軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

170、冷蔵設備の開発 前編

コロッケを作った次の日。

俺は今日こそマルセルさんの工房に行こうと決めて、お昼の後に家を出た。今は工房に向かっているところだ。

今日のお昼ご飯はコロッケサンドだったんだけど、やっぱりめちゃくちゃ美味しかった。マリーは予想通り大興奮で、かなり気に入った様子で食べていた。

多分しばらくはコロッケ三昧の食事になるんだろうな。母さんと父さんも、もっと美味しくできないか気合を入れて開発してたし、しばらくはコロッケの味見と余ったコロッケの食事になりそうだ。

そこまで食べたら流石に飽きるだろうけど……まあ、仕方ないよね。

そんなことを考えつつマルセルさんの工房まで歩き、工房に辿り着いた。なんか久しぶりだ。

俺は少し緊張しつつドアをノックして、マルセルさんに呼びかける。

「マルセルさんこんにちは! レオンでーす」

俺がそう呼びかけると工房の中からバタバタと人が走る音が聞こえ、すぐにドアが開きマルセルさんが顔を出した。

「レオン、何でここにいるんじゃ!?」

「え、な、何でって……、夏の休みで実家に帰ってきてるんですよ?」

俺がマルセルさんの勢いに驚きつつそう答えると、マルセルさんは何かに気づいたような顔をして大きく息を吐いた。

「はぁ〜、確かにそうじゃったな。夏の休みなんてすっかり忘れてたわい。レオンがここにいるなんて、何か問題があったのかと驚いたぞ」

「驚かせてごめんなさい?」

「まあいい、わしが勘違いしただけじゃからな。入って良いぞ」

「はい。ありがとうございます」

マルセルさんはそう言って工房の中に戻っていく。何か帰ってきてから皆に驚かれてるよな。そんなに問題を起こしそうだと思われてるのか……、ちょっと落ち込むぞ。

「それで、今日は何か用があるのか?」

「マルセルさんに会いにきたっていうのもあるんですけど、一つ相談があって」

俺はいつもの定位置に座りながらそう答えた。

「相談って魔法具か?」

「はい。魔法具というか、もし魔法具を使わなくても作れるのならそれでも良いんですけど……」

「どういうことじゃ?」

「実は、今度スイーツの専門店を始めるんです。なので、そのお店に冷蔵設備を取り入れたいと思っていて……」

「まっ、待て!」

俺が説明を始めたら、すぐにマルセルさんに止められた。まだ何も言ってないけど?

「何ですか?」

「レオンがお店を始めるのか?」

「そうなんです。スイーツの専門店にする予定で、スイーツってすぐに傷むので冷蔵設備が必須なんです」

「そ、そうか……。わしはレオンが店を始めることに驚いてるんじゃが、まあ、レオンなら店ぐらい始めるか。確かに店を始めるぐらい、今までやってきたことと比べたら、普通のことじゃな。うん、そうじゃな」

マルセルさんはそう自分に言い聞かせて、自分を納得させているようだ。

そんなに驚くことだろうか? マルセルさんなら俺がどれだけお金を持ってるのかも知ってるし、公爵家にいることも知ってるのに。お店ってなるとまた違うのかな?

「そんなに驚きますか?」

「いや、よく考えたらレオンじゃし、そこまで驚くことではないな。ただ、スイーツ専門店というところにはそれでも驚くぞ。甘いもの以外は売らないということか?」

そうだった。この世界はケーキ屋とかないもんね。

「はい。基本的にはスイーツだけを売るお店にしようと思っています」

「そうか、それで冷蔵設備が必要なんじゃな」

「そうなんです。スイーツは傷みやすいので冷蔵設備が欲しくて……。何とか氷を使って冷蔵設備を作れないかと思っています。特にガラス張りの箱の中を冷やせるような冷蔵設備が理想です。ただガラス張りは難しそうなので、最悪は断念するのでも構いません」

実は実家に帰る直前にガラス工房から連絡が来て、一応ガラスのショーケースは完成してるんだ。今はお店の中に置いたままにしてある。

見た目はかなり良くて使えるかと思ったけど、意外と隙間があって、特にケーキを出し入れする取り出し口のところに隙間が多かった。氷を入れて冷やしてみたけど、冷え方は微妙だったし氷はすぐに溶けて湿度が凄かった。結露も凄かったんだよね。

まあ結露は室温を調整したり、この前開発した水魔法で水分を取り除いたりで対処出来るだろう。でも隙間はどうにもならない。

ガラス工房の人は傑作だって感じだったし、あれ以上は難しいのだろう。そうなると、やっぱりガラスのショーケースは難しい気がする。

「また難しいことを……」

「すみません。氷で出来たらいいんですが、もしそれが出来なければ魔法具を使ってどうにかならないかなと思いまして……」

俺がそう言いつつマルセルさんをチラッと見ると、マルセルさんは仕方がないというような様子で頷いてくれた。

「わかった。わしも考えてみよう」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

やっぱりマルセルさんは優しい。いつも助けてくれて、本当にありがたい。何でも相談できるお爺ちゃんって感じで、落ち着くんだよな。

「さっきガラス張りの箱と言っていたが、なぜガラス張りなんじゃ?」

「はい。お店のカウンターにガラスの箱を置いて、その中にスイーツを展示したいと思っています。そのためガラスの箱の中を冷やしたいんです」

「またお主は、奇妙なことを考えるな」

「変でしょうか?」

俺がそう言うと、マルセルさんは少しだけ考え込んだあと、首を横に振った。

「いや、もし作れたらお店の目玉となるじゃろう。貴族は新しいものが好きだし流行りそうじゃ」

「本当ですか!?」

マルセルさんがそう言ってくれるなら、作れたら上手くいきそうだ。そうなると、やっぱりガラスのショーケースは諦めたくない。

「ああ、それでガラスの箱は作ってみたのか?」

「はい。大きいのでお店に置いてありますが、大きさはここからその辺りぐらいまでの横幅で、高さは俺の身長より少し小さいぐらいです」

「それはまた、随分と大きいな」

「カウンター代わりにもしようと思って、その大きさになりました。そしてできる限り隙間をなくしてもらうようにお願いしたのですが、やはり難しいようで繋ぎ目部分に隙間が多いんです」

「まあ、そうじゃろうな。中に氷を入れてみたか?」

「はい。冷えることには冷えたのですが、スイーツを保管するには微妙な温度で、さらに湿度が凄くて結露も凄くて……」

問題点が山積みすぎて、どこから改善していけば良いのか途方に暮れたんだよね。そしてとりあえずお店に設置して、実家に帰ってきた。時間をおけば良いアイデアも浮かぶかなと思ったのだ。まあ、現実逃避とも言う。

でも実家に帰りつつ、隙間時間にどうすれば良いのか少しは考えてみた。そこで辿り着いた結論は、やっぱりとにかく密閉すること。とりあえずしっかり密閉すれば、冷えるようにはなるだろう。

でも、その密閉がかなり難しい。隙間に布を詰め込むとかも考えてみたけど、貴族向けのカフェに不恰好すぎるし、中身を取り出すのも仕舞うのも大変すぎる。

さらに結局は、密閉できたとしても湿度の問題は解消されない。というかそもそも、スイーツって湿度があったほうが良いのかないほうが良いのか、どっちかわからない。

湿度がなさすぎても乾いちゃう気がするし、ありすぎたらびしょびしょで美味しくなくなる気がする。

やっぱり問題点が多すぎて大変だ……

と、そこまで考えたところでマルセルさんが口を開いた。

「まず一つ聞くが、予算は考えなくて良いのか?」

「はい。とりあえず考えなくても大丈夫です」

「それならば、密閉性の問題はすぐに解決する。魔鉄を使えば良いんじゃ」

……魔鉄? 確かに、確かにそうだ! 魔鉄なら隙間ゼロも可能だ。

「それはいいかもしれません! あれ、でもそれだとガラスは無理ってことですよね……」

「いや、そうじゃない。魔鉄を変形する時に、ガラスもはめ込んで変形すれば良いんじゃよ」

「ガラスをはめ込んで……?」

「そうじゃ、ちょっと待っておれ」

そう言ってマルセルさんは、工房の端から一枚のガラスを持ってきてくれた。俺が両手を広げたぐらいの大きさでかなり大きい。

「このガラスを窓にするようにして魔鉄を変形させるんじゃ」

そうか……魔鉄を変形させる時って、魔鉄だけじゃなくて何かに魔鉄を沿わせることもできるんだ。

「やってみます!」

「魔鉄はこれだけあれば足りるじゃろう」

そう言ってマルセルさんが差し出してくれた魔鉄を変形させて、まずはガラスの枠になるように魔鉄を形作った。そしてそのまま魔鉄で箱を作り、ガラスの反対側には全く隙間のない引き戸を作る。

ふぅ〜、できた!

「マルセルさんできました!」

「ああ、見事じゃな」

俺の目の前にあるのは、工房の机に何とか載っているサイズの魔鉄の箱で、片面は一面ガラス張りになっている。隙間は全くない。ガラスの反対側は引き戸になっていてスムーズに開くが、閉じると境目がわからないほどにピッタリだ。

俺は日本の記憶から全面ガラス張りに拘ってたけど、確かに中が見えるだけでいいなら一面でも良いんだ!

後ろからは扉を開ければ中が見えるし、スイーツの場所は覚えれば良いだけだ。そうだ、引き戸の一部をガラスにすれば中も見えるようになるな。本番はその改良をしても良いかも。

こんなに簡単に解決するなんて、やっぱりマルセルさんに相談して良かった! 俺だけだとどうしても日本での記憶に引っ張られるし、そもそも俺はものづくりの知識なんて皆無なんだから。やっぱり本職は違うな。