作品タイトル不明
195、お店の装飾品
「う〜ん! 全部終わったぁ……」
俺は声に出して思いっきり伸びをして、大きく息を吐き出した。やっぱりずっと下を向いてると肩凝るし疲れるんだよね。まだ十歳なのに肩凝るって……俺は自分で考えて自分で落ち込んだ。
うん、考えないようにしよう。多分この肩こりは気のせいだ。
「レオン様、お疲れ様でございます。ではこちらは片付けてしまって良いでしょうか?」
ロジェがそう言いつつ、魔石と魔鉄を箱にしまって持ち上げた。
「うん、ありがとう。あっ、そうだ、馬車から俺の鞄持ってきてもらっても良い?」
「かしこまりました」
そうしてロジェから受け取った鞄から紙とペンを取り出し、これからの購入リストを作っていくことにした。やっぱりお店にいる時の方がイメージ湧くからね。
とりあえず、カウンター裏の長机と棚は絶対に必要だ。それから、貴族向けのお店に必要な装飾品もそろそろ揃えるべきだろう。基本的には貴族女性がターゲットで、でも男性も入りづらくならないようにしたい。
だからピンクとか可愛らしい色よりも、水色や黄色、白などを使おう。カーテンはレースのカーテンとその上に淡い水色がいいかな。
机の上には小さな花瓶に毎日花を生けることにして、机の数だけ花瓶が必要だ。あとは、カウンター横のスペースにも何か置いた方が良いかな。実際に使うものじゃなくて、展示用のお皿やティーカップを飾るのはありかも。そうだ、戸棚の開戸にガラスを嵌め込んでもらって、おしゃれな展示にするのありかも。
あとそうだよ、お客さまにお出しするお皿やティーカップ、それからカトラリーも買わないと。
……そういえば、ケーキは作ってるけど飲み物って考えてなかったな。最低でも紅茶は必要だ。数種類の紅茶を用意して、紅茶が苦手な人のために水や緑茶も選んでもらえるようにしよう。
あとはケーキをお出しする時のトレーも必要だな。それからナプキンも買わないと。この世界はテーブルクロスはあまりなくて、個人にナプキンがあるのが普通だ。
このぐらいかな……? あっ、お会計用のお金を入れる箱も買わないと。
やばいな、足りないものがありすぎる。とりあえずこのぐらいだろうか?
「ロジェ、今このお店に足りないものを書き出してみたんだけど、これだけで良いと思う?」
「そうですね……。あとは壁に絵画を飾ったり、壁紙としてレースのような布を飾ると良いかと思います」
「壁紙としてレース?」
「はい。最近上位貴族の奥様方の間で流行っているようです。大奥様が、公爵家の応接室の一室をそのように変えられておりました」
壁にレースみたいな布を貼り付けるってことだよね? そんなのが流行るのか……よくわからないけど流行りには乗るべきだろう。
教えてくれたロジェには感謝しないとだな。貴族向けのお店をするなら、貴族の流行りを知ることも大切だ。そうなると、定期的にマルティーヌやカトリーヌ様とお茶会をすべきかもしれない。
いつもマルティーヌとのお茶会は別の話で終わっちゃうから、これからは貴族の流行についても聞いてみよう。
「ロジェありがとう。じゃあそれもリストに入れておくよ」
「いえ、それからもう一つ気付いたのですが、絨毯は注文されているのでしょうか?」
絨毯……忘れてたよ……。
「忘れてた……。絨毯って必要かな?」
「貴族の屋敷には必ず絨毯が敷かれておりますし、給仕の足音を消すためにもあった方が良いと思われます」
「やっぱりそうだよね。じゃあそれもリストに追加しておく」
絨毯は汚れが目立たないように濃いめの色にしたいよな。予定では茶色にしておこう。
俺はそこまで書いたところで、一度リストを見直した。うわぁ、凄い量だ。これは一度アンヌに確認したほうが良いかも。他にも抜けてるものありそうだし、アンヌに追加してもらってから全部注文しよう。
「ロジェありがとう。これ凄く大量だしまだ抜けてるところがあるかもしれないから、アンヌに確認してもらおうかと思うんだけど、これから寮に寄っても良い?」
「確かにそれが良いでしょう。一度話をするべきだと思います。今からならば……夕食にはギリギリ間に合うと思われます」
「じゃあお願い」
「かしこまりました」
そうして俺はお店を出て寮に向かった。そして寮で皆の教育をしていたアンヌを呼んだ。
「アンヌ、仕事中にごめんね」
「いえ、レオン様を優先するのは当然のことです。本日はいかが致しましたか?」
「実はお店に足りないものを全て注文しようと思ってリストを作ったんだけど、まだ抜けてるところがあるか確認してもらえる?」
俺はそう言って、さっき書いたリストを渡した。
「かしこまりました。少々お待ちください」
アンヌはそう言って、リストに真剣に目を通し始めた。そして途中からペンを取り出して、リストに書き加えていく。
「レオン様、いくつか修正点や足りないものを書き加えてみましたが、いかがでしょうか?」
「ありがとう」
そうしてアンヌからリストを受け取り見てみると、従者やメイドが待機するための椅子が書き加えられていて、さらに食器のところに砂糖を入れるポットが付け足されていた。また、食器の数は逆に減らされていた。
確かに砂糖を入れるポットは必要だな。でも使用人が待機する椅子ってなんだろう? それに食器を減らしたら少なくないか?
「アンヌ、使用人が待機する椅子って何? あと、食器は少なすぎない?」
「はい。貴族様方がお店で食事を召し上がられる際、基本的に食器類は従者が持参いたします。したがって、それほどの数は必要ないかと思われます。しかしレオン様のお店はスイーツ専門店ですので、食器類を持参されない方もいるということを考慮し、普通のお店より多めにしております。それから使用人が待機する椅子ですが、お店で主人が食事を召し上がられている際、基本的に従者は壁際まで下がり立ったまま控えています。しかしお店側の配慮として、使用人が座って待てるように椅子を準備するのが普通でございます。たまに使用人に座って待つようにと仰られる貴族様もおります」
そうなんだ……知らないことだらけだな。
「アンヌありがとう。じゃあ、椅子は準備する。そして食器類も少し減らしておくね」
俺はアンヌにそう答えつつ、今の食器類を減らすって話でふと思いついたことについて考えていた。
この前持ち帰りのケーキは木箱に入れるって決めたけど、直に木箱に入れるわけにはいかないよね。せめて何か敷かないと。
木箱の中に綺麗布を敷くのはいいとして、さらにその上にお皿か何かを挟まないとダメだろう。
紙が使えたらいいんだけど……どうだろうか。
「あと、今ふと思いついたことがあるんだけど聞いてくれる?」
「もちろんでございます」
「実は作ったスイーツはカットしたら、ガラスのショーケースに入れてカウンターのところに展示しておく予定なんだ。あと、スイーツは店内で食べるのじゃなくて持ち帰りもできるようにするから、持ち帰り用の木箱を作る予定。その時に、ケーキって何の上に乗せれば良いかな? 紙でも良いと思う?」
俺がそう聞くと、アンヌは難しい顔をして少し考え込んだ。
「確かに紙に食品を乗せることが全くないとは言いませんが、あまり馴染みはありません……」
「そっか、じゃあどうしようか……」
紙がダメだとなると途端に難しくなる。一つ一つお皿に乗せてショーケースに展示して、お持ち帰りの時もお皿に乗せるのが良いのかな?
うーん、ショーケースは別に問題ないだろう。ただ展示できる量が減ることが問題だけど、でもそこは裏に冷蔵庫をたくさん作って、そこに保管すれば良いから解決できる。
問題は持ち帰りの時だよな……割れないように木箱の中に布をしっかりと貼り付けて、お皿が動かないように突起を作るとか?
「お皿に乗せるとして、お持ち帰り用の木箱の中にお皿に乗せたケーキって、途中で割れたりしないかな?」
「木箱の中にしっかりと布を貼れば問題ないとは思います。しかし他にお皿を固定できる仕組みがあったほうが安全でございます」
「じゃあ、お皿を固定できるように突起を作るのはどう思う?」
「確かにそれがあれば十分でしょう」
「アンヌが使用人だとして、木箱にお皿ごと入ったスイーツを持ち帰るのって大変?」
俺がそう聞くとアンヌは少しだけ考え込んだあと、首を横に振った。
「いえ、それならば木箱を傾けないようにするだけですし、特に問題はないかと思います。他店でも持ち帰りはありますが、鍋のままだったりお皿に乗せられていたりしますので」
「それなら良かった。じゃあ紙じゃなくて、お皿に乗せることにしよう」
そうなると、お皿の数は逆に増やした方が良いよな。持ち帰り用のお皿を持ってきてくれる人もいるだろうけど、最初は少ない気がする。特に最初は、お皿もこちらで準備すべきだろう。そして木箱と同じで次回から持参したらその分のお金は取らないことにしよう。
「それだとお皿は逆に増やした方が良いよね」
「はい。お皿は増やして、他のものは減らすという形で良いかと思います」
「わかった。じゃあそうするよ」
よしっ、これであとは注文すれば完璧だな。
「アンヌ、今日は本当にありがとう。じゃああとは注文しておくよ」
「レオン様、差し出がましい申し出かもしれませんが、もしよろしければ私にお任せいただけませんか?」
「アンヌに? 注文まで頼んでいいの?」
「はい。給仕担当の者たちの勉強にもなりましょう」
確かにそうか、内装を整える仕事も工房に注文する仕事も、それから商会で購入する仕事も、全部できればプラスになるのか。
ロニーにも経験させてあげた方が良いかも。
「じゃあお願いしようかな。店長であるロニーも一緒によろしくね。支払いはジャパーニス商会でいいから」
「かしこまりました」
「ありがとう。もし途中で何か足りないものに気づいたら、ロニーと相談して買い足していいからね」
「はい。では万事整えておきます」
「よろしくね」
そうして俺はお店の内装やその他諸々必要なものについては、アンヌたちに任せて従業員寮を後にした。
俺ってなんでも自分でやろうとしてたけど、もう従業員の皆がいるんだし任せてもいいんだな。この時初めてそう思った。