軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

258、時空の歪み

「この地図は、魔物の森の正確な大きさがわからないのでこのような表記になっているのですよね?」

「そうだ。奥まで向かうこともできないので、誰もどこまで広いのかは知らない」

「やはりそうなのですね。実はミシュリーヌ様に正確な広さを教えていただいたのですが、魔物の森は現在人が住んでいる地域全域と同じ程度の広さがあるのです。……そうですね、この地図と同じ大きさの紙を横に付け足して、この辺りまでです」

俺がそう言って魔物の森の広さを示すと、皆は唖然とした表情で俺が指差したところを見つめている。

「それは、本当なのか……」

「はい。そして別の世界と繋がる穴、そうですね、時空の歪みとでも言いましょうか。時空の歪みはこの辺りです」

「時空の歪み、時間と空間が歪んでいるということか?」

「はい。そう呼ぶことにしても良いでしょうか?」

「ああ、では私たちもそう呼ぼう。……それにしても、かなり遠いな」

「そうなのです。ここまで辿り着かなければいけないのですが、流石に私でも難しくてどうすれば良いか悩んでいます」

これから時間をかけて魔力を増やしたとしても、魔物の森の奥がどれほど危険かもわからないし、やっぱり俺が一人で挑むのは無謀だろう。

「どうすれば、良いのだろうか……」

「一つ考えられるのは、時間と人とお金を注ぎ込んでの人海戦術です。魔物の森の外縁部に騎士の方々が道を作っていました。あのような道を作りながら時空の歪みまで進んでいく、今のところはそれが一番かなと思います」

「確かに道を作れば補給も撤退も容易になるのか。だが、その道を維持するにはどうするのだ?」

「はい、そこが問題なのです。土魔法を使って地面を固めて壁を作って進んでいけばかなり維持できるとは思うのですが、それでも定期的に見回って魔植物を倒して道を維持する必要があります。道が途絶えてしまっては元も子もないですから」

「それは、ほぼ不可能ではないか? 距離が長すぎる」

「やはり、そうですよね……」

やっぱり流石に無謀な話だよね……

他に何かいい方法ないかな。陸から突っ切るのがダメなら、海から回るとか……?

「あの、海から回るのはどうでしょうか?」

「船、ということか?」

「はい。魔物の森を突っ切るよりは楽かなと思ったのですが。漁なども行われていますよね?」

「それはもちろん行われているが、陸が見える近場での漁のみだ。長距離を船で進むのは、難しいのではないか?」

この世界ってどこまで造船技術が発達しているんだろう。それにもよるな。というか、この世界ってこの大陸以外に大陸はないのかな? ミシュリーヌ様の地図もこの大陸だけの地図だったし……

流石に他に大陸がないってことはあり得ないと思うんだけど、海上貿易とかは聞いたこともない。

「あの、海の向こうには何があるのでしょうか?」

「海の向こう? とは、どういうことだ?」

「別の大陸などがあるのではと思ったのですが……」

「そんなものがあるのか……?」

アレクシス様は心底驚いたような顔をしている。えっと、この世界ってそんなに進んでなかったの!?

「あの、海をずっと進んでいくとどこに辿り着くと思われていますか?」

「海は、ずっと続いているものだろう?」

これあれだ、俺達が宇宙はずっと続いているんでしょ? っていうのと同じ感じだ。海の向こうに冒険に出た人とかいなかったのかな。いや、いたけど帰ってきた人がまだいない時代なのかな……

やばい、気になり始めたらどうしても気になる。この世界って他に大陸がないんだろうか? ミシュリーヌ様に聞いちゃおうかな。

「あの、ちょっとすみません。ミシュリーヌ様と少しだけ話してもいいですか?」

「ああ、もちろん構わない」

「ありがとうございます」

俺は皆にそう断ってから本をアイテムボックスから取り出した。そしてミシュリーヌ様に呼びかける。

「ミシュリーヌ様、ちょっと聞きたいことがあるんですけど。ミシュリーヌ様? ミシュリーヌ様〜」

『むぐっ、もがもがっ……もぐっもぐ……ごくん。――レオンね?』

ミシュリーヌ様、何事もなかったかのように返事したけど全部聞こえてましたよ! 絶対何か食べてましたね!

「ミシュリーヌ様はいつでも何かを食べているんですね……」

『そ、そんなことないわよ! レオンのタイミングが悪いだけよ。今回だってちゃんとシェリフィーが持ってきてくれた日本のスイーツなんだから!』

「そうなんですね……」

『そ、そうよ! それで何の用かしら』

「ああ、そうでした。一つ聞きたいことがあって。この世界ってこの大陸以外にも大陸がありますよね?」

『ないわよ』

「やっぱりありま……え!? ないんですか!?」

マジか。だってこの大陸そこまで大きくないよね? 日本をひと回り大きくしてちょっと太らせた感じだよね?

「この世界って結構小さいんですか……?」

『そうなのよ。前の世界を大きくしすぎて神力が足りなくて、最低限しか作れてないのよね。地球は大きくて羨ましいわ……』

「そうなんですね……」

また原因は神力不足なんですね!

「では私が大陸を船で出発してひたすらまっすぐに進めば、大陸の裏側に辿り着くのですか?」

『まあ、そうなるわね。実際はズレると思うけど』

それだと船なんて発達しないのかもしれないな。海に出る目的がないんだから。

はぁ〜、そう考えると海からも無謀か……どうしよう。陸からも海からもダメなら、空とか?

「ミシュリーヌ様、俺は空を飛べますか?」

『飛べないわ。それ前の使徒の子にも言われたけど、重力系の魔法は大変なのよ。空間魔法だって頼み込まれて何とか神力を工面したんだから! もう新しい魔法なんて作れないわよ。神力も足りないし』

空もダメか……じゃあもう全部ダメじゃん! どうしよう。やっぱり人海戦術で陸から行く?

でも流石に無謀すぎる。俺の魔力が無限なら話は簡単なんだけど……

……あれ、ちょっと待って。今凄いこと思いついたかも。バリアの魔法具って作れるよね? バリアの魔法具を持っていけば全部解決じゃない!?

魔力がなくなったらバリアの魔法具を起動してその中にいて、回復したらまた進めばいいんだ。それならいくらでも進めるし魔力切れの心配もないじゃん!

何で今まで思いつかなかったんだろ……

「ミシュリーヌ様、色々と教えてくださってありがとうございました! 今いい方法を思いついたので一旦切りますね」

『……そうなの? まあ何でもいいけど、とにかく頼んだわよ』

「はい!」

俺はそうしてミシュリーヌ様との話を終えて、四人に思い付いた計画を話した。

「アレクシス様、リシャール様、良い方法を思いつきました! 俺が一人で魔物の森に入って、バリアの魔法具を持っていけば完璧です。魔力がなくなれば魔法具を起動して休めばいいですし、夜も魔法具の中で眠れますし!」

「確かに……理論上は可能なのか……?」

「はい!」

これで時空の歪みを塞ぐことができれば、あとは魔物の森を何とか駆逐していくだけだ。でもまあ、それもかなり大変だけどね。穴を塞いだからといって魔物の森の進行が止まるわけでもないし、魔植物や魔物が滅びるわけでもない。そこは人海戦術だな。

「時空の歪みは私が塞ぎに行きますので、その後に魔物の森を駆逐する時は、アレクシス様にもご協力をお願いいたします。そこは人海戦術が一番だと思うので。時空の歪みを塞いだからといって、魔物の森の広がりが止まるわけでも魔植物や魔物が滅びるわけでもありませんから」

「それは凄くありがたい提案なのだが、良いのだろうか? レオン一人に頼ってしまって……」

「そうよ。レオン、それはダメ。一人で魔物の森に入るなんて危なすぎるわ。夜の見張りもできないし、なによりも話し相手がいないのは精神的に辛いわよ」

マルティーヌが厳しい表情でそう意見を言った。

「でも、他の方を連れていくわけには行かないし、俺一人で行くのが一番効率的なんだ」

「ダメよ。レオンが一人で行くのなら私も一緒に行くわ」

「それはダメ! 絶対にダメだよ」

「ではレオンも一人で行ってはダメよ。確かに弱い者が付いていくのは足手まといかもしれないけれど、少数精鋭の仲間ならば役に立つはずよ。……私がそのメンバーに入れたら良かったけど、私では足手纏いなことはわかるから無理に連れていけとは言わないわ。でもこの国の騎士には頼りになる者もいるはずよ」

確かに、夜はバリアがあるとは言っても見張りをした方が安全性は上がるだろう。それに複数の敵に囲まれた時は仲間がいて助かることもあるかもしれない。

「それは確かにそうだけど、でも、一緒に来ることになる騎士の家族は心配するだろうし……」

「それはレオンも同じよ。たくさんの人達がレオンを心配するわ。もちろん私も。レオンの力が必要なことは分かっているから行くなとは言えないけど……それでも、少しでも安全に帰って来られる可能性を上げてほしいの。……レオン、お願い」

マルティーヌは真剣な表情で、瞳にはうっすらと涙を滲ませて俺にそう懇願した。俺はマルティーヌのその勢いに押され、思わず頷く。

「う、うん。分かったよ……」

やばい、今絶対に顔を緩ませちゃいけない場面だと思うんだけどめちゃくちゃ嬉しい。マルティーヌがそこまで真剣に俺のことを心配してくれるなんて……

確かにマルティーヌの言う通りだ。自分のことも大切にしよう。

「ではアレクシス様、精鋭の騎士数名に同行いただけないでしょうか?」

「ああ、もちろんだ。本人の意思を確認し有能な者を選ぼう」

「ありがとうございます」

一緒に行く人達のことは、絶対に守ろう。そして自分も絶対に生きて帰ろう。俺はそう心に誓った。