軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ

季節は流れて俺は十八歳になった。魔物の森は駆逐し終わり、ミシュリーヌ教が世界中に浸透し、ここ数年はとても穏やかで楽しい日々を過ごしている。

「レオン様、そろそろご到着される頃かと」

大公領の領主邸で緊張しつつコーヒーを飲んでいた俺に、ロジェがいつも通りの口調で声をかけてくれた。

今日はついに――マルティーヌが領地に越してくる日なのだ。

すでに国中の貴族や国外の王族までも招待した正式な結婚式は済ませてあるけど、今日はここ大公領でもっとカジュアルな、仲の良い人たちだけを呼んだ披露宴をすることになっている。

「ロジェ、最後に身嗜みを確認してくれる?」

「かしこまりました」

頭のてっぺんからつま先までロジェに確認してもらい、問題ないと太鼓判を押してもらったところで、俺は深呼吸をしてから部屋を出た。そして向かったのは……領主邸の敷地内に造られた、巨大なパーティー会場だ。

この披露宴のためだけに皆が張り切って、数年前から時間をかけて建設されたので、とにかく豪華で美しい。

壁面や天井には計算され尽くしたガラスが嵌め込まれ、会場の中は日が出ている時間ならばいつでも明るく輝いている。

そんな会場の入り口に向かうと、ちょうど領主邸がある丘の上に向けて登ってくる馬車が見えた。とても豪華で可愛らしい馬車は、マルティーヌのものだ。

もう夫婦となったのに、なんだか緊張しつつ馬車をじっと見つめていると、ゆっくりと会場前で止まった馬車からマルティーヌが降りてきた。俺はその美しさに、思わず息を呑む。

俺からウェディングドレスの話を聞いたマルティーヌが今日のために仕立ててくれた、総レースの純白ドレスだ。日の光に照らされて、キラキラと輝いている。

「レオン、お待たせ」

「……マルティーヌ、凄く綺麗だ」

「ふふっ、ありがとう」

マルティーヌに手を差し出してエスコートすると、マルティーヌは優雅に、しかし嬉しそうな素の笑顔を滲ませた。

「……昨日は大丈夫だった? 一番良い部屋を準備したんだけど」

「とても快適だったわ。皆さんがよくしてくださって、お料理も美味しくて。大公邸に着いてそのまま披露宴が良いだなんて、わがままを聞いてくれてありがとう」

「マルティーヌのわがままなら何でも聞くよ」

「ふふっ、なんでもだなんて言ってはダメよ。私がとても悪ーいことを頼むかもしれないわよ?」

イタズラな笑みを浮かべて俺の顔を見上げたマルティーヌの様子に、俺の緊張はするすると解けていく。

「ははっ、それは困るかも」

俺とマルティーヌはいつものように笑みを向けあって、二人で会場の入り口に向き直った。招待した皆は中で待ってくれているので、後は俺たちが入ればパーティーは開始だ。

「じゃあマルティーヌ、行こうか」

「ええ、行きましょう」

ロジェとエミールが扉を開けてくれて、俺はマルティーヌと一緒に一歩を踏み出した。

俺たちが会場に入ると、集まってくれた皆からの大きな拍手が送られる。こんなにたくさんの人が集まってくれるなんて、本当に幸せだよな……。

会場の一番奥までゆっくりと歩き、二人で壇上に上がって会場全体を見回した。

「今日は俺とマルティーヌの結婚披露宴に集まってくれてありがとう。堅苦しいものじゃないから自由に話して食べて飲んで、楽しく過ごしてほしい」

「皆さんありがとう。これからは私も大公家の一員になります。よろしくお願いします」

俺たちの軽い挨拶が終わると、さっそくそれぞれのテーブルに飲み物と食事が運ばれ始めた。俺たちはそれが一旦落ち着いたところで、二人で一緒に会場を回っていく。

まず向かったのは、マルティーヌの家族がいるテーブルだ。さすがに王族全員が来ることはできなかったようで、アレクシス様だけはいないけど、エリザベート様、ステファン、クレメントは来てくれている。

「二人とも、改めておめでとう。マルティーヌ、とても綺麗よ」

「お母様、ありがとうございます」

「レオン、マルティーヌを頼んだぞ」

「もちろん。幸せにするよ」

「姉上、義兄上、おめでとうございます」

まだ幼さが抜けきらないクレメントの背伸びをした挨拶に皆が頬を緩め、とても和やかな雰囲気となった。

それから少しだけ談笑し、次に向かったのは俺の家族とタウンゼント公爵家の皆さんのところだ。

「マルティーヌさん、とても素敵ね」

母さんが瞳を輝かせてマルティーヌに笑顔を向ける。

「ありがとうございます。このドレス、とても気に入っているんです」

「お姉様、とても綺麗です」

マリーが母さんと似た瞳でマルティーヌを見上げると、マルティーヌは優しい笑みを浮かべて、マリーの隣にいるリュシアンに視線を向けた。

「マリーちゃんも二年後までに純白のドレスを仕立てたら良いわ。ね、リュシアン?」

「ああ、いくらでも仕立てると良い」

「本当ですか! ではさっそく仕立て屋に連絡しなくては」

「マリーちゃんは私のドレスより、もう少し腕の部分などがふんわりとした形が良いかもしれないわね。マリーちゃんはとても可愛らしいから」

マルティーヌとマリーが楽しそうに会話をしている中、リュシアンは俺に綺麗な笑みを向けた。

「レオン、おめでとう。私たちもこうした披露宴を開く予定だから出席してくれよな。義兄上?」

うぅ……絶対に楽しんでるよ。リュシアンはまだ俺がマリーの婚約を完全に受け入れてないことを知っていて、こうしてからかってくるのだ。

いや、俺だってもうほとんど受け入れてるんだ。相手がリュシアンなんて考えられる限りで最高の相手だと思う。マリーは楽しそうだし、リュシアンはマリーを幸せにしてくれるだろうし……でも可愛い妹が結婚して別の家に入ってしまう寂しさはどうしても残る。

「……もちろん出席する」

「ははっ、よろしくな」

それからリシャール様やフレデリック様、クリストフ様たちとも話をして、俺たちはまた別のテーブルに移動した。

「お二人とも、来てくださってありがとうございます」

「当然じゃろう? レオンの晴れ姿だからな」

「マルセルは数日前からそわそわしておったぞ」

「ロンゴ! 余計なことを言うな!」

二人はいつも通りの掛け合いで、まだまだ元気な様子だ。俺はそんな二人の様子に嬉しくなって、笑いながらマルティーヌと顔を見合わせた。

「二人と会うと王立学校時代に戻る感じがするよ」

「分かるわ。魔法具研究会、懐かしいわね」

「お二人ならいつでも大歓迎ですぞ」

「ありがとうございます。王都に行く時には顔を出しますね。もちろんマルセルさんの工房にも」

「楽しみにしておる」

王立学校なんてマリーが卒業してからは一度も行ってないな……ちょっと楽しみかも。最近は平民の学生もかなり増えてるらしいし、雰囲気が変わってるかな。

そんなことを考えながら次のテーブルに向かうと、そこにいるのはロニーとステイシー様だ。二人は一年前に結婚していて、基本的には王都で暮らしている。

「レオン様、マルティーヌ様、この度はおめでとうございます」

「レオン、おめでとう。マルティーヌ様も、おめでとうございます」

祝いの言葉を伝えてくれた二人の雰囲気がなんだか似ているように感じて、俺は安心して頬を緩めた。二人の結婚はステイシー様……というよりも、ピエール様とキャロリン様の激推しによるものだったから、上手くいくのか少し心配していたのだ。

「二人ともありがとう。これからもよろしくね。特にロニーはしばらく領地に来てもらうことになるかも」

「え、そうなの? 何かあったっけ?」

「新たに始める事業の文官が足りなくて、応援に来て欲しいんだ」

「そういうことか。分かったよ」

ロニーはすぐに頷いてくれて本当に頼もしい。今ではロニーは、大きくなったジャパーニス大公家の文官室副室長だ。

「じゃあまた後で」

「了解」

『主人、我にケーキを追加してくれ』

二人のテーブルから離れたところで、会場の端を大きく陣取ったファブリスに声をかけられる。今日のファブリスにはスイーツも食事も食べ放題と伝えているからか、さっきから凄い勢いだ。

「ちょっと待って。給仕を呼ぶから」

『うむ。早めにな』

「はいはい」

俺はこんな時にも自分のペースを崩さないファブリスに苦笑を浮かべつつ、給仕が来るまでの間にとアイテムボックスからいくつかホールケーキを取り出した。

「どうぞ。これ食べて少し待ってて」

『了解した』

『レオン……! 今日は最高の日ね! 毎日披露宴を開きなさい!』

ファブリスから離れてやっと挨拶回りに戻れると思ったら、今度はミシュリーヌ様だ。

「ミシュリーヌ様、披露宴は結婚した時の一回のみです」

『な、な、なんてことなの……! それなら話してる時間も惜しいわ! 今日は食べまくるわよー!』

荒い鼻息が聞こえてきそうなミシュリーヌ様からの声は、一方的に切れた。ミシュリーヌ様、やっぱり自由だ。

「話は終わった?」

「うん、凄く勝手な二人でごめん」

「気にしていないわ。お二方のおかげで私たちは幸せに暮らせているのだもの」

わがままな二人をそんなふうに言ってくれるだなんて、本当にマルティーヌは優しくて可愛くて心が綺麗で、最高のパートナーだ。

「マルティーヌ、ありがとう」

「こちらこそ、いつもありがとう」

マルティーヌの優しい笑みに俺も笑顔になり、俺たちは二人で挨拶回りに戻った。

そしてそれからもたくさん知り合いのところを回り、とても楽しくて幸せで、一生記憶に残るであろう披露宴は終わった。

平和で便利になった世界で、大切な人たちに囲まれて、隣にはマルティーヌがいて、俺は本当に幸せだ。

―完―