軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25話『生徒会』

ミラの指示に従って、俺たちはすぐに生徒会室へ向かった。

「ねえ、トゥエイト。これ……どういうことかしら」

隣を歩くエリシアが言う。

「分からない。だが、この面子で来てくれと頼まれた以上、昨晩の件が関係している可能性はある」

ちらりと背後にいるグランとミゼの顔を見る。

二人とも不安そうだ。

「なあ、トゥエイト。爆弾の件、まだ生徒会には言わねぇ方がいいんだよな?」

「ああ。できれば黙っておいてくれ」

なるべく黙秘して欲しいが、尋問に慣れていない者ならば、単純な挙動であっさり嘘が露見することもある。もし生徒会が本格的に俺たちの行動を不審に思っているようなら、その時は諦めるしかないだろう。

とは言え――恐らく、ボロは出していない筈だ。

爆弾の解体は細心の注意を払って行った。人の気配に敏感である俺とエリシアによる、二重の警戒を掻い潜ることができる猛者はそういない。帝国の工作員ですら不可能だろう。

「ここだな」

目の前の一室が生徒会室であることを確認し、扉をノックする。

どうぞ、と男の声が聞こえてから、俺は扉を開いた。

「ようこそ、待っていたよ」

部屋の奥にいる男子生徒が、俺たちの顔を見て人当たりのいい笑みを浮かべた。

部屋にいる生徒の数は四人。副会長のシェリア=ノーランが奥にある机に書類を置き、獅子組のリーダーであるハウゼンは腕を組みながらこちらを睨んでいる。

「どうぞ、中へ」

扉の付近で待機していたミラが、俺たちを中へ手招きした。

上質な革製のソファに腰を下ろした俺たちの前に、最初に挨拶をした男が座った。

「はじめまして、僕はイクス=デュライト。生徒会長を務めている」

生徒会長。つまり、この学園で最も立場が強い生徒だ。

第一印象は、線の細い優男といったところか。柔らかいサラサラとした灰色の髪が特徴的だが、それ以外にこれといった特徴はない。どちらかと言えば何処にでもいそうな……影が薄い人間のように思えた。

しかし以前、エリシアたちから聞いた話によると、この男はバレンと並んで学園最強の候補であると噂されているらしい。

元より見た目で人を判断する気はないが、こうも凄味を感じないと、逆にやり手のように思える。

「君たちをこの場に呼んだ理由は、少し質問したいことがあったからだ」

「質問、ですか?」

慎重に訊き返す。

尋問に慣れている俺や、緊張に慣れているエリシアと違って、ミゼやグランは質問攻めされるとボロを出してしまう可能性が高い。あまり二人に質問の矛先が向かないよう、率先して俺が会話に応じた。

「ああ。……実は最近、学園の周囲で不審者が見つかったという情報があってね。君たちは夜遅くまで学園に残って練習しているだろう? だから、何か怪しいものを見なかったか念のために訊きたかったんだ」

会長の話を聞いて、ミゼとグランが「なんだそんなことか」とあからさまに安堵の表情を浮かべた。そういう態度がボロを出しかねないのだが……後で指摘しておくべきか。

しかし、その質問に対する答えは既に決まっている。

こればかりは――正直に話すしかない。

「見つけたも何も、二日前に交戦しました」

「……何?」

「生徒会のバレンという男が、その件については知っている筈ですが」

恐らく不審者というのは帝国の工作員で間違いないだろう。俺は工作員と戦闘した際、バレンと出会っている。工作員の身柄はそのままバレンに引き渡したため、生徒会もそれを知っている筈だ。

意図は不明だが、俺は今の問いかけに対して「鎌を掛けているのか?」と思った。だが、どうも違うらしい。見れば会長は眉間に皺を寄せており、周囲にいる他の役員たちもそれが初耳であるかのように困惑していた。

「誰か、バレンからそういう話を聞いては………………だよね、ないよね」

会長が役員たちの顔をざっと見るが、誰も頷くことはない。

会長は深く溜息を吐いた。

「ハウゼン、放送でバレンを呼んでくれないか」

「はっ!」

指示を受けたハウゼンが、速やかに放送室へ向かう。

あのハウゼンという男……まるで軍人だな。

数分後。

生徒会室に、ノックもせずに赤髪の男が入ってきた。

「放送で呼ぶなよ、目立つだろ」

「君は普通に呼んでも来ないだろ」

「まぁな」

溜息混じりに告げた会長に、バレンは悪びれもなく返す。

そこでふと、バレンの視線がこちらを向いた。

「よぉ、また会ったな」

「……ああ」

どうやら俺の顔は覚えていたらしい。

こちらは昨日の放課後も、バレンの大立ち回りを目にしているのだが、向こうはそんな意識全くないようだ。

「バレン。君を呼び出したのは、まさに彼の報告によるものだ。……二日前の夜、君は学園で誰かと戦ったのか?」

「ああ、戦ったぜ」

あっさりと肯定するバレンに、会長が額に手をやる。

「……何故それを僕に報告しない」

「次、ここへ来る時にするつもりだったんだよ。つまり今だな」

会長が額を抑えたまま、暫く顔を伏せる。

「んだよ、俺がお前らとつるまねぇのはいつものことだろ」

「今回ばかりは少し事情が違ってね。……で、君が倒した人たちはどうしたんだ?」

「適当にとっちめて追い払った」

「えぇぇ……そんな、勝手に……」

参ったなぁ、とでも言わんばかりに、会長は苦々しい顔をする。

「――会長!!」

その時、ミラが怒り心頭といった様子で叫んだ。

「いい加減、この男を生徒会から外しましょう! こんな無責任な男のせいで私たちが振り回されるなんて、もううんざりです!!」

顔を真っ赤にしてミラは激昂する。

対し、会長は冷静に彼女の怒りを聞き届けた。

「ミラ。気持ちは分かるけど、今はお客さんの前だよ」

「……っ! し、失礼しました……」

すぐにミラは我に返り、俺たちの方へ頭を下げる。

「生徒会から外したいなら勝手に外せよ。俺はそれで構わないぜ」

「……残念だけど、今のところそのつもりはないかな」

「ちっ」

バレンは分かりやすく舌打ちした。

会長が眉間の皺を揉みほぐす。

「バレン。一応訊くけど、君はその侵入者たちをただの不審者として処理したんだね?」

「ああ。それ以外に何かあんのかよ」

「実はその侵入者っていうのが、もしかしたら他国の工作員かもしれないっていう話が浮上していてね。だからできれば捕まえて欲しかったんだけど……」

「聞いてねぇもんは対応できねぇな」

先程からのやり取りを聞いた限りでは、バレンは生徒会の役員でありつつも、生徒会の活動にかなり非協力的なのだろう。噂通りの問題児というやつだ。

他国の工作員をみすみす逃したのは確かに痛い。だがバレンはどうやら、あの夜に倒した男たちのことを他国の工作員とは知らなかったようだ。

「……貴方が生徒会室に来ないから、連絡できなかったんです」

ミラが、恨みがましい目つきでバレンに言う。

「おいおい。そんなこと言うなら、生徒会に属していない生徒はどうなるんだよ。実際、そこにいる普通科の生徒は、何も事情を知らずに戦っていたんだぜ。なぁ?」

バレンが俺の方を見ながら言った。

役員たちの視線が注がれる中、俺は「まぁ」と肯定する。実際のところ事情は概ね把握していたが、少なくとも学園側から説明を受けたわけではない。俺の前職が特殊なものでなければ、バレンの言う通りだっただろう。

「てめぇらだけで解決できない問題なら、とっとと学園全体に周知させりゃあいいだろ。こんな狭い部屋で内々に処理する方がおかしな話だ」

「……そんなことをすれば、競技祭が中止になってしまいます」

「中止にすればいいじゃねぇか」

あっけらかんと言うバレンに、ミラは押し黙った。言い負かされたことが悔しいのか、その目尻には涙が浮かんでいる。

そんなミラを見て、今まで沈黙していた副会長が口を開く。

「……バレン。ビルダーズ学園の魔法競技祭は、政治的にも経済的にも……何より、国民が平和を実感するためにも重要なイベントよ。長い戦争が終わり、平和になった世の中を快く受け入れるためにも、私たちはこれをできる限り安全に開催する義務があるわ」

「はっ! その平和ってのは、所詮、国のお偉いさんが勝手に決めつけたもんだろうが」

そう言ってバレンは、会長を睨んだ。

「よぉ、イクス。部下を矢面に立たせて、てめぇはだんまりか」

「……部下が優秀だから、僕の言いたいことを代わりに言ってくれているんだよ」

視線を下げたまま、会長は言った。

「てめぇ、また繰り返す気か?」

バレンの様子が豹変する。

怒りを込めたバレンの言葉を、会長は黙って受け流した。

「はっ! 相変わらずの秘密主義だなァ。てめぇはそうやって、誰かのためとか言いながら、いつも肝心なことだけは伏せる。…… 姉が死んだことすら(・・・・・・・・・) 、秘密にする糞野郎だからな」

「バレン――ッ!!」

その発言の何かが問題だったのだろう。

今まで落ち着いた態度を保っていた副会長が、大声で叫んだ。

会長を睨むバレン。バレンを睨む副会長。生徒会室に、一触即発の空気が立ちこめる中――。

「なんだか、よく分からないけれど」

沈黙を破ったのは、エリシアの溜息混じりの発言だった。

「曲がりなりにも生徒会なら、もう少し模範的な振る舞いをして欲しいわね」

こういう時のエリシアは強いな……と、素直に感心する。

その一言が切っ掛けとなり、危うい空気は霧散した。

「……すまない。話は以上だから、今日はもう帰ってくれ」

会長が頭を下げる。俺たちは無言で立ち上がり、部屋を後にした。

扉を閉める直前、バレンの声が聞こえる。

「魔法競技祭の開催も、普通科の設立も。全部、 平和の押しつけ(・・・・・・・) だ。……誰もが受け入れられると思うなよ」

怒りに満ち溢れたバレンの言葉は、暫く記憶から消えそうになかった。