軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

397、神域へ

「使徒殿、案内を頼む」

「かしこまりました」

陛下に促された俺は、ミシュリーヌ様に再度道案内をお願いして、前を歩く騎士に進む方向を告げていった。

『そのまましばらくは真っ直ぐよ。それで……家が完全に壊れて瓦礫の山みたいになってる場所が左側に見えてきたら、その先の曲がり角を左ね』

「三つ先の角を左です」

「かしこまりました」

『左に曲がったら二つ目の角を今度は右。かなり細い道よ』

「えっと……そこの木が生えてる場所の手前を右です」

そうして指示通りに歩みを進めること十分ほど、ついに礼拝堂が俺達の視界に入った。この荒んだ地域の中で異質なほどに綺麗な建物だ。劣化しないって汚れも吸着しないってことなんだな。

「皆様、あちらに見える白い建物が、ミシュリーヌ様が神力で作った礼拝堂です。あの建物の中のみ神域となっております」

「あれがそうなのか……あれほど目立っている建物の存在を、今まで知らなかったとは」

もう視界に入ったのでミシュリーヌ様の案内も必要なく、俺達は足早に礼拝堂へと近づいた。

貧民街に住む人達に不躾な視線を向けられていて、かなり落ち着かない。確かにこの地域では、綺麗な格好をした俺達は浮きまくっている。

礼拝堂の入り口に着くと扉は付いていなく、中の様子を簡単に見ることができた。床に散らばっている木片があることから、もしかしたらこれが扉だったのかもしれない。

「な……、何の用だっ!」

中では数人の大人と多くの子供達が暮らしているようで、騎士が顔を出したことで中にいる全員が警戒態勢に入った。

「陛下、いかがいたしますか?」

この国の問題はこの国の人に解決させようと思って陛下に振ると、陛下は少しだけ考え込んだ後に口を開いた。

「この地域はミシュリーヌ様の神域がある場所として綺麗に整備をする予定だ。したがって……この地域に住む者達には引越し先の斡旋と、仕事の紹介を行う。そのことを伝えて穏便に外に出てもらってくれ。また今は一時的に中を借りるだけなので、荷物などはそのままでと伝えるように」

「はっ!」

陛下のその言葉に数人の騎士達が中に入っていき、この礼拝堂に住む人達と対話を始めた。そして待つこと五分ほど、中からたくさんの人が外に出て来る。

このスラムのような貧民街でも、一応ちゃんとした部屋を借りるにはお金が必要みたいだから、ここにいるのは部屋を借りるお金もない人達なのだろう。

小さな子供達がガリガリに痩せ細って薄汚れた状態で外に出て来る。この国は孤児院ってないのかな……全員を俺が雇って救ってあげたくなってしまう。でもそんなことはさすがにできないから我慢だ。

「あっ……おい、大丈夫か?」

騎士に連れられて外に出て来ていた子供の中に、明らかに顔色が悪くてふらふらと今にも倒れそうな子がいた。マリーよりも小さな子だ。その子は必死に歩いていたようだけど、眩暈がしたのか騎士の方に倒れ込んでしまう。

騎士は子供が倒れ込んでくるのを嫌がることもなく、沈痛な面持ちでその子を支えた。この騎士は良い人だな。

「うん、だいじょうぶ……」

「おい、そんなにふらふらじゃないか。俺が運んでやるよ」

軽々と抱き上げられた男の子は、力尽きたのか騎士の胸元にぐったりと体を預けている。栄養不足と病気かな……

俺はこのまま見て見ぬふりをすべきだと思いつつ、どうしてもそれができずに男の子を抱き上げた騎士の元に向かった。そしてアイテムボックスから一杯のスープを取り出す。

「これ、薬草が入ってるから病気にも効くかも。栄養もあるし食べてみて」

騎士に降ろされてその場に座り込んでいる男の子の前にしゃがみ込み、スープと木製のスプーンを渡した。実際は薬草なんて入ってないけど、回復魔法を使ったことがバレないようにするための嘘だ。

男の子が弱々しい動きでその二つを受け取ってくれたところで、俺は周りには分からないように回復属性の魔力で男の子の全身を覆った。これは病気というよりも普通に風邪みたいだ……ここまで弱ってるのは、体力がなくてウイルスに勝てないからだろう。

「たべていいの?」

「うん。早く食べないと冷めちゃうよ」

「……ありがと」

男の子が一口目を口に含んだのを確認して、俺は魔力を流し込んでウイルスを体から消し去った。すると急に体が軽くなったことに驚いた男の子は、目をぱちぱちと瞬かせながらスープを凝視する。

「これすごい……」

「効いた? でも全部飲まないとまた辛いのが戻って来ちゃうかもしれないから、ちゃんと飲んでね。そのお皿とスプーンはあげるよ」

男の子がさっきまでの辛そうな表情から笑顔になったことを確認して、俺はまた陛下の近くに戻った。

「勝手なことをしてしまいすみません」

「いや、我が国の民を救ってくれて感謝する。本当は私が救わなければならない者達だ」

陛下は沈痛な面持ちでそう述べた。でも実際は難しいんだよね……ラースラシア王国にも貧しい人達はたくさんいるけど、すぐにその人達全員を救うことはほぼ不可能だ。自国ですらも達成できてないことで、他国を責めることなんてできない。

それから中にいた人達が全員外に出たのを確認して、俺達は騎士も含めた全員で礼拝堂の中に入った。

中にはここに住んでいる人達の荷物がたくさんあり雑然としていたけれど、奥に鎮座しているミシュリーヌ様の像だけはラースラシア王国のものと全く同じで、綺麗なままそこにあった。

「では使徒殿、よろしく頼む」

「かしこまりました。ミシュリーヌ様、よろしくお願いします」

『分かったわ!』

ミシュリーヌ様のそんな声が多分俺にだけ聞こえて、それから数秒後に神像が光を放ち始めた。ミシュリーヌ様がちょっと成長してるよ……アレクシス様達に神託をお願いした時は、神らしさ無しで友達みたいに話しかけてたのに。

『聞こえているかしら、私はミシュリーヌ。この世界を作り見守る神よ』

ミシュリーヌ様のその言葉は礼拝堂にいる人達全員に聞こえたらしく、室内に動揺が広がったのが伝わってきた。近くにいた陛下を見上げてみると、ポカンと口を開いて間抜けな顔を晒している。

……ちょっと面白い。この陛下がこんな顔を晒してしまうほど、神からの神託は信じられない事態なのだろう。

『そこにいるレオンと神獣であるファブリスは、私の代わりに下界で働いてくれる分身のようなもの。二人には私だと思って接して欲しいわ』

「か、かしこまりました」

そこまでミシュリーヌ様の声を聞いたところで、陛下はその場に跪いて絞り出すように声を発した。するとそれ以外の人達も陛下に続いて一斉に跪く。