軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編3、マリーの婚約者

大公領の開発に精を出していたある日。王都の屋敷に戻ると、王立学校に通っているマリーから応接室に呼び出された。

「マリー、どうしたの?」

「お兄様、お話があります」

マリーは最近、大公家の子女としての振る舞いに完全に慣れてしまったようで、昔みたいに無邪気な笑顔を見せてくれることが少なくなった。

少し……いや凄く寂しいけど、マリーの成長を喜ぼうと毎回自分に言い聞かせている。

「なんでも聞くよ」

向かいのソファーに腰掛けると、マリーはキリッとした真面目な表情で、衝撃的な言葉を口にした。

「私の婚約者は決めないのですか?」

こ、こんやく、しゃ……?

「な、な、なんで、突然そんなことを……!? もしかして好きな人でもできた!? 誰かに言い寄られたとか!? よしっ、お兄ちゃんがそいつをボコボコに――」

「違います」

焦って俺が立ち上がったところに、マリーの鋭い声が刺さった。

「お友達とお茶会をしたら、皆さん婚約者がいたのです。私も婚約者とカフェデートをしたいです!」

拳を握りしめてそう宣言するマリーは、なぜかやる気満々だ。

「……お兄ちゃんとカフェに行くのじゃダメ?」

「それはデートじゃないです」

「……婚約者はまだ早いと」

「お兄様が断るのであれば、自分で相手を探します」

マリーの目は本気だった。しばらくどうすれば諦めてくれるかと考えてたけど……マリーもいつかは婚約者を作って結婚する時が来るのだから、ずっとマリーに一人でいてもらうことなんてできない。

それにそもそも、マリーが望んでることを叶えないのも違うよな……。

「分かった。でも一つだけ条件がある」

俺がそう伝えると、マリーはごくりと喉を鳴らした。

「なんでしょうか」

「――家では大公家子女の仮面を脱いで、俺とはただのマリーとして今まで通り接すること!」

ためにためて宣言すると、マリーはガクッと体を傾かせた。

「……お兄ちゃん、そろそろ妹離れしたほうがいいよ?」

マリーが普通に話してくれたことで、俺の気分は急上昇する。

「俺はもう決めたから、妹離れはしないって」

「……宣言するようなことじゃないと思う」

そう呟くと、マリーは切り替えるように顔を輝かせて前のめりになった。

「それで、私の婚約者を探してくれるんだよね!」

「まあ、約束したから、仕方ない……かな。ただ家柄が良くて性格が良くて俺と仲良くできてマリーのことを自分の命よりも大切にしてくれて頭が良くて腕っぷしが強くてマリーを絶対に幸せにしてくれると確信できるやつじゃなきゃダメだ!」

一息にそう告げるとマリーは溜息を吐きかけたけど、何かを思いついたのかパァッと顔を明るくした。

「私、一人だけ心当たりあるよ!」

この条件に当てはまる人に心当たりがあるなんて……自分で言うのもなんだけど、無理難題だと思う。

「それは、俺が知ってる人だったりする……?」

緊張しながら問いかけると、マリーは満面の笑みを浮かべながらその名前を口にした。

「うん! リュシアン様!」

マリーから名前を聞いた瞬間、俺は衝撃を受けて固まってしまった。リュシアンは、全く候補として考えていなかったのだ。

でも悔しいことに、俺の出した条件をクリアしてる気がする。しかも婚約者がいなくて探してるって言ってたはずだ。

「た、確かに、リュシアンはいいやつだし、家柄的にもマリーと合うし、その他の条件も全て満たしてるけど……」

リュシアン、なんでまだ婚約者がいないんだ!!

「そうだよね! じゃあリュシアン様に話をしてみてくれる?」

「……マリーは、リュシアンでいいの? そんなに無理やり決めなくても、これから好きな人が現れるかもしれないし」

最後の足掻きとそう問いかけてみると、マリーからカウンターを食らった。

「うん! だって私、リュシアン様のこと好きだもん!」

「そ、それは、友達的な? 兄妹的な……?」

「うーん、確かにお友達としても好きだけど、リュシアン様はカッコいいし優しいし好きにならないほうがおかしくない?」

マリーが大人になってる……!

俺は涙を呑みながら、マリーの言葉にぎこちなく頷いた。

「た、確かに、そうかも」

「でしょ? でもリュシアン様、私じゃ嫌かなぁ」

そう呟いたマリーがなんだか寂しげに見えて、俺は思わずマリーの肩をガシッと掴んで言ってしまった。

「そんなことあるわけない! マリーが嫌な人なんてこの世界にいるはずない!」

「ふふっ、お兄ちゃんありがと。じゃあリュシアン様に話をしておいてね!」

そう言って席を立つマリーの表情は満面の笑みだ。なんだかマリーの手のひらの上で転がされてる感じがしなくもないけど、もう諦めることにした。

俺はマリーには一生勝てないから。

「――とりあえず、リュシアンのところに行くか」

嫌なことは先に済ませようと、自室に戻ってからすぐにタウンゼント公爵領へ向けて転移をした。