軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

410、帰路

次の日の朝。遂に今日はヴァロワ王国を出立する日だ。俺はいつもより早めに起きて準備を整え、代官邸のエントランスに向かった。するとそこにはラースラシア王国使節団が全員集まっている。そこまで広くない代官邸の庭は馬車や馬でいっぱいだ。

「皆様おはようございます」

「使徒殿、おはよう」

「陛下も見送りに来てくださったのですね。ありがとうございます」

まだ出立まで少し時間があるというのに、陛下達は全員集まっていた。それだけでラースラシア王国をどれだけ重視しているのかが分かる。

「改めて、此度は貴国と有意義な時間を過ごすことができて良かった。これからも関係を深めていけたらと思っている。貴国に何かあった時には、我が国は助力を惜しまないことを約束しよう」

「ありがとうございます。我が国も同じ気持ちです」

陛下が差し出した手のひらにマルティーヌも手を伸ばし、しっかりと握手を交わした。

「マルティーヌ王女殿下、使徒様、今回は本当にありがとうございました」

陛下の次に口を開いたのはフェリシアーノ殿下だ。フェリシアーノ殿下とは長い間一緒に行動してたから、ここで別れるのは少しだけ寂しい。

「我が国にも利益があったからこそですわ。これからもよろしくお願いいたします」

「はい。私が外交を担当していますので、これから先も関わらせていただくことは多いかと思いますが、よろしくお願いいたします」

「フェリシアーノ殿下、私がファブリスとこちらに来た時には、ぜひ一緒に食事でもしましょう」

俺のその提案に、殿下は笑顔で頷いてくれた。殿下とは馬車の中でも結構話したりしたけど、意外と話が合って楽しかったのだ。この人が外交担当というのも頷ける。

「ぜひご一緒させてください」

そして次には第一王子殿下とも挨拶を交わし、とても和やかな雰囲気で遠征は終了となり、俺達は馬車に乗り込んだ。そして大勢に見送られながら街を出て、ラースラシア王国に向かって馬車は軽快に走り出した。

馬車の中には俺とマルティーヌ、そして軍務大臣であるコラフェイス公爵がいる。ファブリスはいつものように近くを自由気ままに走っている。

「王女殿下、大公様、同乗させて頂きありがとうございます」

「気にしないでください。これからの予定を確認しなければいけませんから」

基本的に軍務大臣は騎乗で移動してたんだけど、俺達と話し合いが必要な時だけはこうして馬車に乗ることもある。それにしてもコラフェイス公爵様と話すのも久しぶりだ……軍務大臣という立場から基本的には騎士達と行動を共にすることが多かったので、俺達とは活動範囲が違ったのだ。

「行きとは少しルートが変わるのよね?」

「はい。旧チェスプリオ公国で発生しかけた内戦は事前に防いだようなのですが、未だに街中は荒れているようです。したがって旧チェスプリオ公国内は、街に寄らずに野営で通り過ぎたいと思っています」

ミシュリーヌ様がチェスプリオ公国で内戦が起きそうだと助言して、ヴァロワ王国はすぐに騎士を派遣したらしいけど、まだ反乱勢力を鎮圧しきってはいないみたいなんだ。ヴァロワ王国も魔物の森から周辺諸国との関係まで、気にしなきゃならないことが多くて大変だよね……

チェスプリオ公家はフェリシアーノ殿下の暗殺未遂を防げなかった上に、内乱まで許しちゃったんだから……代替わりしてヴァロワ王国の一貴族家になったとしても、この先は前途多難だろう。

こうして改めて考えると、ヴァロワ王国は問題が山積みだ。ヴァロワ王国が荒れるとコーヒーもカカオも香辛料も手に入らなくなるし……大変そうなら少しずつ助力しようかな。ミシュリーヌ教を国教にしてくれるなら、使徒として手助けする理由は十分だし。

「街に寄らなければ大丈夫なのね?」

「はい。街道を通る馬車を襲うほど、民は困窮していないようです」

「それならば良かったわ。では街に寄らずに通り抜けるルートで行きましょう」

軍務大臣が広げてくれている地図を見ると、少し遠回りになるけど、そこまで日程にも変化はなさそうだった。ただチェスプリオ公国内でも野営で、そこを通り抜けた後はしばらく草原を進まないといけないからまた野営になる。野営が続くから、慣れてない文官達の体力や精神状況には気を配ろう。

「それ以外は特に変更などはないでしょうか?」

「はい。いくつか宿泊する街や村が行きとは変わりますが、こちらは元々の予定通りです」

「分かりました。ではとりあえず、チェスプリオ公国を抜けてラースラシア王国に入るまでは、気を抜かずに行きましょう」

ラースラシア王国に入ればどうにでもなる。どうにでもなるというか、俺達の権力が最大限に使えるから問題が起きても対処が容易いのだ。

「王都に着いてからはどうするのかしら。出発前に決めなかったわよね」

「急いでいて帰国後のことについては何も決まっておりません。したがって王都に近づいたら早馬を出し、我々の到着を知らせる予定です。そうすれば陛下が指示を出してくださるでしょう」

「それもそうね。ではそこまで心配せずに、後は旅を楽しむわ」

「そうなさってください」

そうしてこれからの予定を大まかに話し合うと、軍務大臣は休憩で馬車が止まったタイミングで馬車を降りて行った。そして俺とマルティーヌ、それぞれの従者とメイドだけになった馬車内では、ゆったりとした旅を存分に楽しんだ。

そうしてそれから約二週間、途中で数日に渡り雨が続き少し大変だったけど、それ以外では特に問題もなく王都近くまで帰ってくることができた。今日の午前中には王都に着けるだろう。

今は朝食を終えてそろそろ出発しようかという時間で、俺達は昨日遣いに出した騎士が戻ってくるのを待っている。

「そろそろ戻ってくるかな」

「ええ、多分もう少しよ。お茶でも飲んで待っていましょう」

「そうだね。ただ甘いものは……やめておこうか。この旅で食べ過ぎてる気がするし」

俺のその言葉にマルティーヌは苦笑を浮かべた。行きでは緊張もあってそこまでスイーツを食べなかったんだけど、帰りは緊張感から解放されて、ついつい食べ過ぎてしまった。

「このままだと確実に太るわね」

「……だよね。ちょっと鍛錬を増やそうかな」

「私もそうするわ」

「今度一緒に運動する? たまには場所を変えても楽しいと思うよ。森の中で鍛錬するとか」

俺も最近は屋敷の訓練場で鍛錬しているだけで、森には行っていなかった。王都の外れにあった実家近くの森に久しぶりに行こうかな……あそこは思い出もたくさんあって好きな場所だ。

「それも楽しそうね。……じゃあ今度こっそり転移で連れて行って」

マルティーヌはメイドさんに聞こえないように、身を乗り出して俺の耳元でそう言った。ただメイドさんが後ろで苦笑を浮かべているのが見えるし、分かってて目を瞑ってくれるのだろう。

マルティーヌの楽しそうな笑顔を見る限りでは、マルティーヌもそのことに気づいているようだ。公然の秘密ってやつだね。

「了解。予定を合わせようか」

俺も話を合わせてそう答えると、マルティーヌは殊更に楽しそうな笑みを見せてくれた。

「ありがとう! 楽しみにしているわ」

そうして一緒に出かける約束をしたところで、ちょうど遣いに出した騎士が帰ってきたと報告が来た。