軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 光る女神像 前編(アレクシス視点)

いつものように執務室でリシャールや文官たちと仕事をしていたところに、一人の騎士が火急の連絡ということで入ってきた。魔物の森で何か問題でも起きたのか……?

「陛下、中央教会の職員が火急の連絡があるとのことですが、こちらに通しても良いでしょうか?」

魔物の森ではないのか。しかし、中央教会の職員が火急の連絡とは……今までにないことだ。一体何があったのか。

すぐに話を聞いた方が良さそうだな。

「ここに通せ」

「かしこまりました」

何が起きたのかわからないが、面倒ごとの予感しかしないな。魔物の森と国内の情勢で手一杯なのに、これ以上の面倒ごとは聞きたくない。だが聞かなければいけないのが私の立場だ。

はぁ〜、気合を入れ直さなければ。

「リシャール、なんの話だと思う?」

「私にもわかりかねますが……中央教会で至急陛下のお耳に入れなければならないこととなれば、思いつくのは女神様関連の話だけでございます」

「だが、女神様についての火急の連絡など何かあるだろうか…………まさか!! 神託があったのか!?」

私は思わず立ち上がってしまった。確か使徒様がいらっしゃっていた時代には、女神様からの神託は何度かあったと記録にある。

今はレオン様がいらっしゃる。本当に神託があったのかもしれない……

「陛下、そのように慌てずに座ってお待ちください。すぐに中央教会の職員が参ります。話を聞いてから対策を協議いたしましょう。とりあえず、すぐに手をつけなければならない仕事はありませんので、本日は通常の仕事は終わりにいたしましょう」

「そうだな。リシャールありがとう。では、今やっている仕事は明日以降に回す。片付けを始めてくれ」

私がそう言うと、文官達は仕事の片付けを始めた。私はもう一度椅子に座り中央教会の職員が来るのを待つ。

それからしばらく待ち、文官達があらかた片付けを終えたところで中央教会の職員が来た。

「陛下、急な御目通りを許可していただき大変ありがたく存じます」

「ああ、それで何があったのだ?」

「はい。本日の九時頃、中央教会礼拝室の女神像が神聖な光を放ちました。目撃者は三名、皆平民です。目撃した平民は光が収まった後、その事実を中央教会の受付ホールにて叫び、その場にいた人々は皆礼拝室に殺到しました。そして礼拝室に人がたくさん集まると、また女神像が光を放ち始めたようです。今は噂を聞きつけた平民がたくさん押し寄せております。女神像には指一本触らせないように常駐の騎士が対応中です」

神託ではなかったか……ただ、女神像が光るとはどういうことだ?

中央教会の礼拝室と女神像は神の遺物だ。劣化することも壊れることも汚れることもない。人の悪戯ということはあり得ないだろう。そう考えると、女神ミシュリーヌ様からの何らかの知らせだろうか……?

詳しくはわからない、わからないが……女神様はこの国を、この世界をお見捨てになられてはいなかったのだ。それだけはわかる。

使徒様がこの国を作られてから数百年。なんの音沙汰もなく、女神様の存在を信じてはいたものの、心の底では既に見捨てられたのではないかという気持ちを否定しきれなかった。

それによって近年は特に、女神様や使徒様の教えを守り続ける大変さを痛感していた。既に半数以上の貴族に信仰心はなくなり、自らの権利を高めるために教えに背こうとしている。女神様や使徒様の教えが形骸化し始めている今、教えに背く勢力が現れることも必然だ。

これは頭の痛い問題であったが、解決するのは難しかった。王家が正式に女神様や使徒様の教えを守ることを表明すれば、内戦が起こる可能性が高かったのだ。

今までは教えに従うことが当たり前であったが故に、女神様や使徒様の教えの支持を表明していなかった。その事実をうまく使い、のらりくらりと躱してきたのだが……それも限界が来ていた。

一部のものが権力を得て他のものを虐げる国は、いずれ廃れていくのだ。そのことを考えても、国として教えに背く選択をするなどあり得ない。

今回の出来事を大々的に知らせ女神様や使徒様の教えを広めれば、また信仰心も高まるだろう。

これは、王家の考えを示す良い機会なのかもしれないな。

「報告ご苦労。今もまだ光を放っているのか?」

「私が中央教会を出た時はまだ光っておりました」

「わかった。これから対応を協議するので下がってくれ。とりあえずは混乱を収めるために騎士を派遣しよう」

「かしこまりました。大変ありがとう存じます。では、失礼いたします」

中央教会の職員は下がって行った。まずは混乱を抑えるための人員が必要だろう。私は職員を連れてきた騎士に告げた。

「まずは中央教会に騎士を派遣する。とりあえずは十名、第一騎士団から派遣だ。それで足りなければ増員してくれ」

「かしこまりました」

次は今後の対応を話し合わなければ……まずはリシャールと二人で話し合ってどこまで話を通すのか決めよう。

「リシャール、今後の対応を協議する。他の者は下がってくれ」

執務室の中に私とリシャールだけになり、私たちはソファーに向かい合って座った。

「私は此度のこと女神様からの何らかの知らせだと思う。お前はどう思う?」

「私も同意見です。あの女神像は神の遺物でございます。人が悪戯で光らせることはできませんので、神聖な光を放っていたということは女神様本人によるものだと思われます。どのような意味があるのかは分かりかねますが、思いつくものを挙げるとするならば、大きな災害の可能性、魔物の森の異変などでございます」

リシャールの考えはわかる。女神様からの知らせだからな。何かしら悪いことが起こる前兆であろう……

それが何なのかわかれば対策のしようもあるのだが。

「何かしら悪いことが起こる前兆である可能性が高いな。ただ、その内容がわからなければ対策は難しい。とりあえず、魔物の森に常駐している騎士の数を増やすべきだろうか?」

「このようなことが起こるとはただ事ではないでしょう。できる限りの対策はしておくべきだと思います」

「では、魔物の森に常駐する騎士の数を増やす。詳細は後日、騎士団長を集めた会議で決めよう」

「かしこまりました。手配しておきます」

そこで一旦沈黙が流れた。多分リシャールも考えてることは同じであろう。

「リシャール、女神様はこの国を見捨ててはおられなかったな。レオン様が我々の元に現れてくださった時にもそう思ったが、レオン様が使徒様だという確固たる確証は未だなかった。だが今回の出来事で私は確信した。また女神様がこの国に戻ってきてくださったのだ。そして、使徒様を遣わしてくださったのだ」

「陛下……私は信じておりました。女神様はこの国をお見捨てになられてはいないと。それが証明されて大変嬉しく存じます。それから、レオン様は使徒様で間違いないでしょう。ただ、それを隠されている以上、今までと同じように気づいてないふりをしているのが良いと思われます」

「レオン様については今まで通りでいこう。ただ、今回の出来事は伝えてくれるか?」

「かしこまりました」

何かしら理由があって隠しておられるのだろうが、今回の出来事が何かのきっかけとなると良い。

「それから、今回の出来事は国中に大々的に知らせることにする。また、それに合わせて女神様や使徒様の教えも再度広める予定だ」

「それは……! では、王家は私達の勢力を支持するということでしょうか?」

「ああ、女神様や使徒様の教えを支持し、平民とは助け合っていくことを徹底させる。理不尽に権力を振りかざしていたら、相手が平民であろうと貴族も罪に問うことにする。昔はそのような仕組みだったのだ。いつからか形骸化してしまったが……」

「陛下のご決断には敬服いたします。ただ、急にキツくしてしまうとそのまま内戦になる恐れもございます。ここは少しずつ厳しくしていかれるのが良いのではないかと愚考いたします」

「確かにそうだな……しかし、女神様からの知らせがあってなお、それに背くものがいるだろうか?」

貴族ならば使徒様の素晴らしさと並んで、その力の強さや怖さも学んでいるはず……逆らうとは思えないが。

「自分の権利を高めようとしていたところにそれと逆のことを言われ、受け入れられるものは少ないと思われます。また、自らの目でその怖さを知らなければ、納得できない者も多数いるでしょう」

確かに貴族の中には、生まれながらに権力を持っていることから、自分が選ばれた強い存在だと誤解している者も多数いる。

今のタイミングでも内戦になってしまうだろうか?

「王家が女神様や使徒様の教えを支持したら、今のタイミングでも内戦は避けられないと思うか?」

「いえ、今のタイミングで少しずつ厳しくしていくのであれば、勢力を変える貴族もいるでしょうし、そうでない貴族も表面上は従うと思われます。しばらくは様子見となるでしょう。そのあとどうなるかは、陛下の手腕に懸かっております」

それならばどうにかなる。すぐに内戦となってしまうと打つ手がなくなるが、そうでないならばやりようはあるだろう。内戦となり罪のない国民の命が奪われる事態は何としても避けなければならない。

レオン様が使徒様として力を示されて、国を導いてくれるのが一番早いのだが……人任せではいけないな。私がこの国の王なのだ。

「それならばどうにかなるだろう。優秀な臣下もいることだしな」

「恐れ入ります」

「では、国民に伝える内容などを詰めたいところだが、まずは女神像を見に行かないか?」

「見に行かれるのですか……?」

リシャールは先程までは従順な臣下の顔をしていたが、急に顔が崩れて呆れたような顔になっている。

そんな顔をしなくてもいいだろうに。神聖な光ともなれば見に行きたいだろう?

「この国の王として一度見ておくべきだろう」

「……確かにおっしゃる通りでございます。では手配いたしましょう」

リシャールはそう言って、下がった文官と護衛騎士を呼び戻した。

「これから陛下と私で中央教会の礼拝室に視察に向かう。急だが手配を頼む」

「かしこまりました」