軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

211、安らげる場所

俺は気持ちを切り替えて、こちらの様子を見守ってくれていた皆の方に向かう。

「皆さん、これから転移魔法の検証をしたいと思います。手助けをよろしくお願いいたします」

「うん! 私がお手伝いするよ!」

「マリー、ありがとう」

俺はマリーの無邪気な笑顔に、冷えた心が少しだけ温かくなる気がした。でも、マリーの頭を撫でる気にはなれないな……

そう思っていると、マルティーヌが近くにやってきて俺の顔にそっと触れる。

「レオン、顔色が悪いけど……大丈夫?」

「うん。もちろん……」

俺はそう言って大丈夫だと笑顔を浮かべようとしたけれど、それはうまくいかず変な顔になってしまった。

ダメだ、上手く笑えないかも。そう思ったら急にこの世界に一人きりのような寂しい気持ちが湧き出てきて、また気持ちが沈んでしまう。最近はもうこんな気持ちを感じることなんてなかったのに……

俺はそんな寂しい気持ちを自分だけで上手く消化することができず、思わずマルティーヌの温かい手に縋ってしまった。ゆっくりと手を動かして、いまだ俺の顔に触れているマルティーヌの手に触れる。

マルティーヌなら俺の前世を知っているから、今の複雑な心の内も話せる……。そう思ったらどうしても我慢できなくなり、俺は思わず転移魔法を使った。マルティーヌと俺だけに。

そうして転移した先は屋敷の中の一室だ。今日の転移魔法を検証するために用意した部屋で、この部屋には絶対に入ってはいけないと他の使用人は厳命されている。

たくさんの人が入れるように家具は全て端に寄せてあるので、凄く広い空間が広がっているように感じる。そんな部屋の真ん中で、俺とマルティーヌは二人でさっきと同じ態勢でいる。

「え……? レオンが転移魔法を使ったの?」

マルティーヌが周りの景色が変わったことに気づいたようで、部屋を見回しながらそう言った。

「うん……。急にごめんね」

「別に私は良いけれど、他の皆は心配しているのではないかしら?」

「すぐ戻るよ。でもちょっとだけ……」

俺はそう言って、マルティーヌの体を優しく抱き寄せた。安心する……

「ちょっ、ちょっと、レオン!?」

「ちょっとだけこうしてていい? 落ち着くんだ……」

「別に良いけど、どうしたの? 先程も顔色が悪かったわよ?」

「うん。さっきツノウサギを殺したでしょ?」

「ええ、それがどうかしたの?」

「俺が前いた世界では、生き物を殺すなんてほとんどの人が経験しないんだ。だから、ちょっと辛かった……」

俺がそういうと、マルティーヌは不思議そうに首を傾げた。

「でも、前の世界でも肉料理はあるのよね?」

「うん。だから前の世界でもその役割を担ってくれる人はいたんだと思う。でも、そんなことを想像することもなく生きていける世界だったんだ。俺はそういう厳しさを全く感じずに生きてきたから……。今まで熊を殺したりしたこともあったんだけど、あの時は命を狙われてて必死だったから大丈夫だったんだ。一方的にって結構キツイんだね……」

俺がゆっくりとそう話すと、マルティーヌは少し時間を置いてから答えてくれた。

「そうね……。私も生き物を殺すのは可哀想だと思うこともあるわ。王族の教育にあるのよ。生き物を殺す場面を目を逸らさずに見ること。それから処刑の場面を目を逸らさずに見ること。そういう教育があるの。王立学校に入る前に全てこなさないといけないわ。生き物の方は食事に感謝をするように、そして処刑の方は、目の前で護衛が殺されても動揺せずに行動できるように」

俺はその話を聞いて、思わずマルティーヌから体を離し顔を覗き込んでしまう。

マルティーヌは、少しだけ辛そうな顔をしていた。

「王族は狙われることも多いし、戦争となった場合に戦場に赴かなければならないことがあるかもしれない。だから、人の死に動揺しないようにと教育されるの。でも辛いわ。辛いけど……、私がやらなければならないことだと思っているわ」

そう言って顔を上げたマルティーナの顔は、凄く、凄く、綺麗だった。

「だからレオンも頑張りましょう。私も頑張るから、一緒なら頑張れるでしょう?」

そう言っていつもの笑顔で、いや、いつもよりも大人びた笑顔で微笑んでくれた。

「うん、ありがとう。なんか元気出たよ。大切な人たちを守るためにも、頑張るよ」

「頼りにしてるわ!」

マルティーヌはそう言って、今度こそいつもと同じ笑顔で、パァッと花が咲くように笑った。

…………好きだな。

俺は素直にそう思った。

マルティーヌの婚約者って、俺じゃダメなのかな。いくら全属性が使えるとは言っても、やっぱり元平民じゃダメかな……この世界って身分が重要だし。

俺が、本当に使徒様だったら良かったのに。

頭の中でそんなことを考えていると、マルティーヌが少し焦ったように声を発した。

「あっ、早く戻らないと! 多分皆心配してるわよ?」

「そうだった。戻ったら、なんて言えばいいかな……?」

突然転移しちゃったんだ。絶対理由聞かれるよな……

うわぁ〜、最悪だ。何か言い訳考えないと。

「レオン、言い訳は私に任せなさい!」

俺がどうしようか途方に暮れていると、マルティーヌが自信ありげな様子でそう言ってくれた。

「本当に任せていいの? 大丈夫?」

「ええ、こういう時は身分が高いと便利なのよ。はい、じゃあ転移をお願いするわ」

マルティーヌはそう言って手のひらを差し出した。俺は少し緊張しつつその手を軽く握り、転移魔法を使った。

そしてまた皆の目の前に戻る。

皆はそのままの場所で談笑をしていたようで、特に焦っているような様子はなかった。とりあえず大事になってなくて良かった。

「レオン、突然どこかに行くなんて酷いぞ! せっかく転移するのを楽しみにしていたのに」

俺とマルティーヌが戻ると、まず一番に口を開いたのはリュシアンだ。リュシアンのその言葉で場の雰囲気がかなり和んだ。リュシアンの転移好きが役に立ったな。

「リュシアンごめんなさい。私がレオンに頼んで先に転移させてもらったの。だって、リュシアンばかり先に体験してるだなんてずるいじゃない?」

マルティーヌはそう言って、リュシアンに向けて少しだけ頬を膨らませてみせた。

「そ、それは……まあ、確かに、そうですが」

リュシアンはそんなマルティーヌにたじたじだ。

「レオン! それならば私も先に体験したい」

今度はステファンがそう言って前に出てきた。皆転移を体験したいみたいだな。

「じゃあ、とりあえず体験したい人に一人ずつ転移してもらい、それが終わったら全員での転移を試してみようと思います」

そうして何人か一人ずつ転移を試してもらった後、集まった全員で転移してみた。

結果は大成功。消費魔力量もほとんど増えてないことから、転移の人数はほとんど制限がないという結果になった。

ただ、皆に広範囲に散らばってもらい転移をした時が一番魔力の消費量が多かったから、数ではなく面積は関係があるらしい。

そうして魔法の検証は、大きな問題が起こることもなくスムーズに終わった。