軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 降誕祭の特別な神託(ミシュリーヌ視点)

今日は降誕祭の当日。クレープが食べ放題の日! のはずだったんだけど、私はこの前の前夜祭で好きなだけクレープを食べたから、今日は五個までしかダメだとレオンに止められたわ。

まあ前夜祭で目一杯楽しんだから良いんだけどね、凄く美味しかったのを覚えてるから良いんだけどね。

――うぅ、泣きたい。下界の皆があんなにクレープを楽しんでるのに、なんで私は五個だけなのよぉぉ!

「とりあえず、気を紛らわせるためにもいつも通り神像を光らせようかしら」

そう考えた私は、ラースラシア王国の王都中心街にある教会の様子を映し出した。礼拝堂の中には、いつもより大勢の人がひしめき合っている。

「光れっ!」

いつもより光を強く大きくして、降誕祭の特別感を出すようにしてみると、神像が光った途端に礼拝堂の中にいる全員が一斉に跪いた。

こんなに私が信仰されてるなんて、少し前には信じられなかったわ。完全にレオンのおかげよね……感謝しないと。レオンのおかげでこの世界は存続できそうだし、私は美味しいスイーツを食べられてるんだから。

さて、今日もいつもみたいに誰かに神託をしようかしら。でもいつもと同じだと特別感がないわよね……

私のいつもの神託はちょっとした悩みにアドバイスを与えたり、夫婦喧嘩をしたとかそんな程度の争いを解決したり、そのぐらいしかできていない。私は下界の個人に直接干渉することができないから、解決する方法がないことが多いのよ。

だけど降誕祭の日ぐらいはもう少し重い悩みを解決してあげても良いわよね……レオンにも特別にしてって言われてるし。

「あれ、あの子また来てるのね」

礼拝堂の中を写している映像に、ふと気になる男の子が目に入った。あの子は私が定期的に人々の祈りを聞くようになった最初の頃から、ほぼ欠かさず来ているのだ。

多分レオンと同じぐらいの歳で、今日は妹も連れて来ている。

――ミシュリーヌ様、母さんの病気を治してほしい。お願いします。

「いつもこの願いなのよね……私には下界の人間の治癒なんてできないから、いつもはスルーしてるんだけど、降誕祭の日ぐらいこの願いを叶えても良いかしら。レオンに頼めば治せるだろうし」

今のレオンは何をしてるのか確認しようと思って大公家の屋敷を見てみると、ちょうどエントランスに馬車が入ってきてレオン達が降りてきたところだった。

どこかに出かけて帰ってきたのね、ちょうど良いわ。

私は少しだけ待ってレオンが私室に入ったのを確認してから、レオンに向かって声をかけた、

「レオン、聞こえるかしら。レオン?」

「あれ、ミシュリーヌ様ですか?」

問題なくレオンに声が届いたようで、レオンは神物である本を取り出して手に持った。これで問題なく会話ができる。

「何かありましたか?」

「一つ相談があるのよ。今日は私の降誕祭じゃない? だからいつもと違った特別な神託をしたいと思ってて、だけど私の力だけだと無理だからレオンに手伝って欲しいの」

「特別な神託って、何をするんですか?」

「母親の病気を治してほしいって願いを聞き入れようかと思って。あっ、レオン。あの子達が礼拝堂から出ちゃうから下界の時を止めるわね! その代わりレオンを神界に呼ぶわ!」

私はレオンにそう伝えると、すぐに下界の時間を最大限に遅くした。ふぅ……間に合って良かったわ。いつもはもっと長く祈ってるのに、今日は混んでるから周りに流されそうになったみたいね。

「ミシュリーヌ様、間に合いましたか?」

下界の時間を遅くしたのと同時に呼び寄せていたレオンが来たみたいで、慣れた様子でソファーに座って私が見ていた画面を覗き込んだ。

「ええ、間に合ったわ。ここに兄妹がいるのが分かる?」

「分かります。俺とマリーぐらいの歳ですね」

「そうなのよ。この子達がもうずっと、ここの礼拝堂に祈りに来てるの。私では叶えられない願いだから神託相手に選んだことはなかったんだけど、降誕祭の日ぐらい特別に良いかなと思ってレオンに相談したのよ。レオンが特別感を出すようにって言ってたでしょう?」

私がそう話をすると、レオンは痛ましい表情を浮かべて二人を見た。レオンは優しすぎるのよね……それが良いところだけど、自分を追い込むこともあるはずだわ。

「降誕祭に起きた奇跡ということになると思いますし、ミシュリーヌ様への信仰心も上がって良いと思います。俺がこの子達の母親を治せば良いのですね」

「ええ、頼んでも良いかしら?」

「もちろんです。家は分かりますか」

それからレオンはこの子達の家を聞くと、転移できるようにその内部までしっかりと確認してから下界に戻っていった。私はレオンが戻ってから、下界の時を通常に戻して兄妹に神託をする。

「聞こえるかしら? そこの男の子よ。赤い髪を短く切りそろえて、左膝と右足の裾に別の布を貼り付けた服を着てるあなたよ」

男の子の特徴を示しながら声をかけると、男の子はきょろきょろと辺りを見回してから、光らせたままの神像に視線を向けた。

この子の家は中心街の外にある貧しい人達が住むアパートなのに、ここまで定期的に歩いてきてるだけで凄いわよね……私が覚えてるほどのその努力が、あなたの母親を救うのよ。

――俺のこと?

「そうよ。あなたに神託を授けるわ。あなたの母親を思う強い愛情とここに足繁く通う努力、その二つによって母親の病気を治しましょう」

私はそこまでを伝えると神託を切った。シェリフィーに教えてもらったんだけど、神託は長く話せば良いってものでもないらしいのよ。このぐらい端的に情報だけ与えるほうが、神聖視して信仰心が上がるみたい。

私のその言葉を聞くと、男の子は妹の手を引き、慌てた様子で礼拝堂を出ていった。

「レオン、男の子達が家に帰っていったわよ」

家で鉢合わせないようにと思ってレオンに伝えると、レオンからはすぐに返事が返ってきた。

「大丈夫です。さっき母親を治してもう屋敷に戻ってきました」

「……早いわね」

「転移なら一瞬で行けますから。さっき神界で見た限りでは母親が寝てるみたいだったので、ちょうど良いと思って。姿を見られることなく治癒できましたよ」

「それなら良かったわ。レオン、ありがとう」

「いえ、また何かあったら言ってください。あっ、でもこれからマルティーヌが来るので、緊急なこと以外は後回しでお願いします」

レオンは嬉しそうなのが分かりやすく伝わってくる、浮かれた声音でそう言った。レオンはあの王女様のことが本当に好きよね……

「分かったわ。じゃあまたね」

そうしてレオンとの通信は終わりにして、私は神界にあるソファーに腰掛けた。ここからは私もお楽しみタイムだ。

「神像は光らせてるし神託も済ませたし、満を持してスイーツを食べるわよ!」

私はこの世界に作り出されたスイーツの数々を思い浮かべ、五個という制限の中でどれを選ぶのか吟味を始めた。やっぱりスイーツは最高ね、考えてるだけで幸せになれるわ!