軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

466、二冊の本

タウンゼント公爵領で目覚めた俺は朝食を食べて少しだけ休んだら、帰還の挨拶をするために屋敷を回った。最後はリュシアンとアルベール様だ。

「昨日はありがとう。楽しかったよ」

「こちらこそ来てくれてありがとな。楽しかったぞ」

「また来るからよろしくね。アルベール様もまた」

「はい! またいつでも来てください!」

二人に手を振ってロジェとローランが隣にいることを確認してから転移を発動すると……一瞬後には、王都の大公邸にある私室にいた。

「うぅ〜ん、久しぶりに凄く楽しかったな」

マルティーヌとデートしてリュシアンと遊んで、ここ最近の疲れが完全に抜けた気がする。やっぱり休養は大事だな。

「ロジェ、今日の予定って王宮に行く以外は何かあるんだっけ?」

「いえ、特にございません。一応午後には領地へお戻りになられるとレオン様が仰っておりましたが、変更可能でございます」

「そっか。じゃあ魔力も使っちゃったし、今日はこのまま王都にいるよ」

「かしこまりました。そのように手配しておきます」

「よろしくね」

今日の午後は……せっかく王都にいるし、忙しくて後回しにしていたことに着手するかな。マルセルさんの予定が空いているか、エミールに聞いてきてもらおう。

王宮でアレクシス様の側近としての仕事をこなした俺は、お昼には屋敷に戻り昼食を家族皆と一緒に食べた。そして午後、まず向かったのは……神界だ。

「ミシュリーヌ様、こうして会うのは久しぶりですね」

「確かにそうかしら? 意外と来てなかったかもしれないわね。今日は本を読むのでしょう?」

「はい。夏と秋の分を溜めてしまっていたので」

シェリフィー様からもらった日本の本。一応神界では読んだんだけど、読んだ内容を下界で形にする時間がなくてずっと後回しにしていたのだ。

夏にもらったのが精米機の仕組みに関する本で、この世界でも魔道具で再現しようと思っている。そして秋にもらったのが醤油や味噌など、日本で昔から作られていた調味料の作り方が載っている本だ。

まずは精米機の方からだけど、醤油や味噌もできる限り早めに研究したいよな。でもそのためには領地に専用の施設を作らないといけなくて、そんな余裕は今のところ全くない。

大規模にはできなくても屋敷の庭で小さくやる程度なら始められるかな……今度ティエリとアルノルに相談してみるか。

「今回の本はあんまり興味ないのよね〜」

「ミシュリーヌ様の興味は甘いものばかりですよね」

「もちろんよ。今の一番の興味はヨアンが開発を始めた和菓子ね。ずっと待ってたのよ……!」

ミシュリーヌ様は和菓子を思い浮かべているのか、だらしない顔で宙を見つめている。

ヨアンは最近になってやっとチョコレートの出来に満足してきたようで、和菓子開発にも手を広げ始めたのだ。和菓子のレシピについては俺が本の内容を読んでメモを作ったものを渡してあるので、そのうち美味しいものを作り上げてくれると思う。

「ヨアンを急かしたりしないでくださいね」

「分かってるわよ。神託なんてしないわ」

「……その言葉が出てくるところが怪しいです」

「そ、そんなことないわよ! 神託なんて考えたこともないわ!」

絶対に考えてたな……ミシュリーヌ様からの神託なんて届いたら、ヨアンが寝る間も惜しんで無理をすることが目に見えている。

「ミシュリーヌ様、一番作ってもらいたい和菓子をヨアンに伝えましょうか?」

一つでも出来上がればそれでしばらくは満足してくれるだろうと提案すると、ミシュリーヌ様は人生最大の選択を下そうとしているかのような真剣な表情で考え込んだ。

「やっぱりどら焼きかしら。いや、お饅頭も捨て難いわね。団子も食べたいし、大福も……」

しばらく決まりそうになかったので待っている間に本を読もうと決めた俺は、棚から勝手に本を取り出してソファーに腰掛けた。

精米機の仕組みに関しては一度読んだけど、もう一度大事なところをまとめておこう。

それから体感にして一時間ほどじっくりと本の内容を確認していると……突然ミシュリーヌ様の叫び声が耳に届いた。

「決めたわ!!」

「……びっくりするので突然の大声はやめて下さい。それで、何にしますか?」

「どら焼きにするわ! 他のものも捨てがたいけれど、やっぱりどら焼きの他では味わえない甘さと食感と……」

「分かりました。ヨアンに伝えておきますね」

どら焼き賛美が長くなりそうだったので途中で切ると、それでもミシュリーヌ様は全く気にしていないようで嬉しそうに頷いた。

「レオン、ありがとう……!」

「いえ、このぐらいはいつもお世話になっているので当然です。ではミシュリーヌ様、ヨアンはこれからどら焼き作りに集中するので、邪魔はしないようにお願いします」

「もちろんよ! それでレオンは進んだの? それは米を美味しくする機械なんでしょう?」

ミシュリーヌ様が本とメモ用紙を覗き込んだので、俺は本に書いてあるイラスト部分を指差しながら頷いた。

「はい。こういうのを作ろうと思ってます」

「ふーん、そうなのね」

「……本当に甘いもの以外への興味は薄いですね」

「そんなことないわよ。でもスイーツの方が何倍も好きっていうだけね」

そこまでの重いスイーツ愛を持ち続けられるのも凄いよな。俺は結構飽きっぽいから、何かにハマったとしても半年後にはそこまで好きじゃなくなっていたりする。

「ミシュリーヌ様、このメモの内容を今日の午後に聞くかもしれないので、その時は読み上げてもらえますか?」

「分かったわ。任せなさい! ……ご褒美にスイーツを食べても良いかしら?」

瞳を輝かせながら俺の顔を下から覗き込むようにして聞いてきたミシュリーヌ様に、俺は思わずため息が漏れた。

「……ホールケーキ三個です」

「本当!? レオンありがとう!」

ミシュリーヌ様って本当に神様らしくないよな……俺は改めてそれを実感しつつ、そんなミシュリーヌ様が嫌いじゃないという事実に頬が緩む。

「じゃあ俺は下界に戻ります。午後はよろしくお願いします」

「ええ、もちろんよ!」