソダスの練習が行われた。

宣言した通り、ミゼは脱出班として罠の仕掛けられた迷路の中に突入した。過剰に警戒するあまり、随分と時間を掛けて突破したが、慣れると時間も短縮できるだろう。最初は難しい罠の警戒も、注意するべきポイントを把握していれば単純作業になる。

「凄いです! トゥエイトさんが言っていた場所に注意すれば、本当に罠を全部回避できました!」

練習を終えたミゼが、目を輝かせて言った。

「本番では、迷路の構造が伏せられるらしいが……いずれにせよ、罠が仕掛けられやすい条件を覚えた方がいいかもな」

「はい!」

楽しそうに告げるミゼに、俺は質問する。

「ミゼはエクソダスに出るのか?」

「そのつもりです。私に向いていると思いますから」

そう言って、ミゼは不意に神妙な面持ちとなった。

「トゥエイトさんも……本当はこの競技、とても得意ですよね?」

「……多分な」

「トゥエイトさんは出ないんですか? 別に適性以外の競技に出場しても、構わないみたいですし」

その問いに対する答えを、俺は少し時間をかけて考えた。

実を言えば、エクソダスへの出場は検討していた。

しかし先程の、ミゼの楽しそうな姿を見ると――。

「……ミゼは、どうして自分がこの競技に向いていると思ったんだ?」

「え? それは……色んな魔法を知っている私なら、様々な罠に対応できると思ったからです。それと……冒険者として活動するための、良い訓練になると思いました」

「そういうことだ」

期待通りに答えてくれたミゼに、俺は続ける。

「学園は将来の進路を決めて、少しでもそれに近づくための場所だろう。俺は冒険者を目指しているわけじゃないから、それなら他の者に席を譲った方が有意義だと思った」

「……そうですか」

ミゼが落ち込む。

大方、自分よりも上手くやれる人間がいるのに、その席を自分が埋めてしまって良いのか考えているのだろう。自分一人の都合のためには行動力を発揮するミゼだが、他人が絡むと臆病になることもある。個人的にミゼはもう少し図々しい態度を取ってもいい。

軽く休憩した後、二日目最後の種目であるグラディウスの練習が行われた。

グラディウスは一対一の勝ち抜き戦だ。使用可能な魔法は《靭身》のみであるため、純粋な肉弾戦となる。適性ありと判断された生徒たちは、見るからに武闘派揃いだった。英雄科の割合が多いのも、その競技の性質上、仕方ない。

「少し遅くなってしまいましたね。本日はこれで解散しましょう」

全ての練習が終わった後、ミラが生徒たちに告げる。

そろそろ夕陽も沈み、夜になる頃だ。生徒たちは疲れた様子で寮へと戻った。

「私たちも帰りましょう」

運動着の汚れを叩いて落としたミゼが言う。

しかし俺は返事をできず、暫く無言で校門付近を眺めていた。

――誰だ?

一瞬だけ見えて、霞みのように消えた人影を思い出す。

心当たりはない。身のこなしからして学生とは思えないが……。

「トゥエイトさん?」

隣でミゼが首を傾げた。

「ミゼ。今日は寮まで送ろう」

「……ふぇ!?」

途端にミゼは、頬を紅潮させて驚いた。

「え、えと、あの、それは……別に、いいんですが。急にどうしたんですか?」

「単にそういう気分なだけだ」

「き、気分、ですか……」

やや困惑しながらも、ミゼは俺の要望を受け入れてくれた。

昨日は男子寮と女子寮の分かれ道でそれぞれ一人になったが、今日は俺が女子寮までミゼを送り届ける。

「そう言えば、先月買ったあの黒い腕輪はどうしたんだ?」

「今も持っていますよ」

ミゼが制服のポケットから黒い腕輪を取り出す。

先月、逃避行の最中に寄った村で購入したアクセサリだ。ミゼがこれを購入した切っ掛けは、確か俺のBF28の小型化した状態とお揃いだったからだ。

「お守りにしているんです。あの時の思い出を、忘れないように」

「思い出と言うには、辛いことばかりさせてしまったな」

「辛いこともありましたが、それも含めて大切な思い出です。私はトゥエイトさんと一緒に過ごしたあの時間を、絶対に忘れません」

大事な宝物のように、ミゼは腕輪を握っていた。

腕輪自体は決して高価な代物ではないが、そこまで言ってくれると、買って良かったと思える。

「ふと、疑問に思ったんだが……そういう記憶も《叡智の道》で継承されるのか?」

「……はい。すみません、トゥエイトさんにとっては不快なことですよね。赤の他人に、自分のことを知られてしまうなんて」

「俺にとっては実感のないことだから構わない。それよりミゼはどうなんだ? 役に立つ知識だけならともかく、あまり見たくない記憶もあるんじゃないか?」

「それは、確かにそうです。でも、いい記憶だってあるんですよ? 例えば私の二代前の所有者は小さな塔の中に幽閉されていましたが、毎晩、年の近い騎士が内緒で会いに来てくれたんです。二人はとても誠実に、愛し合っていました」

うっとりとした表情でミゼが語る。

頭の中でミゼの話を映像化してみる。要するに、それは――。

「情事に関する記憶があるということか?」

「じょ――――っ!?」

ミゼは顔を真っ赤に染めた。

「あ、あの! だだだ、大丈夫、です! その……ちゃ、ちゃんとコントロールできているので!」

「コントロールか。……つまり、見たい時だけ見ているということだな」

「み、見てません! 私、そんなに見てません! その、少しだけ……ほんの、ちょっとだけ、偶に…………くらい、ですっ!」

耳まで赤く染めたミゼが力説する。

結構、見ているようだ。

「そ、それでは、私はこれで、失礼します」

女子寮の前に着き、ミゼが言う。

「送っていただきありがとうございます。……その、本当に、少ししか見ていませんので」

「その話はまた今度しよう」

「ぜ、絶対にしません!」

そう怒鳴って、ミゼは女子寮の中に戻った。

ミゼの背中姿が見えなくなってから、一息つく。

周囲をそれとなく見回しても、怪しい人影はない。

「……接触してこなかったな」

俺がいたから襲ってこなかったのか?

いや、そもそも追跡されていなかった。最初から俺たちを襲撃する気はなかったのだろう。

――目的はミゼではないということか?

その方が自然と言えば自然である。ミゼを取り巻く諸問題は先月解決したばかりだ。ひと月足らずで問題が再燃するような、雑なアフターケアはしていない。

暫く警戒を続けよう。

ただ、今回は……俺の関係ないところで、何かが動いているような気がする。