軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

394、水浴び文化とお昼ご飯

買い物を終えて集合場所に戻ると、そこにはマルティーヌとフェリシアーノ殿下、それから文官達も皆が集まっていた。

「お待たせしました」

「いえ、まだ集合時間前ですので大丈夫です。ただ全員揃ったことですし、次の場所に向かいましょうか」

「そうですね。次はどちらに向かうのですか?」

「水浴び場と呼ばれる場所です」

水浴び場って……要するにプールってこと!? この国にはプールがあるのか。それは気になる、冷たい水の中を泳ぎたい。

「少し遠いので馬車で向かいます。また馬車にお乗りいただけますか?」

「もちろんです」

それから馬車に乗って進むこと十分ほど、辿り着いた広場には大人の腰ほどの高さまで水が溜まった、石造りのプール……みたいなものがあった。近くにある建物が更衣室となっているようで、こうして見ている間にもその建物には人が頻繁に出入りしている。

着ている服は水着のようなものではなくて、普通に平民がよく着ている少しごわついた服だ。

「ここが水浴び場です。この国は一年中気温が高く汗をかくので、ほとんどの者は数日に一度はここに来て汗を流します。貴族にはお風呂の文化も広まっていますが、やはり水浴びの方が気持ちが良いからと、屋敷に水浴び場を持つ貴族も少なくありません」

一年中暑い国だとこういう文化が育つこともあるのか……面白いな。ただ俺が求めていたプールとは違ったけど。さっきから見ていても、顔を水につける人は皆無だ。泳いでる人なんてもちろんいない。

「ここでは体を洗ったりということはしないのですか?」

「はい。あくまでも水に浸かって体を冷やし汗を流すという目的ですので、たとえば洗髪などは各家でやるのが通例です」

「そのような決まりがあるのですね」

それから水浴び場の周りを歩きながら、着ている服の決まりや人気の飲み物などについて話を聞いていると、職員らしき人達が何人も外に出てきた。

「水の入れ替え時間だから、外に出てくれるかー」

真ん中にいたおじさんがそう叫ぶと、水の中に入っていた人達は戸惑うことなくすぐに水から上がる。皆の反応からして、当たり前のことみたいだ。

「じゃあ水を流します」

中に誰もいなくなったところで、職員の女性が水浴び場の端にある木の板を上に引き抜いた。するとかなりの勢いで溜まっていた水が流れ出ていく。

「これってどこに流してるんですか?」

「川の下流に流れるようになっています」

川にそのまま流しちゃうってことか……それってどうなんだろう。環境汚染とかにならないのかな。でも洗剤とか石鹸を使ってるわけでもないし、そんなに汚れてるわけじゃないのか。

「どれほどの頻度で水を入れ替えるのでしょうか?」

次に質問したのはマルティーヌだ。それにはヴァロワ王国の文官が資料をフェリシアーノ殿下に渡し、殿下が自ら答えてくれた。

「基本的には一日に二回が多いようです。朝に水を入れて昼頃に変え、夜は水を抜いて終了となるのが一般的です」

「それならば清潔に保てそうですね」

「はい。そこは国としても気を遣っているところです」

そうして話をしていると、水は綺麗に流されて木の板が再度はめ込まれた。そして外に出てきていた職員全員が水浴び場に向けて手を翳す。

それから数秒後……水浴び場の中は綺麗な水で満たされた。それを確認したお客さん達は、職員に礼を言って我先にと中に入っていく。

俺はその光景を呆然と見つめていた。まさか、水魔法を使って水を貯めてるとは思わなかったのだ。川の上流から水を引いてきてるのだと思い込んでいた。

だってこの水浴び場はかなりの大きさ、これをこの人数で満たせるとなると……多分全員の魔力量が五でないと無理だろう。

「なぜこの場所に、多くの魔力を持つ人達が集まっているのでしょう」

魔力量が五の人はそう多くないし、普通は魔力が多いと分かると騎士団や兵士を目指す人が多数を占めるのだ。理由は給金が高いとか、社会的身分が高いとかそんなものだけど。

「国が支援をしているのです。というよりも、水浴び場はほぼ国営の施設と言った方が適当ですね。したがって給金は一般的な職よりも高くなっていますし、目指す者も多いです。またこの国では生活に欠かせない水浴び場の職員は皆に感謝される立場なので、それも十分な人材が集まる理由だと思います」

……これは国として、最高の選択をしてるんじゃないだろうか。体を清潔にすることは病気を防ぐという観点からも大切なことだし、何よりも一種の娯楽を国が作り出してるのって凄いことだ。最初に支援しようと決めた人、優秀な人だったんだろうな。

「素晴らしいですわ。我が国でも見習わなければなりません」

「そう言っていただけて光栄でございます。――では水浴び場の案内もここまでとなりますので、また馬車の方にお戻りいただいても良いでしょうか」

「かしこまりました。次はどちらへ向かうのでしょう。本日はとても有意義な時間を過ごすことができて、感謝しております」

マルティーヌが綺麗な笑顔で、フェリシアーノ殿下と向かい合った。今回の旅で何度も思い知らされたけど、王族の教育って本当に凄い。俺だったら言葉が詰まったり笑顔が引き攣ったり話の内容が分からなかったり、とにかくスムーズに会話ができない場面でも、マルティーヌはいつも優雅な笑みを携えて的確な言葉を返していく。

何度助けられたか分からないし、何度惚れ直したかも分からない。俺もマルティーヌに負けないように頑張らないとだよね……使徒としてラースラシア王国の役に立てるように。

「そろそろ移動の疲れも出てくる頃ですから、次は昼食にしようと思っております」

「それはありがたいですわ。ちょうど貴国の美味しい料理を食べたいと思っておりました」

「昼食には疲れた体を癒す料理を選んでおります。ゆっくりと休みを取りつつ、ご賞味いただければと思います」

それから俺達は馬車でおしゃれな食事処に移動し、美味しい昼食を食べた。昼食はこの国でよく食べられているというパン粥だったけど、ラースラシア王国のものとは全く違ってスパイスでガツンとした味付けがされていた。

何でもヴァロワ王国では、疲れた時や体調が悪い時ほどスパイスたっぷりの料理を食べるべき、という考えが浸透しているのだそうだ。

確かに香辛料の中には薬に使われるものもあるし、理に適っている……のかもしれない。まあ健康に効果があるのかはさておき、とりあえず美味しかったから満足だ。

昼食を終えた俺達は、食休みも兼ねて食事処でこの国の文化について雑談を交わし、陛下と第一王子殿下がカカオ農園を訪れる時間に合わせてお店を出た。

カカオ農園は街の外れに位置していて、そこまで大規模の農園ではなかった。やっぱり基本的には薬に使われるということだから、大量生産はしていないのだろう。

馬車から降りると年配の夫婦が俺達を出迎えてくれる。この二人がカカオ農園を運営しているのだそうだ。今回は俺がカカオを見たいと言ったことでここを訪れることになったけど、普通は王族や貴族が訪れるような場所ではないみたいで、老夫婦は可哀想なほどに緊張している。

「こ、こんな街の外れに、ようこそ」

「ありがとう、ございます」

敬語もほとんど学んでいないのだろう、つっかえながらも何とか丁寧な言葉を使おうと努力している様子が窺える。

「突然訪問することになり迷惑をかけてすまなかった。気にせずいつも通りにしてくれれば良い」

フェリシアーノ殿下のその言葉に、少しだけ体の力が抜けたように見える。

「わ、分かりました」

「では、中へどうぞ」

老夫婦はギクシャクした動きで俺達を農園の中に案内しようとして、それを殿下が止めた。

「いや、これから陛下と兄上が来る予定なのだ。もう少し待ってもらえないだろうか」

そしてその言葉に老夫婦がまた最初のように体を固く強ばらせたところで、俺達の耳に馬車の車輪の音が聞こえてきた。陛下達が来たみたいだ。