軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

248、奇跡の魔法と使徒疑惑

リオールの街に戻り馬車から降りると、想像以上の事態になっていた。誰かが早馬で使徒様が現れたとでも知らせたのか、馬車を降りると跪いて深く頭を下げた騎士達、一般的には国王にするような礼をした騎士達がずらっと並んでいたのだ。

そして一番先頭にいた壮年の騎士が口を開く。

「使徒様、またこの世にご降臨されましたこと、心から嬉しく存じます」

……うん、完全に使徒様ってことになってるよ。あの魔法は使徒様だって気づいて伝えるまでが流石に早すぎない? 使徒様の影響力が怖い……

ここはちゃんと否定しておくべきだな。

「あの、ちょっと待ってください。私は使徒様ではないんです」

「……しかし、使徒様がお使いになられていた魔法を使い、騎士の一人を助けていただいたと聞いております。その慈悲深き心に感謝を」

「いや、私は使徒様と同じような魔法は使えますが使徒様ではないんです」

「……ご謙遜はいりませぬ。身体強化属性と回復属性を使われたとの話も聞いております。回復魔法は神の御業であったと」

「いや、だから……」

使徒様じゃないんだって!! もう完全に使徒様だと信じて疑ってないよ。こうなると使徒様じゃないって証明する方が難しいかも……

はぁ〜、どうしよう。本当に困る。

俺がそうして大勢の騎士を前に混乱していると、ステファンに強く腕を引かれた。

「皆の者。レオンは疲れているゆえこれにて失礼する」

ステファンはそう言い放つと、足早に騎士達の前から去り簡易宿泊所に入った。ステファンにしては結構強引だ。

その後も無言で簡易宿泊所の中を進んでいき、俺達の部屋まで辿り着くと皆が部屋に入ったのを確認してすぐにドアを閉める。部屋には俺とステファン、マルティーヌ、リュシアン、ロニーの五人だけとなった。

「ステファンどうしたの? 凄く急いでるみたいだったけど……」

「レオン、気づいていたか?」

「えっと……何に?」

「跪いていた者たちの後ろに、明らかに悪意を持った目でレオンを睨んでいる者が一定数いた」

「……本当?」

「ああ」

「私も気づいたわ」

マジか、全然気づかなかった……

俺は人から明確に悪意を向けられているという状況に、手足の先が冷たくなっていくのを感じる。人の悪意って、やっぱり怖いな。

「とりあえずこの部屋にバリアを張ってくれ。バリアはどのくらい維持できる?」

「分かった。ずっとは難しいと思うけど数週間ならできるよ」

「では、明日馬車で帰る時までは張っておいてくれ」

「うん。……あのさ、悪意がある人達って敵対勢力の人達かな? 貴族の力を強くしたいのに俺は邪魔ってことだよね?」

「多分、そうだろうな」

やっぱりそうだよね……

使徒様だと広まってもこんなにすぐ悪意を向けられるなんて、実際思ってもみなかった。全属性の平民に対しては悪意を向けても、使徒様なら少しは違うのかとも思ってたんだけど……

敵対勢力の人達って、もうとにかく自分の立場を脅かす存在は排除したいのかな。もっと平和に楽しく生きればいいのに。

「敵対勢力の人達ってどのぐらいの数がここにいるのか知ってる? そんなにいないって聞いたことがあるんだけど」

「そうだな。確かにあまり数はいないがいることはいる。今の王家の方針、使徒様の教えを守るということに反対している家の騎士は、ほとんどの者がまとめてここを含めた前線に送られるからな。ただすぐに辞めていく者が多いのでそこまで数は増えない」

そういえば前にリシャール様が言っていた。王家に忠誠を誓っている家や考え方が似ている家の者以外は、王宮の安全のためにもまとめて魔物の森に派遣してるって。

すぐに辞めるとは言っても少しは仕事をするんだろうから、その辞める前の人達がいるってことだよね。辞める前に大きな成果を上げてから辞めてやる! とか考えて何かやらかしそうで怖いな……

そんなことをするぐらいなら、ここでしっかり働いて魔物の森の脅威を認識して、さらにそれを実家に伝えるぐらいはしてほしいものだ。

多分そこまで認識せずに辞めていくんだろうな……元騎士って肩書きだけ欲しいんだろう。

「その人達は行動を起こすかな?」

「……可能性は高いだろう。もしここでレオンを捕らえることができたら大手柄になる」

「やっぱりそうだよね……」

「ああ、とりあえずレオンの、そして皆の安全が第一だ。今夜は一つの部屋に固まって夜を明かそう。従者もだ」

「確かにそれがいいね」

やっぱりかなりの大事になっちゃったな……もう使徒様って広まってるみたいだし、これから先どうなるのだろうか。

……天罰とかありませんように。俺はそう必死に祈った。でもこの世界の神様に祈るわけにもいかないし、何に祈ればいいのかわからない。

「ではこれからの予定だが、私は明日の予定を繰り上げることを先生方に伝えて来る。最悪は私達だけでも帰還しよう。皆は従者と共に荷物をまとめてくれるか? 荷物はレオンのアイテムボックスに入れておいてくれ」

「分かった。いつでも移動できるように準備しておく」

そうしてとりあえず話し合いを終えて、俺達はそれぞれ準備をすることになった。もちろん細心の注意を払ってだ。

それから数時間、準備を全て終えてステファンとリュシアンの部屋に全員で集まった。

「先生方に予定の繰り上げを伝えたところ、先生方もその方針を決定するところだったらしい。すんなりと認められた。よって明日の早朝にはここを出ることになる」

「お兄様、先生方のレオンについての反応はどうでしたか?」

「先生方は比較的、悪意のある感情は少なかったように思う。しかし数名の先生は平民が使徒様などあり得ないと主張していたな。とりあえずレオンは魔法が使えるだけで使徒様ではないと伝えてきた。そのほうが危険は増すかもしれないが、それで良いのだよな?」

使徒様だって思われた方が手を出してくる人は減るのかもしれないけど、やっぱり神様が怖いから少しでも予防線を張りたくなるんだ。俺が使徒様だと言ったわけじゃありませんって言い訳ができるように、使徒様ではないというところだけは強調しておきたい。

まあ、そんな言い訳が通じる気はしないんだけど……俺の気持ちの問題だ。

「はい。それでお願いいたします」

俺は従者の方もいるので、ステファンに敬語を使い頭を下げた。

「そういえば伝えていなかったが、ここで私に対して敬語は必要ないぞ。従者がいる時にまで敬語にするのは大変だろうと思って、先ほど皆に伝えておいたのだ」

「……そうなの、ですか?」

「ああ、今まではレオンの能力も隠していたし、外では極力敬語を使うべきだと思っていたから何も言わなかったが、レオンの能力を明かせば外でもあまり気にすることはない」

「……それは何故でしょうか?」

「レオンは使徒様でないとはいえ使徒様と同じ能力を持つ者だぞ。王族と同程度の扱いでもおかしくはないだろう?」

そ、そうなのか……。ずっと凄いと思ってたけど、改めて使徒様って凄い。

「……分かった。じゃあここでは普通に話すよ」

「ああ、そうしてくれ。では次の話だが、王家の影からの情報が入った。やはりレオンを誘拐する計画が持ち上がっているそうだ。騎士数十名が関与しているらしい」

「え……、王家の影ってここにもいるの?」

俺は誘拐の計画よりも王家の影に驚いた。だって王都から相当離れてる場所だよ?

「私とマルティーヌの護衛として数名ついてきているからな」

……マジか。全く気づかなかった。

影の人達って本当に能力が高いよね。いつも思うけど凄すぎる。全員が身体強化魔法を使えるのかな。

「そうだったんだ」

「ああ、そこで影の一人に探らせたところすぐに計画がわかった」

「どんな内容だった?」

「これがな、呆れるほどお粗末なものなのだ。今日の夜皆が寝静まった頃、簡易宿泊所のレオンの部屋の前に火をつけるらしい。そして煙が充満し始めたところで水魔法で消火して風魔法で空気を入れ替える。そしてその後にレオンの部屋へ火事から助けに来た体で侵入し、混乱に乗じてそのままレオンを攫うそうだ」

「えっと……それ、上手くいくと思ってるのかな? 肝心の俺の魔法への対策とかは……?」

「それが、まだ子供だし魔法を使いこなせているわけない。捕まえて腕を縛り上げ口を塞いでしまえばこっちのものだ。そう話はまとまったらしい」

え……転移魔法を使ったとか言ってるのに? 腕を縛れば大丈夫だと思ってるの?

……どんな馬鹿なんだ。俺は思わず脱力した。

敵対勢力って基本的に馬鹿なのかな。思わずそう思ってしまうほど頭が残念な方達が多い気がする。

「まあ、危険度が低いってところはありがたいかな。でも火事は万が一敵が消火できなかったら大変だし、火事を起こされる前に捕まえたいね」

「ああ、そこは王家の影と近衛に任せておけばいい。もう指示は出してある」

「そうなんだ。ありがとう」

敵ながら残念な人達だ。

「ということで、今のところ敵はそこまで怖くないとは思うが、用心するに越したことはない。気を抜かずにいくぞ」

「そうだよね。気をつけるよ」

そうして俺達は気を抜かずに、交代で見張りをしつつ夜を明かした。そして遂には一度も襲われることなく朝となった。

ちなみに俺への襲撃計画を立てていた人達は、全員王家の影と近衛兵に捕らえられたらしい。ちょっと顔を見てみたかった気もするけど、睨まれるだけだろうし顔を合わせずに済んで良かったかな。

そして次の日の早朝。俺達は馬車でリオールの街を後にした。この後の道中も王都に着いてからも不安なことだらけだけど、俺が弱気になっちゃダメだ。

そう気合を入れて馬車に揺られた。