軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第295話「再現性の問題」

#第295話「再現性の問題」

透子さんから最新の使役モンスターのFS遷移の話を聞いた。

政府と自衛隊がかなり前向きということで、まずは予算の問題が解消されたらしい。

ただし”購入した宝箱から出てきた使役モンスターはほとんどFS遷移しない”ということも分かって、お金だけではうまくいかないということも判明したとのこと。

予算が潤沢になったことで理論上はテストが順調に進むと思われたが、うまくいかない。自力で宝箱を出す人員が必要という結論になっただけだ。

そこで次は自衛隊の出番。自衛隊ならばそれなりに人がいる。更には力もあるのでダンジョンで戦うのも全く問題がない。秘密もある程度は守れる。ぱっと考えるといいこと尽くめだ。

隊員によっても良い訓練にもなるということで多くの人員が用意された。

しかし、その先にも問題が出てきたらしい。

透子さんはややがっかりしたように語った。

「なんと、屈強と思われた自衛隊員でも根を上げてる人がいるんだよね」

毎日ひたすらスライムを倒すだけ。1万体という先の見えない同じような単調作業。

給料が出ているとはいえ、淡々とモンスターを倒し続けるのは精神的にきついらしい。まあダンジョンでの討伐は体力だけの問題ではないからね。同じ作業の繰り返しはきついのかもしれない。

「レンは凄いよ。お金もほとんど出ないのによくあんなこと続けられたね。自衛隊でも根を挙げている人が出ているのに」

凄いという本来は褒め言葉ではあるが、透子さんの目が遠くを向いているような気がする。どうやら半ば呆れれている様子だ。

確かに俺は、ほとんど金にならない状況で淡々と同じ作業を続けていたよな。夜など開いている時間はバイトしながら、睡眠時間を削ってのぎりぎりの生活だった。

よく考えると、その時点でちょっと異常だったかもしれない。

一方で自衛隊の人達はまがりなりにも給料は出る。しかも体力も気力もある人達の集まりのはず。それにもかかわらず脱落者がぽつぽつ出ている状況らしい。単純作業はそれだけきついのだろう。

でも俺はそこまできつかったような気がしないのだよね。もちろん大変だった部分はある。体力的にはしんどかったけど精神的にはそこまでとは思わなかった。

そこで俺はその当時のことを振り返った。

まず俺には“宝箱が出るかもしれない”という希望があったんだよね。そして何より、”強くなりたい、負けたくない”という執念があった。

理不尽にクランを追い出され、当時の彼女を取られたのは悲しい出来事だったけどそれが俺を強くしたのかもしれない。

また、他にも要因はある。

俺の無課金ゲーム脳が役に立ったのかもしれない。

今思えば、一階層でのダンジョン攻略よりも、ゲームで無課金で課金に対抗していた時期が一番大変だったかもしれない。ダンジョン攻略には曲がりなりにもレベルアップという先が見えていたからね。希望が確実にあった。

ゲーム時代はもとにかくきつかった。やはり課金は強い。俺たちの苦労を一瞬で無にされた。頭を捻って思いついた攻略でなんとか差を付けても、すぐに課金であっさりと否定される。でも、そこから更に這い上がろうとしていたよな。

更にはゲーム時代も新しい人間が入ってきて俺のやり方を真っ向から否定されてクランから追い出されたんだ。

それでもめげずにふんばり、今度はダンジョンで頑張った。ほんとよくやったよな、俺。変な話だけど当時の俺を褒めたくなるよ。

そこで俺は提案した。

「ゲームを無課金で攻略させてみれば? メンタルが強くなる、間違いなく忍耐力が付きますよ!」

「無理、さすがにそれは遠回りすぎるよ」

あっさりと透子さんに却下された。ひよりやルナの方を見たがそりゃそうだろうという表情。おかしい、少なくともルナならば分かってくれると思ったのに。そういう目を向けたからかルナが解説してくれた。

「レン、私たちはゲームで課金勢に対抗する、絶対に課金には負けないという目的意識もあったからな。その思考を普通の人に落とし込むのは無理だと思うぞ。何よりも効率が悪い。ゲームをやらせたところでそんな気持ちになれる人はおそらくはほんの一握りだ。私とレンような人間はそうはいない」

なるほどね。そう言われてみればそうかもしれない。無課金で課金勢に勝つのはかなり大変だし、やろうとも思えないかも。そんな修行僧のようなことをする人間はいないと言われれば納得せざるを得ないかな。

そこで透子さんが話を続けた。

「でさ、その試練を乗り越えてもまだ問題があるんだよ。ようやく1万体を倒して金箱が出ても、その宝箱から使役モンスターが出るとも限らない」

研究は少しずつ進展しているが、まだまだ壁が多いようだ。

自衛隊で頑張った人のうち何人かは1万体倒してレベル2に到達し、更には宝箱が出て大喜び。

単純作業の連続でその喜びは凄かったことだろう(現実には二階層で更に大変なことをするのだけどね)。

しかしそこで再び壁があるわけだ。

宝箱から使役モンスターが出る出現率は約三分の一。

最初の関門の1つだ。

さらに使役モンスターが出て名付けをしても、FS2に遷移しないケースが半数近くあったらしい。

半数、すなわち50%ならば素晴らしいと言えるかもしれない。最初の0.5%から考えたら100倍の効率アップ。

御の字とは言える。それでもやはり、そこまでの大変さを考えたら厳しい数字とも言えそうだ。

喜びもつかの間、次々と新しい壁が出てくる状況でなかなか研究は進まない状況らしい。

「新しい壁が分かるだけでも大きな進歩だけどね。結果はまだ付いてきていない」

透子さんはそう言ってため息を付いた。

大変だな。そう考えると透子さんも俺たちと同じように、戦っていると言えるのかもしれない。