軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

150、夏の休み前日

それから数週間。遂に今日で授業が終わりとなり、王立学校は、明日から夏の休みになる。

夏の休みとは王立学校で夏にある休みのことで、夏の月第一週から第十二週までの六十日間がお休みだ。

六十日もあると長いと思うかもしれないけど、俺はとにかく忙しい。やりたいことが山積みなのだ。

まずは実家に帰りたい。そしてロニーの孤児院に行ってお店の従業員も雇いたい。孤児院でクレープを作る約束もしている。それから森に行って転移魔法やアイテムボックスの検証もしたいし、冷蔵設備の研究もしたい。マリーと釣りに行く予定もあるし、マルセルさんのところも尋ねたい。マルティーヌ達とのお茶会の予定もある。

こうして思いつくものを挙げていくだけで凄い数だ。俺ってまだ子供なのに、働きすぎじゃない?

まあ、自分からやってることが多いから頑張るけどね。

まず最初は、ロニーと共に孤児院に行く予定になっている。そして孤児院にしばらく滞在し、そのままロニーと俺の実家に行く。そのあとロニーはまた孤児院に帰って、俺は実家でしばらく過ごす予定だ。

久しぶりに実家に帰るのが本当に楽しみだ。いつでも帰れる距離だからとか言っておきながら、忙しすぎて全く帰れてないからな……マリーに謝らないと。

早くマリーに会いたい! もちろん母さんと父さんにも!

今は王立学校で、夏の休み前最後の授業が終わり、ロニーと明日の予定を確認しているところだ。

「ロニー、明日は何時集合にする? 中心街近くの市場で買い物をしてから孤児院に帰るんだよね?」

「うん! 確か十二時の乗合馬車があったから、広場に十一時に集合ぐらいかな?」

「わかった。じゃあその時間に行くよ!」

早速夏の休み初日に孤児院へ行く予定なのだ。市場でお土産や中心街でしか手に入らないクレープの材料を買って、乗合馬車で孤児院へ向かう。

ロニーが育った孤児院は、俺の実家から近くはないけど遠くもない微妙な距離にあるようだ。ただ俺の実家から中心街までよりは近いみたいだから、行き来もそこまで大変じゃないと思う。

そうしてロニーと話をして、俺は研究会へは行かずにすぐ帰宅し、公爵家の馬車でダリガード男爵家に来た。

しばらくは俺も来れないから、色々と伝えておかないといけないことがあるんだよね。

ダリガード男爵家に辿り着くと、ちょうどステイシー様も帰ってきたところだったようで、屋敷の前で鉢合わせた。

「ステイシー様、今お帰りですか?」

「そうです。レオンは何の用ですか?」

「実は明日からしばらく実家に帰るので、ヨアンにそれを伝えようと思いまして」

「そうなのですか? しばらくレオンが来ないなんて寂しくなりますね」

ステイシー様はそう言って少しだけ寂しそうな顔をした。そんな顔されるとちょっとだけ罪悪感を刺激される。

マルティーヌ達も同じような顔をしてたけど、俺がしばらくいなくなることを悲しんでくれる人がいるのって、かなり幸せだよな。

「しばらくと言っても、十二週間なのですぐですよ。その間の助言はできなくなってしまいますが、申し訳ありません」

「それは気にしないで下さい。レオンがまた来るときにびっくりさせられるような料理を考えておきます!」

「楽しみにしてますね」

ステイシー様とそんな会話をして、俺はヨアンがいる厨房に向かった。

「ヨアン、研究はどう?」

「はい! かなり良い感じです! 実は三日前に大発見をしまして!」

厨房に行くとすぐに、ヨアンが大興奮でそう告げてくる。凄い勢いだけど、何か開発に成功したのか?

俺は顔をずいっと近づけてくるヨアンから、身体を後ろに反って少し距離を取り、ヨアンに尋ねた。

「な、何か開発に成功したの?」

「はい! これを見てください!」

そう言ってヨアンが見せてくれたのは、白くてふわふわしてそうな何かだった。生クリームとはまた違う。

これだ、これだよ! お母さんがケーキを作るときに使ってたのこれな気がする!!

「ヨアン! これどうやって作ったの!?」

「これは、卵の卵白をとにかく混ぜたら出来ました。実はしばらく研究に行き詰まっていまして、そこでレオン様が卵白が使えるかもとおっしゃっていたので、卵白をどろっとしたものが無くなるまで混ぜようと思ったのです。そしてそれをカラメルと小麦粉と混ぜてみようかと。そこで身体強化を使い卵白を混ぜていたのですが、混ぜながら今後の研究について考えていたところ混ぜすぎてしまいまして、気づいたらこれが出来上がっていたのです!」

そんな偶然だったのね。でもその偶然最高だよ! 確かこれに小麦粉と他にも幾つか材料を混ぜて、オーブンで焼けばスポンジケーキができるはず、多分。

「ヨアン凄いよ! これを使って色々試してみた?」

「はい。レオン様がおっしゃられたように、小麦粉などと混ぜてオーブンで焼いてみましたが、微妙な仕上がりでして……。まだ分量などを試行錯誤しているところです。ただ、これは美味しいものが出来上がる予感がします!」

「それは楽しみだよ。美味しいと思ったものは、全部作り方をメモしておいてね。後でどれが良いか食べ比べして決めようか」

「かしこまりました!」

本当にヨアン凄い。多分これが正解なんじゃないかと思う。これでケーキにまた一歩近づいた!

この白いふわふわのやつ、なんて名前だっけ……?

確か日本での名前があったと思うけど……、これは全く思い出せない。一度ぐらいは聞いたことあるはずなんだけどな。うーん、ダメだ、わたあめしか出てこない。

別に日本の名前を思い出す必要はないし、もう新しい名前を決めちゃおうかな。白くてふわふわで雲や雪みたいだから……ユキ、スノー、クラウド、ホワイト。

うーん、何かしっくりこないな。

「ヨアン、この白いものの名前決めた?」

「いえ、卵白を混ぜたものと呼んでいます」

「じゃあ名前を決めようか。その方が便利でしょ?」

「確かにそうですね。何が良いでしょうか?」

「それが難しいんだよね。何か良い案ある?」

「そうですね……新しいものを開発したときには、開発者の名前がついたり、地名がついたりすると聞いたことがあります」

確かに……! それは盲点だった。人の名前が物の名前になったりすることもあるよね。

じゃあヨアン、ダリガード、その辺が良いかな?

「じゃあヨアンとか?」

「それはダメです! 自分で自分の名前をつけるとか恥ずかしすぎます!」

「確かにそうか……、じゃあダリガード?」

「それは良いですが、貴族家の名前を付けるのはどうなのでしょうか?」

確かに。それは後々問題になりそうな気がする。じゃあ二つを合わせた造語かな。

ヨダリ、アンダリ、ヨアダ、アンガー、アンガード、ヨアガード、ヨガード……ヨガードが一番しっくりくるかも。

「じゃあ、二つを合わせてヨガードはどう?」

「ヨガード、ヨガード、そうですね、良いと思います!」

ヨアンは何度かヨガードと口の中で唱え、それから大きく頷いた。

「良かった、じゃあ決定ね。この卵白を混ぜて作られる白いものはヨガード!」

「かしこまりました。これからはヨガードをもっと活用できるように研究します!」

「よろしくね。俺はこれからしばらく夏の休みで来れないから、その間は何も手伝えないんだけど……」

「それは仕方がないことです。レオン様が戻ってこられるまでに研究を進めておきます」

ヨアンはそう言って頼もしく頷いてくれた。本当にヨアンと出会えて良かった。信頼できる料理人だし、とにかくスイーツへの情熱が凄い。

ヨアンがいなかったら、もっと開発まで時間がかかってただろう。それか、最悪何も完成しなかったかもしれない。

俺がそんなことを考えていたら、ヨアンが急に真剣な表情になり、姿勢をビシッと正して口を開いた。

「レオン様、一つお願いしたいことがあるのです。レオン様は夏の休みの間、クレープの屋台は休みにするとおっしゃっていましたよね? 俺にクレープの屋台を代わりに任せていただけないでしょうか!」

ヨアンはそこまで言うと、勢いよく頭を下げた。

「ヨアン、そんなに改まらなくても良いよ。でも何でクレープの屋台をやりたいの? 研究の時間が減るけど……」

「もちろんレオン様が許可されないのであれば無理にとは言いませんが、私は自分の料理を大勢のお客様に食べていただいたことがないのです。カフェでは下働きをして、賄いを作ったりでしか料理をさせてもらえませんでした。ピエール様に雇っていただいてからも、ダリガード男爵家の方々にしか食べていただいたことがなくて……」

そうだったんだ。確かにそれだと、一度お客様に食べてもらうってことを経験しても良いかもしれない。

ただクレープは、マヨネーズの問題があるんだよね。ヨアンに魔法具を渡すのは避けたいから、やるとしたら公爵家から殺菌済みの卵をヨアンに渡してもらうしかない。

そうなると、かなりの数の魔石に殺菌の魔法を込めて公爵家に置いておいてもらわないとダメだ。

うーん、そこまで迷惑かけるのはなぁ……

ヨアンはスイーツの料理人だし、甘いもののクレープだけでやって貰えば良いかな? うん、それで良いかも。

そしたら蜂蜜バタークレープと、もう一つはどうしよう。クレープは高価なものを使えないのが難しいんだよね。製氷機を使うわけにもいかないし。

果物は厳しい、生クリームも難しいだろう。できるとしたら……カラメルかな? でもカラメルだけでは美味しくないと思う。

うーん、もう一種類だけでも良いかなぁ。まあ、あの屋台は利益を求めてるわけじゃないし良いか。生で食べられる特別な卵が、しばらく入手できなくなったことにしておこう。

「じゃあヨアンにはクレープの屋台をやってもらおうかな」

「本当ですか!?」

「うん。でもお昼の時間が終わるまでね。お昼の時間が終わったら屋台は終わりにして、ヨアンは休憩を取ってから午後に研究。それで良い?」

「はい。ありがとうございます!」

「でも豚肉サラダクレープの方は、特別な卵が手に入らなくてソースの材料が用意できないから、蜂蜜バタークレープの一品だけになるけど良い?」

「問題ありません」

そうしてヨアンと夏の休み期間のことについて色々と話し合い、夕食に間に合うかギリギリの時間にダリガード男爵家を出て帰路についた。

ヨアンが屋台をやってくれるとは思ってなかったけど、休みにしなくて良いのはありがたい。やっぱり十二週間も休みにしておくと、お客さんに忘れられるのではと思ってたんだ。

これで何の問題もなく実家に帰れるな! 俺は久しぶりに帰る実家に少しそわそわとしつつ馬車に揺られた。