軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

50話『戦闘開始』

「《極大主義》は、ちゃんと仕事をしてくれたようね」

馬車に揺られながら、クリスは辺り一帯の景色を見渡して言う。

その傍で、 02(オズ) はつまらなさそうな顔で溜息を零した。

「デスクワークが本分なのに、態々こんなところまで出張ってくるなんて……そんなに28のことが心配なの? あんまりそーゆー贔屓はしないで欲しいかなー」

「心配ではなく警戒しているのよ。貴女と違って、あの子は頭もいいから、ずる賢い手も遠慮なく使ってくるし。……あの子のことを良く知っている私が、傍にいた方が確実でしょう」

「どーせボクは馬鹿ですよー」

拗ねた様子で02が言う。

「まあまあ、お二人とも。ここでいがみ合っていれば、作戦も上手くいきませんよ」

そんな二人に、笑って声をかける者がいた。

荷台の対面に立つその男は、銀色の騎士甲冑を身につけていた。見た目は重苦しいが、その素材は非常に軽く、馬車に乗せても負担にはならないらしい。

この男は、今回の作戦に同行することとなった、アルケディア王国の騎士だ。

筋骨隆々の外見によく馴染む大雑把な性格で……少々、デリカシーに欠けた人物である。

「心配無用よ。この程度のやり取り、私たちの間では日常茶飯事だから」

「それは失礼いたしました。……成る程、これがテラリア王国流の、士気の高め方なのですね」

別にそういうわけではない。

ズレた考えを抱く騎士に、02は視線を注いだ。

「あのさぁ。アルケディア王国は、やる気あるの?」

「それは、どういった意味でしょうか」

「相手はうちの組織の中でも最強のエージェントだって言ったよね。それを倒し、殿下を奪還するための援助をうちは要求した筈なんだけど……おじさん一人で大丈夫なわけ? 人材ケチっている場合じゃないと思うんだけど」

「心配ご無用です。これでも私、アルケディア王国では三指に入る実力者ですから」

三本の指を立てて、騎士が言う。

「それに、そういうことでしたらテラリア王国側の意図も教えていただきたいものですな。戦いの場に出るのは、そちらの02様のみなのでしょう? 失礼ですが、貴女一人で倒せるような相手が、最強のエージェントと呼ばれているのですか?」

些か癪に障る発言だったが、02は心を落ち着かせる。

果たして、02一人でこの騎士何人分の戦力になるのか、騎士はまるで理解していない。三指に入る実力というのも疑わしい話だ。

「28はね、最強だけど万能ではないの」

オズの発言に、騎士は目を丸くする。

「28の真骨頂は、暗殺や奇襲。正面切っての戦いならボクの方が強いよ。……うちの組織に所属している人間にはね、それぞれ得意分野があるの。カリキュラム的には、ええと……暗殺と、捕縛と、諜報、護衛、拷問、強襲、だったかな。で、ボクは強襲担当のエージェント。今回の条件なら、ボクの方が――」

「――02」

02の説明を、クリスが遮る。

喋りすぎだ――視線でそう訴えるクリスに対し、02は唇を引き結んで頷いた。

目の前の騎士は、クリスと02のことを、ただの軍人と考えている。

恐らく正確には、軍人の中でも特殊な立ち位置にいる者であることくらいは見抜いているだろう。神聖アルケディア王国にも諜報機関はある。そちらの伝手で、目の前の騎士が多少の情報を持っていることは覚悟せねばならない。

「暗殺や、奇襲ですか……正直、あまり脅威には感じませんな」

騎士は腕を組みながら言う。

「暗殺や奇襲など、所詮は軟弱者の策。これでも私は、第四次勇魔大戦の最前線で戦っていましたが……そのような策で、敵兵を打倒できた試しは殆どありません」

それは――表向きの話だ。

もしかすると、この騎士はあまり先の大戦における真相を知らないのかもしれない。テラリア王国は勇者を広告塔として活用するべく、表の戦線に力を注いでいるフリをしていた。実態はその裏で、より高度な戦いが繰り広げられていたのだが、こちらを知る者は限られている。

「どうでもいいけど、あんまり馬車から顔を出さない方がいいよ」

外の景色を眺める騎士に、02は言った。

「何故ですか?」

「狙撃される」

「それは、この小さな隙間から、ということですか?」

コンコン、と騎士は手の甲で荷台の壁面を叩いた。

今、02たちが利用している馬車は局の特注品である。馬の性能は勿論、荷台にも狙撃を警戒して頑丈な壁が取り付けられていた。大戦時、機関の兵士たちはよくこの馬車を利用していた。

しかし、壁には通気性や視界を確保するための、僅かな隙間が空いている。

騎士の言う通り、荷台に乗っている者が狙撃されるとしたら、その隙間に弾丸を通すしかない。

「……28なら、そのくらいの隙間、簡単に通すよ」

「はははは! 流石にそれは警戒しすぎでしょう! 我が国最高の狙撃手でも、この狭い隙間を撃ち抜くには五〇〇メートル以内に近づかなければなりません! まだ恐れる必要はありませんよ」

さらっと自国の戦力を漏らす騎士に、02とクリスは複雑な顔をした。

「今のところ付近には誰もいませんね。……お二人とも、元同僚を想う気持ちは分からなくもないですが、もう少し肩の力を抜いてはどうですか? 敵を過大評価するようでは、プロ失格――――」

バツン、と短い音と共に、騎士の額に穴が空いた。

甲冑を纏った騎士が、大きな音を立てて荷台に倒れる。額から溢れ出した鮮血が、あっという間に床に広がった。

「だから言ったのに。……もー、汚いなぁ」

血溜まりから離れるように、02は移動する。

「クリス。28の最長狙撃記録って、3700メートルだっけ?」

「ええ。……懐かしいわね。初の単独任務にして、テラリア王国の最長狙撃記録を大幅に更新。……あの時は戦慄したわ」

何年も前のことを思い出し、クリスは言う。

狙撃された角度から28の居場所を逆算し、安全な位置で馬車が止まった。荷台から降りた02は《靭身》を発動し、素早く標的へ近づく。

28の狙撃は確かに驚異的だが、一度撃たせてしまえば次の狙撃までのインターバルが生じる。

最初の一撃を躱すことが最大の鬼門だったが、そちらはアルケディア王国の騎士が、自らの命と引き換えに対処してくれた。02の実力なら、たった一度のインターバルがあれば28へ接近できる。

「やっほー、28。元気にしてた?」

いつもと変わらない淡々とした様子の少年へ、02もまた、普段通りの明るい態度で声をかける。

「ああ。お陰様で快適な旅を送らせてもらっている」

「うんうん、それは良かった」

首を縦に振った02は、周囲に視線を巡らせた。

28は既に接近戦の用意をしており、BF28を小型化していた。その背後には28たちが使用していた馬車が停まっている。

「で、ミゼは何処?」

「後ろの馬車にいる」

「ふーん」

02は瞬時に指先から膨大な魔力を放ち、その馬車を破壊した。

轟音が響く中、28は眉一つ動かさない。

「嘘じゃん」

「当たり前だろ」

もし本当に馬車の中にミゼがいたら、28は即座に庇っていた筈だ。

どうやらミゼは、事前にどこかへ逃がされたらしい。

「まあ、数日前までは一緒に行動してたみたいだし、そう遠くにはいない筈だよね」

02は、両手に一つずつ TD02(タイラントドラゴン・オートゥー) を構えた。

ここから先、ミゼを追うには――目の前にいる障害を乗り越えるしかない。

「28も知ってると思うけど、ボク、手加減が苦手だからさ。……死んでも恨まないでね?」

「お互い様だ。……機関の人間に、手加減が得意な者などいない」

互いに、遠慮なく殺意をぶつけた。