軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

34話『バレン=スティーレン』

真紅の砲撃を紙一重で避けながら、俺はバレンへと接近した。

「……おいおい」

最初は余裕綽々だったバレンの表情に、徐々に焦燥の色が表われる。

佩帯の使い手は、いつどこでどのような魔法を使うのかまるで予想がつかない。そのため不用意に近づくのは得策ではないが――相手に攻撃の隙を一切与えなければ、どうにでもなる。

身体強化魔法《靭身》の熟練度は同じ程度だろう。だが接近戦の技術は俺に軍配が上がるようだ。

半歩下がって強引に距離を取ったバレンが、掌から《 火砲(フレイムキャノン) 》を放つ。

だが苦し紛れの一撃は容易に射線を読むことができた。最小限の動きで砲撃を回避して、《物質化》で生み出した短刀を振り抜く。

「マジかよ、こいつ――っ!!」

身体を翻してバレンは刃を回避した。

肩を突く筈だった刃は、バレンの頬を軽く斬るだけで終える。

バレンが大きく後退すると同時に、俺も軽く後退した。

双方、距離を取って呼吸を整える。

「どれだけ佩帯の技術が高くても、結局、それを使う術者は人間だ。……折角の技術も、乱れた思考では使いこなせない」

「……はっ!」

バレンは笑う。

そして、その手を頭上に掲げ――。

「舐めてんじゃねぇよ」

次の瞬間、四方から砲撃が迫った。

先程と比べ、威力も速度も桁違いだ。まだこれほどの力を隠していたとは……素早く斜め後方へ飛び退いて回避する。

砲撃が左足首を掠め、焼けるような痛みを感じた。

「……魔法だけでなく、その軌道まで佩帯したのか」

「ほぉ、一度見ただけでよく分かったな」

尋常ではない技量だ。

元々、佩帯の使い手は珍しいが――これほど使いこなしている人間は初めて見たかもしれない。

「……少しは話ができそうじゃねぇか」

小さな声でバレンが言う。

先程からの応酬で、多少は俺のことを認めてくれたのか、バレンの口が軽くなったらしい。

「なんで俺が、こんなことをするか……だったな」

腰に手をあて、バレンは呟く。

「危機感が足りねぇと思わねぇか?」

問いの意味が分からず眉間に皺を寄せる俺に、バレンは続けて訊いた。

「ビルダーズ学園の生徒が三人、先の大戦に参加したことは知ってるか?」

「……ああ。お前はそのうちの一人だ」

戦争に参加した学生は三人。

現生徒会長イクス=デュライトと、その姉であるフラウ=デュライト、そして目の前にいるバレン=スティーレンだ。

「公にはされてねぇがな……アレはただの、切っ掛けに過ぎなかったんだ。王国は、俺たちの戦争参加を皮切りに、次の出兵の準備も進めていた」

次の出兵。

バレンが口にしたその不穏な言葉を聞いて、俺はある可能性に思い至る。

「――徴兵か」

「そうだ。それも、うちの学園限定でな」

聞いたことのない話だった。

だが――有り得る。

元々、ビルダーズ学園の生徒は選び抜かれ、そして鍛え抜かれた猛者たちである。今でこそ普通科が設立され、書類選考のみで生徒になることも可能になったが、当時は英雄科しか存在しなかったため、俺やエリシアが経験したあの熾烈な試験を勝ち抜かねば生徒にすらなれなかった。

この国が徴兵を検討した場合、真っ先に戦力として期待されるのはビルダーズ学園の生徒になるだろう。下手な大人より戦力になることは間違いない。

「幸い大戦は予定よりも早く終わり、徴兵令は出されずに済んだ。だが……先に戦争に参加していた俺たちは、地獄を見た」

怒りを押し殺したような声で、バレンは言う。

「何人も殺して、何度も殺されかけて。それでも俺とイクスは辛うじて生き残ることができた。だが……フラウさんは死んじまった。……俺たちには覚悟が足りていなかった。そして、そんな俺たちに頼るしかなかったこの国も、危機感が足りねぇ」

そう告げるバレンの声には、隠しきれない後悔が込められていた。

気持ちは分からなくもない。俺もまた、あの地獄を経験し、数え切れないほどの仲間を失った立場だ。但し俺は最初から戦争の道具として育てられていたため覚悟だけはできていた。バレンのように後悔することはなかった。

「……だが、もう戦争は終わっただろう」

「なんでそう言い切れる」

バレンは語気鋭く告げる。

「五度目の勇魔大戦が、いつ起きるかなんて分からねぇだろ」

その言葉だけは紛れもない正論だった。

勇魔大戦が始まる時期については様々な説がある。しかしいずれも確証には至っていない。だから結局、人類側は常に後手の対応を強いられている。

「戦争が始まってからじゃ遅ぇんだよ。実際、今の世の中だって不安定な情勢だ。何が起きるかなんて分からねぇ。……国のお偉いさんはとっくに気を抜いているかもしれねぇけどな、そういう油断の皺寄せが俺たちにくるんだよッ!!」

胸の内に溜め込んでいた怒りを、バレンは曝け出す。

バレンの言う通り、魔王が倒された今も不安定な情勢だ。たかが学生一人が裏でコソコソ動くだけで、他国の工作員が王立の学園に侵入できているのだから間違いない。

「だから俺は、今一度この国に、はっきりとした危機感を焼き付ける。……仮初めの平和に、無能どもが胡座をかく前にな」

バレンの考えは過激ではあるが、全てを否定することはできなかった。

事実、その仮初めの平和を利用して新たな利益を獲得しようと目論む者たちも多い。考え方によっては、普通科の設立に賛同した学園の経営陣もその一部だろう。彼らのうち半数以上は、今の不安定な情勢から目を背けている筈だ。

「……理屈は、分かった」

少なくともバレンは、考えなしに行動しているわけではない。

「だが、その考え方では、あまりにも犠牲を出しすぎる」

昨晩の戦闘を思い出しながら告げる。

街であれほどの被害を出しておいて――罪のない人々を苦しめておいて、何が危機感だ。偽善もここまで肥大化すれば、はた迷惑極まりない。

「できれば穏便な方法で、頭を冷やしてもらいたいところだが……厳しそうだな」

「はっ! よく分かってんじゃねぇか!」

上機嫌にバレンは笑う。

「佩帯を知ってるってことは、コイツの特徴もよく理解してるんだよな?」

不敵な笑みを浮かべたまま、バレンは訊いた。

「佩帯は本来、身に付けた魔法を撃ち出すための技術ではなく……あらゆる魔法を 身に纏う(・・・・) ための技術だ。その魔法が高度であればあるほど、そして同時に纏う数が多ければ多いほど、佩帯の力は上がる」

バチバチと、バレンの掌が帯電する。

雷はあっという間にバレンの全身に迸る。まるで肉体という器から、力が溢れ出すかのように。

「俺の最大佩帯数は八つだ。――自慢じゃねぇが、俺より多い奴は見たことねぇな」