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作品タイトル不明

第292話「消された真実」

#第292話「消された真実」

北海道・鹿部町にある駒ヶ岳ダンジョンの氾濫。本来は世界最大規模の氾濫だった。日本の上層部は大混乱に陥った。

しかし、その後、その世界最大規模の氾濫の扱いは表向きには“小規模な氾濫”へと修正された。

理由は単純だ。

レンたちを含む自衛隊特殊部隊の話を隠したままで伝えたら全く辻褄が合わないのだ。

レベル3のモンスター三百体。

それが事実のまま公表されれば、いくつもの疑問が噴き出すのは当然。

それほどの規模のダンジョンの氾濫が起きたのに、なぜ被害が少ないのか。しかも迎撃戦の記録さえないのは何故か。

そもそもとんでもない氾濫のはずなのに、なぜ極めて短時間で沈黙したのか。撃退情報が届いたのはダンジョン氾濫からわずか4時間を過ぎた辺りだった。

レベル3のモンスター三百体の討伐としては絶対におかしい。モンスターを一か所に集めて空爆などの爆撃でもしない限りはあり得ない。もちろん、そんなことをすること自体が不可能だし、仮にそうだとしても焼け野原ができるはずだがそんな報告もない。

だから、政府はその「レベル3のモンスター三百体」という情報を誤情報という扱いに、すなわち小規模の氾濫が起きたことに修正した。

それが一番簡単でもっともらしいからだ。

日本のトップクラスでも、本当の真実を知るのはごく限られた者のみということで情報の操作も比較的簡単だった。

トップ層で知っているのは3人のみ。

・高泉首相

・大泉防衛大臣

・そして自衛隊トップ、幕僚長の高倉。

他に知っているのは自衛隊のダンジョン特殊部隊、ハンター協会の朝倉、そしてトップハンターの黒澤、エリナ、透子といったメンバー。

だから公式情報を変え秘密を守ること自体はそれほど難しくはなかった。

だが――。当然のことながら不思議に思う人間は多数出てきた。

「何かがおかしい」

そう感じた人間は少なくなかったのだ。特に、自衛隊内で多くの情報に触れている上層部ほど違和感を抱いた。

確かに“北海道の駒ヶ岳ダンジョンにてレベル3のモンスター三百体が氾濫”という報告があった。それは間違いないことだ。

それが誤情報?

あまりに不自然だ。そんな肝心な情報を間違うはずはないだろう。

だが、それ以上の情報は降りてこない。

深く追及しようとしても壁にぶつかる。何も情報が出てこない。そもそも実際に知っている人がほとんどいないのだ。調べても情報が出てくるはずもない。

やがてそれは、腹の探り合いのような空気へと変わっていった。自衛隊内部でも噂のみが行き来した。

そのうちに最終的な公式発表が出てきた。

「北海道・鹿部町にある駒ヶ岳ダンジョンにて小規模の氾濫が発生。現地の自衛隊が難なく鎮圧」

それが記録に残る事実となった。

当然、現場にいた函館駐屯地の隊員たちを中心に不満が出た。

「誤情報だと?」

あの緊張は何だったのか。

説明を求めるが、上からの説明は曖昧だ。現実に上の人間も分からないからどうしようもないのだが、現場で動いた人間としてはどうしても納得できないものもいた。

しかし納得させるしかなかった。

こうして情報は、いったん収束した。

――ただし、それも表面上だけである。

さすがに完全に抑え込むことなど不可能だ。

人が多ければ、漏れも出る。いくら自衛隊が優秀な人間の集まりだとは言っても、個々でレベルの差はある。秘密厳守のはずがそれなりに情報は漏れ出た。

「駒ヶ岳ダンジョンの氾濫は大規模だったはずだ」

「函館は本気で危なかったらしい」

そんな声がSNSに流れた。そして漏れ出てきた情報の中にはそれなりに具体的な話もあった。函館駐屯地は最大規模で動いたというものなどだ。

だが、それ以上の裏付けがない。やがてその後は妙な現象が起きた。

似たような“全く別の場所”での氾濫情報が次々と流れる。

・規模が違う

・場所が違う。

・日付が違う

真実に“少しだけ近い偽情報”が大量に出てきたのだ。すると、当然のことながら他の地域では完全にその噂が否定される。

「あそこでは何も起きていない。そこで活動しているハンターの俺が言うのだから間違いない」

「おいおい、嘘だろ、あそこは自衛隊さえ動いていないぞ」

それは当然だ。他の地域では氾濫情報は全くなく、自衛隊も動いてさえいないのだ。

だが、似たような情報がいくつも出てくると、結果として本物のリーク情報までもが信用を失っていった。

やがて北海道の駒ヶ岳ダンジョン氾濫は、その氾濫そのものさえも半ば都市伝説のような扱いになっていった。

本当に駒ヶ岳ダンジョンで氾濫があったのか?ぐらいの扱いに収束していったのだ。

そうなると誰かがSNSで真実を言及しても、もう誰も信用しない。

「北海道の駒ヶ岳ダンジョン氾濫はレベル3が三百体の大変な規模だったらしいぞ」

すると、別の誰かが笑う。

「また陰謀論かよ。氾濫があったことさえも怪しいと言われているのに、嘘乙」

そうして北海道の駒ヶ岳ダンジョンの大規模氾濫は噂情報として、真実は静かに埋もれていった。

――裏では、当然政府の働きがある。

本物に近い偽情報を意図的に混ぜ込んだのである。

・規模が違う氾濫情報

・場所が違う氾濫情報

・日付が違う氾濫情報

様々な偽情報を入れての情報の攪乱。それが最も効果的だった。現時点で、真実を知るものはほとんどいない。