軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

03話『鷹組と獅子組』

昼休み。

いつもは賑わっている教室も、本日は閑散としていた。

「皆、チームの確認に行っているみたいね」

「そうみたいだな」

エリシアの呟きに頷く。

どうやら魔法競技祭は俺が想像する以上に、生徒にとっても楽しみなイベントであるらしい。楽しみ……というよりも、将来のためになるイベントであるようだ。

ビルダーズ学園は、伊達に王国随一の教育機関ではない。

ここに所属する生徒たちの志の高さは本物である。特に英雄科の生徒たちには貴族も多いため、観客が大勢集まる魔法競技祭では家名に恥じない働きを示さなくてはならない。その重圧が大きな行動力になっているらしく、学園の演習場は既にどこも予約で一杯だった。そんな彼らの動きに触発されて、普通科の生徒たちもやる気を昂ぶらせている。

「チームは、クラスごとに分かれるわけじゃねぇんだよな?」

グランの問いに、エリシアは首を縦に振った。

「そうよ。だから私たちが敵同士になることもありえるわね」

「き、緊張してきました……」

ミゼが胸に手をやりながら苦笑する。

仲間思いな彼女は、この面子で争うことに忌避感を覚えているらしい。

「あら、そう? 私は楽しみだけど」

「流石だな、バーサーカー」

「失礼ね。ただちょっと人より好戦的なだけよ」

バーサーカーじゃないか。

不敵な笑みを浮かべるエリシアに、俺は呆れた視線を注ぐ。

「チーム分けの発表は一階の掲示板だったか。そろそろ空いている頃だし、俺たちも確認しに行こう」

いつも通りの面子である、エリシア、ミゼ、グランと共に、俺は校舎の一階へと向かう。

掲示板の位置は、生徒たちの人集りがあったのですぐに分かった。大柄であるグランを先頭にして進ませることで人垣を割り、掲示板の目の前までたどり着く。

俺たちのチーム分けは――。

「いい感じに、分かれたわね」

中庭で昼食を取りながら、エリシアは呟く。

購買のパンを咀嚼した俺は、先程確認したチーム分けを思い出しながら口を開いた。

「俺とミゼが鷹組。エリシアとグランが獅子組か」

来月半ばに開催される魔法競技祭では、高等部一年の生徒たちが二つのチームに分かれて競い合う。それぞれのチーム名は鷹組、獅子組となるようだった。

「トゥエイトさん、よろしくお願いいたします」

「ああ」

俺とミゼは同じチームだ。

対し、エリシアはグランと同じチームである。

チーム分けを確認する前の、エリシアの発言が現実になってしまった。

俺たちは今日から約一ヶ月、敵同士となる。

「今日の放課後から、それぞれチームに分かれて練習を始めるみたいだし、暫く放課後は一緒にいられないわね」

「そうだな。……昼休みはどうする?」

「昼休みくらいは、こうして会いましょうよ。どうせ教室は一緒なんだし、秘密の作戦とかを漏洩しなければこうして会っても問題ない筈よ」

エリシアの発言を聞きながら、ミゼは頻りに首を縦に振っていた。

こうして四人で昼食を取る機会を、ミゼは貴重だと感じているらしい。

かく言う俺もそうだ。折角、手に入れた日常を、ただのイベントのせいで疎遠にしたくはない。

全員がエリシアの意見に賛同する。

放課後はチームごとに分かれて行動することになるだろうし、昼休みもそうなるかもしれないが、それ以外ではなるべく共に行動することとなった。

「しかし、どうして組分けが鷹と獅子なんだ?」

「昔の王様が鷹と獅子を飼っていたみたいだぜ。天地ともに余すことなく統治するべし……っていう理念の表れなんだってよ」

俺の疑問に答えたのはグランだった。

相槌を打つ俺の隣では、エリシアも「ふぅん」と興味を示す。

「詳しいのね、グラン」

「学園に入る前、テラリア王国のことをざっと調べたからな。そん時についた知識だ」

「へぇ。……グランにしては殊勝な心がけね」

「そりゃどういう意味だ!」

申し訳ないが俺もエリシアと同じ感想を抱いた。

ミゼも同じなのか、そっと視線を逸らしていた。

しかし――今、さらりと流したが、グランは何故テラリア王国について調べたんだ?

この国で生まれ育っているなら、わざわざ調べる必要はないだろう。

ミゼと同じく、他国の出身なのだろうか。

「やべっ、そろそろ次の授業だ」

時計を見てグランが言う。

掲示板へ寄り道していたため、いつの間にか思ったよりも時間が経っていたらしい。

「トゥエイトと戦うのは、英雄科の入学試験以来ね」

教室へ向かって歩いていると、エリシアが小さな声でそう告げた。

「まだどの種目に出るか決まってないんだ。俺たちが戦うとは限らないぞ」

「そんなの、つまらないわよ。どの種目に出るか示し合わさない?」

「合わさない」

何故そんな面倒なことをしなくてはならないのか。

溜息混じりに答える俺に、エリシアは目を細めた。

「……逃げるの?」

「安い挑発だな」

エリシアが不服そうに頬を膨らませる。

念のため周囲に耳目がないか確認し、俺はエリシアに耳打ちした。

「……父親の復讐は一段落ついただろ。今更、俺に執着する必要はない筈だ」

「それは、そうなんだけど……」

エリシアは言葉を選ぶような様子を見せる。

「……私、正燐騎士団からオファーを受けてるのよ」

その言葉を聞いて、俺は一瞬、返答に詰まった。

「勧誘を受けているという意味か?」

「ええ。学園を卒業したら是非、入団して欲しいって」

テルガンテ公爵家が抱える正燐騎士団は、激しい実力主義に裏打ちされた高名な騎士団だ。大戦で華々しく活躍したこともあって、今では近衛騎士団と並ぶほどの人気を誇っている。

ただでさえ栄えある騎士団に、学生のうちから――それも一年生のうちに勧誘されるというのは、極めて稀だ。稀どころかエリシアが史上初である可能性すらある。非常に誉れ高いことと言えるだろう。

「私としては、応えてもいいかなと思ってる。でも、今のままだと親の七光りとしか思われないし……何より、自分に自信がない。こんな私が選ばれてもいいのかしら」

「……何を以て こんな(・・・) と考えているのかは知らないが、エリシアは既に、学園の中では一線を画した実力を持っている。十分、胸を張ってもいいだろう」

「ロベルトの件を、全部、貴方に頼ったのに?」

注がれる視線に対して、俺は目を逸らした。

「何のことだか分からないな」

「あっそ」

俺の返答を予想していたのか、エリシアは唇を尖らせた。

「私、貴方に勝てば自信がつきそうな気がするのよ」

「はた迷惑な予感だな」

「いいでしょ、別に。だからひとつ約束してちょうだい?」

そう言って、エリシアは俺の方に身体を向ける。

「出場する種目は示し合わさなくてもいい。でも、もし私と同じ種目に出場したら――手加減せずに戦うこと。いいわね?」

真剣に告げるエリシアの表情は、よく見れば僅かに硬くなっていた。

緊張しているのだろう。肯定も否定もしないが、どうやらエリシアは俺を格上の存在と認識しているらしい。その上で勝負を申し込むというのは中々、勇気のある行動だ。

誠意と向上心を剥き出しにする、エリシア。

そんな彼女へ、俺は答えた。

「善処しよう」

「そこは嘘でも了承しなさいよ」

なにか言いたげなエリシアの視線を無視する。

俺は、守れないかもしれない約束はしない性分だ。