軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

436、秘密の鍛錬

降誕祭が終わってから数日が経ったある日。俺はマルティーヌとの約束を果たすために、転移でこっそりと王宮を訪れていた。その約束とは、王都の外で一緒に鍛錬をするというものだ。

この前のお茶会の時に日時と時間を定めていたので、その時間ぴったりに転移をした。

「マルティーヌ、お待たせ」

指定の場所、マルティーヌの部屋の中に転移をすると、中にはメイドさんが一人と護衛の女性が一人いるだけだった。一応マルティーヌをこっそりと連れ出してのデートなので、騒ぎにならないようにごく少数の側近にしか今日のことは伝えていないのだろう。

「レオン、来てくれてありがとう!」

マルティーヌはやる気十分な様子で、訓練着に身を包み髪はポニーテイルにして括っている。このマルティーヌの姿は久しぶりに見るな……やっぱりこの姿はいつもとギャップがあって良い。

「当然だよ。今日は抜け出しても大丈夫?」

「ええ、特に予定はないわ。夕食までは部屋で刺繍をやっていることにしてあるから、それまでに戻ってくれば大丈夫よ」

「了解。それなら三時間はあるね。さっそく行こうか」

俺が差し出した手を、マルティーヌは嬉しそうな笑みを浮かべながら取ってくれた。俺はそんなマルティーヌの様子に頬を緩めながら、二人一緒に転移を発動した。

転移先は王都周辺の森の中だ。それもかなり奥の人が入らない場所。

マルティーヌと鍛錬をするにあたって事前に下見に来て、人目につかない良い場所を探しておいたのだ。そして俺が見つけたのが、川のほとりのこの場所だった。

「わぁ、とっても綺麗ね」

「喜んでもらえて良かった。この川はちょうど良い大きさで綺麗だよね」

「ええ、川が流れる音も良いわね」

マルティーヌは川のせせらぎに耳を傾けながら、森の中をぐるりと見回した。この場所はもちろん草は綺麗に刈ってあるし、木も邪魔なやつは切らせてもらった。

さらに周辺の景色が良くなるように適度に草を刈って木を伐採し、太陽の光がちょうど良く差し込むようにしてある。

俺がやったんだけど、改めて見にくると綺麗に整ってるな……木々が鬱蒼と生い茂った森でデートとか微妙なので、頑張って良かった。まあデートっていうよりも鍛錬なんだけど。

「やっぱり自然の中に来ると気持ちが落ち着くわね。人の手によって完璧に整えられた庭園とは違うわ」

それは分かるな……庭園って綺麗でたまに見るのは良いんだけど、毎日見てると飽きてくるというかなんというか。もう少し手を入れないでほしいと思ってしまうのだ。

庭園は基本的に少しでも伸びたら切り揃えられてしまうから、日々景色が変わらないのも飽きる原因だと思う。

だからといって、大公家の屋敷の庭で植物を伸ばしっぱなしにしておくわけにはいかないことも分かってるので、無茶なことは言わないようにしてるけど。

「さっそく鍛錬しようか」

「ええ」

「布を敷くからストレッチからね」

アイテムボックスから分厚めの布を出して、マルティーヌの服が汚れないように配慮し、ストレッチを始める。

「マルティーヌって普段は一人で鍛錬してるんだよね?」

「そうよ。王立学校を卒業したし、もう鍛錬はやらなくても良いって言われてるんだけど、健康のためにもやってるわ」

「そうなんだ。絶対にやった方が良いと思うよ。激しい運動はいらないかもしれないけど、ストレッチと体力作りぐらいは」

「これからも続ける予定よ。美味しいスイーツを食べ過ぎて、動かないと太ってしまうもの」

確かにそうなんだよね……俺はちょっとだけ罪悪感を覚えた。貴族全体が太って不健康になったら、俺のせいかもしれない。ここは責任持って低カロリーなスイーツを考えようかな。

「よしっ、もう良いわ。じゃあレオン、手合わせをしない?」

「木剣で? もちろん良いよ!」

やる気十分なマルティーヌの様子に嬉しくなり、俺はアイテムボックスから木剣を二つ取り出した。そして一本をマルティーヌに手渡す。

そこからは真剣にマルティーヌと手合わせをした。マルティーヌは毎日コツコツと鍛錬しているだけあって、力はないけど技術は高かった。俺も大いに学ぶところがある、良い鍛錬になった。

一時間ほど木剣を振るって二人ともが汗を流し始めた頃、鍛錬をやめて休憩することにした。アイテムボックスからテーブルと椅子を出して二人で座り、鍛錬して体が温まっているので冷たいジュースを飲む。

「これ美味しいわね」

「本当? 良かった。果物をいくつか混ぜたミックスジュースなんだ。ヨアンが一番合う組み合わせを考えてくれて」

「そうなのね。今まで飲んだことがない味だから、どんな果物かと思ったのよ」

「全部普通に売ってる果物だよ」

マルティーヌはミックスジュースをまじまじと見つめてから再度口に運び、味わいながら頬を緩めた。

「気に入ったならレシピを渡そうか?」

「良いのかしら……」

「マルティーヌになら大丈夫だよ。これは売り物にする予定もないから。果物の組み合わせだけだしね」

「それなら、いただくわ」

「じゃあ後で紙を渡すよ」

「ありがとう」

そんな話をしながら森の中で優雅に休憩をして、疲れが癒えたところでテーブルと椅子を仕舞った。そしてこれからどうするか二人で相談をする。

「まだ一時間ぐらい時間はあるけど、どうする?」

「……もしレオンさえ良ければ、もう少し帰りたくないわ」

「了解。俺はもちろんいつまでも大丈夫だよ」

俺のその返答を聞いて、マルティーヌは嬉しそうな笑みを浮かべた。

「川で釣りをすることもできるし、服を着替えて王都の外れを歩くこともできるよ。後は……農業地帯にも行けるかな」

「それなら釣りをしたいわ!」

「釣りね」

釣りをするのなんてマリーとして以来かもしれない。俺は楽しそうなマルティーヌに釣られて笑顔になりながら、アイテムボックスから釣竿を取り出した。

「釣り竿って初めて見たわ」

「前にマリーとやったことがあって、その時は釣り竿がなくて苦労したから買ったんだ。この針に餌となる虫をくっつけるよ」

「そうなのね。頑張るわ」

それからマルティーヌは驚異の釣りの才能を発揮し、まさかの短時間で三匹も釣り上げるという結果になった。

ちなみに俺はゼロだ。まあ、これが普通だよね……と思いたい。

マルティーヌが釣った魚はせっかくなので、二人で塩焼きにして美味しく食べた。素人が捌いて塩味だけの焼き魚は、普段食べてる料理と比べたら美味しさは劣るのだろうけど、自分達で釣ったということと二人だけで森の中にいるという状況、それらが作用して本当に美味しかった。

またマルティーヌと遊びに来たいな。そう思いながら、満足した気持ちで王宮に転移した。