軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

408、コーヒー栽培

席に戻ると全員が話を止めて、俺が手に持っている残りのコーヒーの粉と、最後に追加でもらったコーヒーの実を興味深そうに見つめた。

「使徒殿、そちらはなんなのだ? 先程はずいぶんと盛り上がっていたようだが」

「これはコーヒーの実です。そしてこちらの粉はコーヒーの種を乾燥焙煎、粉砕した物です」

俺が説明しながら二つをテーブルの上に置くと、ロジェがそれぞれ少しずつを小皿に取り分けて、皆の前に置いてくれた。

「実は私がミシュリーヌ様から聞いたことがある果実でして、このように実を剥くと中から大きな種が出てきます。この種を乾燥させて火にかけて焙煎し、さらに細かく砕くとこちらの粉になります。こちらの粉から美味しい飲み物になるのです。先程はこの果物を見つけて、おもわず興奮してしまいました」

俺のその説明を受け、従者がそれぞれの香りを嗅いで問題なさそうだと判断したところで、陛下がまずはお皿を手に取った。そして粉に顔を近づけて香りを嗅ぐ。

「……独特な香りだな」

「本当ですね。今まであまり嗅いだことのないような、不思議な香りです」

「ただ、嫌いではないです」

陛下と殿下達がそんな会話をしている横で、マルティーヌもコーヒーの香りを興味深げに嗅いでいた。そして俺の耳元に口を近づけて、「前の世界にあったの?」と聞いてくる。

「そう。世界的に人気の飲み物だったんだ。お菓子にも使ったりできるよ」

小声でそう返すと、マルティーヌの瞳が輝いたのが分かった。……帰ったらコーヒーを使ったスイーツ開発もやろう。

「こちらの粉は、どのようにして飲み物になるのでしょうか?」

「ドリップという手法で淹れるのですが……今やってみますね。ロジェ、手伝ってくれる?」

「かしこまりました」

俺は見栄えを重視してロジェの助けを借りて、さっきよりも優雅にゆっくりとコーヒーを淹れた。そしてカップに少しずつコーヒーを注ぎ、それぞれ三種類ずつ振る舞う。

「お待たせいたしました。左がそのままのコーヒー、真ん中がコーヒーに牛乳を加えたもの、そして右がさらに砂糖を加えたものです。そのままのコーヒーはかなり苦くて人を選ぶのでご注意ください」

「ふむ、ではまずそのままのコーヒーから試してみよう」

毒味が終わったところで、陛下がまずはブラックコーヒーに手を伸ばした。そして香りを楽しんでから少しだけ口に含む。

「おおっ、確かに苦いな。しかし意外といける」

「うっ……に、苦いな」

「ほう、深い味わいですね」

陛下とフェリシアーノ殿下は好感触、第一王子殿下はダメみたいだ。俺もブラックコーヒーに再度挑戦して……うん、やっぱりこれは苦すぎる。うへぇ、口の中が苦さでおかしくなりそう。

「レオン、これが本当に人気だったの?」

マルティーヌはかなり苦手みたいで、潤んだ瞳で疑うように聞いてきた。俺はそれに頷いて小声で返す。

「本当だよ。でもこのまま飲むのが好きな人もいるんだけど、牛乳と砂糖を入れるのが一般的だったかな。だから真ん中のも飲んでみて」

「……分かったわ」

マルティーヌは決死の覚悟を決めたような表情で頷いた。しかしまだ踏み切れないようで、カップに手を添えて固まっている。俺はそんなマルティーヌをそっとしておくことにして、三人の方に向き直った。

「いかがでしょうか?」

「私は真ん中が好きだ。これは癖になる」

「確かに真ん中も良いですが、私は右ですね。砂糖の甘さが加わると苦さを感じなくなって美味しいです」

「私は左です。真ん中もありですが、左の何も混ぜていないものが一番味わい深い気がします」

面白いぐらいにバラバラだな。でもコーヒーは癖があるからもっと微妙な反応をされると思ってたけど、予想以上に好感触で少し驚く。

「気に入っていただけて良かったです。これは流行ると思いますか?」

「そうだな……少なくとも貴族には流行るだろう。お茶とはまた違った味わいのため、競合も起きない」

陛下がここまで言ってくれるなら本当に流行りそうだ。やっぱりコーヒーのポテンシャルって凄い。

「実はこの果物、貴国の領内に生えているようなのですが、貴国で栽培して特産品とするのはいかがでしょう」

俺が何気なく口にした提案に、今まで穏やかにコーヒーを楽しんでいた陛下がピシリと固まった。そして驚愕の表情で俺と視線を合わせる。

「難しいでしょうか?」

「い、いや、そうではない。その逆だ。使徒殿が見つけたのだから、その功績をそのまま我が国がもらうというのは……」

「ですが、元々貴国にある植物でしたので」

「いや、しかし、使徒殿がいなければ我々は使い道を見出せなかったのだ」

確かにその言い分も理解できるけど……俺が使い道を発見しただけで、その所有権を主張するのも微妙な気がする。

それにこの国じゃないと気候的に栽培が難しいだろうし。やっぱり大規模に栽培するなら、その植物に合った気候の地域が良い。

「では私からのお願いとして、貴国で栽培していただけませんか? ラースラシア王国で輸入したいのです」

「……本当に良いのだろうか?」

「もちろんです。あっ、私の領地でも栽培を試してみたいので、それも認めていただけるとありがたいです。ただやはり気候的には貴国の方がよく育つでしょうから、基本的には輸入させていただくつもりです」

コーヒーは利益が見込めるものだし、貴族向けなら高く売れるはずだ。俺もたくさん輸入する予定だし、ヴァロワ王国が不利になることはないだろう。

陛下は俺の提案に少しだけ考え込んでから、最終的にはしっかりと頷いてくれた。

「分かった。ではありがたく、我が国で特産品とするべく栽培させてもらう。ラースラシア王国には優先的に輸出しよう」

「本当ですか、ありがとうございます!」

これでコーヒーがいくらでも手に入る。シュガニスで出して少しずつ浸透させようかな。お茶も美味しいんだけど、ケーキを食べる時にはコーヒーを飲みたくなってたんだ。

そうだ、今ケーキも出してみよう。ケーキはレシピを教えられないし輸出もできないけど、こういうのがあるって分かったら開発に力を入れてくれるかもしれない。

そうなったら、ヴァロワ王国で新たなスイーツが生まれる可能性もある。

ミシュリーヌ様がスイーツ好きで、新たなスイーツを開発したら相当喜ばれるってことも教えようかな……事実だし良いよね。

「あの、こちらをコーヒーと一緒に食べてみませんか?」

「これは何だ? とても綺麗だが……」

「こちらは砂糖を使ったスイーツです。果物が乗っている方がショートケーキ、透明なソースが掛かっている方がミルクレープと言います」

ヴァロワ王国の三人は、全員が興味深げにケーキを覗き込んだ。最近ラースラシア王国では浸透してきたから、こうして驚かれるのも新鮮な反応だ。