軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20話『賊退治②』

――後、二人。

十四人いた賊のうち、十二人は殺すことができた。

残り二人を取り逃がしてしまったことに舌打ちする。

狙撃という手札を見せてしまった以上、なるべくここで殺しておきたい。この場に来ていない仲間たちへ情報を共有されると面倒だ。

――ミゼたちの方へ向かっているな。

運が悪い。多分、賊は俺から逃げることに集中している筈だ。彼らが逃げる先に、彼らの標的であるミゼがいるのは完全な偶然だろう。

下手に時間を与えて他の仲間と連絡を取られても厄介だ。

近接武闘式の魔法《 靭身(レイジ) 》を駆使して、少しずつ賊たちとの距離を詰める。

「くそ、舐めるなッ!!」

賊の一人が逃走を止め、反撃に出てきた。

男は《靭身》を発動した上で、鋭く剣を振り抜く。右薙ぎからの左切り上げを最小限の動きで回避すると、次の瞬間、突きが繰り出された。

流石に学園の生徒と違って戦い慣れている。

こちらの動きを読んだ攻撃に、一歩後退した。

刹那、踏み抜いた地面が盛り上がる。

―― 罠(トラップ) か。

足裏から返ってくる感触に違和感を覚え、少しでも遠くへと飛び退いた。

直後、先程まで俺のいた場所に稲妻が迸った。

「ちっ、避けたか」

少し離れた位置で、もう一人の賊が舌打ちした。

どうやら逃走中に罠を仕掛けていたらしい。

先程、俺が使用した《 爆発罠(ボム・トラップ) 》と同系統の魔法だろう。

定点設置式の魔法は罠に用いられることが多い。だが、この手の魔法は目には見えなくとも魔力の残滓から位置を特定することが可能だ。

但しその残滓は無意識に感じ取れるものではない。

極限まで集中を研ぎ澄ませることで、漸く感じ取れる。

短く呼気を発し、《靭身》の出力を上昇させる。

五感が研ぎ澄まされていくと同時に、他の場所に仕掛けられた罠の気配を察知した。

――《 魔弾(バレット) 》。

指先を敵に向け、魔力の塊を射出する。

賊はそれをほぼ直感で避けてみせた。だが余裕を失った賊は足元の木の根に躓き、一瞬、体勢を崩す。

好機――地面を強く蹴り、体勢を崩した男へと接近する。

しかし、その瞬間。

横合いからもう一人の男が攻撃を仕掛けてきた。

剣による一閃。どうやらこの男は接近戦が得意らしい。

フェイントの織り交ぜられた巧みな剣術だ。不安定な足場でよくここまで流麗な太刀筋を実現できる。

僅かな感心を抱きつつ、男の刃圏から離脱する。

「途端に必死になったな。成る程、さては近くにいるな?」

剣を構えながら賊が尋ねる。

ミーシェリアーゼ王女殿下が近くにいるな? ――その問いに答えるつもりはない。

睨み合いが続く中、《 物質化(フィクセーション) 》で短剣を生み出し、それを五メートル先にある樹木へと投擲する。

直後、短剣の刺さった木が激しく爆発した。

「爆発ッ!?」

「くそ、まだ仕掛けていたか!?」

ミゼと別れてから狙撃ポイントに向かうまでの間に仕掛けていた罠のひとつだ。

やむを得ないとは言え、先程から何度も爆発を起こしている。恐らくミゼたちにも音や振動が伝わっているだろう。彼女たちが妙な好奇心を抱いてこちらへ近づくよりも早く、賊を殲滅しなくてはならない。

多人数を相手取る際の、手札の少なさが悔やまれた。

しかし今は余計なことに考えを巡らせる暇もない。

樹木が木っ端微塵に飛び散り、更に砂煙が巻き上がる。

その煙の中へ、俺はゆっくりと姿を隠した。

「また目眩ましか――風で吹き飛ばせッ!」

「ああ!」

巻き起こった砂塵が、突如現れた爆風によって四方へ吹き飛ばされる。

明確な種類までは分からないが、どうやら風の魔法で砂塵を払ったらしい。

だが、少し遅い。

賊が背中を預けている一本の木。――その背後に俺はいた。

――《瞬刃》。

周囲を警戒して立ち止まる男の首筋目掛けて、研ぎ澄まされた刃を振り抜く。

透明で、目視が困難なその刃は、木の幹ごと男の首を切断した。

「ぇ――」

真後ろから首を切断された男は、か細い声を漏らす。

その頭部が、ゴロリと足元に転がった。

「よっと」

残り一人の男へ、倒れた樹木を蹴り飛ばす。

三メートルほど弾かれるように飛んだ木を、男は焦燥に駆られた顔で避けた。

――そこだ。

いい位置に逃げてくれた。

瞬時に《物質化》でまた一振りの短剣を作り、それを即座に左斜め前の茂みへ投げる。

短剣が茂みに隠していた糸を切り、仕掛けていた罠が作動した。

「なあッ!?」

男の足元を、糸で作った輪が縛り上げる。

藻掻きながら拘束を破ろうとする男だが、既に遅い。男はさかさまの状態で木に吊るされた。

括り罠というやつだ。

狩猟用の罠として生み出された技術だが、これは人間にも通用する。

「ば、馬鹿な!? 魔力は感じなかった筈だ!」

「ただの糸だからな」

俺たちは互いに、定点設置式の罠を使う者同士。

だから男は魔法による罠を警戒していたのだろう。しかし――別に俺は、魔法に拘っているわけではない。

「魔法にばかり頼っているからそうなる」

「く、くそッ」

悔しがる男の額を、一発の弾丸が貫いた。

賊を倒した後、俺は暫く地面に腰を下ろし、息を整えた。

――流石にくたびれたな。

数の差が激しい。暗殺・奇襲を得意とする俺にとって、集団戦は本来、馴染みのないものだ。殲滅力が欠けている俺に、一対多の戦闘は正直厳しいところがある。

汗を拭って落ち着きを取り戻したら、黒い外套を小型化してポケットに入れた。

ミゼたちと別れてから三十分が経つ。そろそろ戻ってもいい頃だろう。

三人の姿を見つけ、声をかける。

「悪い、遅くなった――」

「トゥエイト! すぐにここを出るぞ!」

グランが俺を見るなり、焦った様子で言った。

唐突な言葉に疑問を抱いていると、傍に立つエリシアとミゼが神妙な面持ちで説明する。

「さっきから、この辺りで爆発が起きてるのよ。多分、高ランクの魔物が暴れてるんだと思うわ」

「ま、巻き込まれたら大変ですから、すぐに移動しましょう」

成る程、そう解釈したか。

好都合だ。今回の戦闘で予想以上に体力を消耗してしまった。できれば一度、王都に戻って落ち着きたい。

「移動は構わないが、依頼はどうするんだ?」

「残念だけど諦めるしかないわね。後もう少し集めることができれば、依頼達成なんだけど……」

エリシアが視線を落として言う。

どうやらシャープ・ラビットの爪を、必要数集められなかったらしい。

「一応、手土産がある」

念のため手に入れておいて良かった。

そう思いながら、俺はポケットからある物を取り出す。

「シャープ・ラビットの爪、三匹分だ。これで足りるか?」

休憩後、三人と合流するまでの間にシャープ・ラビットを見かけたので、三匹ほど狩っておいた。

不要なら後で個人的に換金しようと思っていたが……どうやらその必要はないらしい。三人は驚き半分、喜び半分といった様子で俺の出したシャープ・ラビットの爪に視線を注いだ。

「でかした、トゥエイト!!」

「流石ね、助かったわ」

「あ、ありがとうございます!!」

三人が一斉に礼をする。

俺としても、皆で受けた依頼に寄与できたことは喜ばしいのだが……完全にマッチポンプであるため、非常に申し訳ない気分となる。そもそも爆発が起きなければ、予定通り四人でシャープ・ラビットの爪を回収できただろう。

苦虫を噛み潰したような顔をする俺に、三人は不思議そうな視線を注いだ。

「移動するなら早めにしよう」

「ええ。……悪いわねトゥエイト、折角戻ってきたのに、またすぐ帰ることになって」

「気にするな。今後も安全第一でいこう」

俺たちはまだ初心者だ。

今はこのくらいの臆病さで丁度良い。

四人で王都へ向かいながら、今回の襲撃について考える。

賊は想像以上に大規模な組織かもしれない。また同じ規模の襲撃があれば厄介だ。

――流石に、これ以上の襲撃を単身で防ぐのは厳しい。

以前から薄々懸念はしていたが、今回の襲撃で確信した。

――こちらも増援が必要だ。