軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第150話「大人社会の恐ろしさ」

#第150話「大人社会の恐ろしさ」

定期報告の後、俺はひより、ルナと一緒にクラン『白嶺』のオフィスへ向かった。

入口をくぐった瞬間、思わず感心する。

――おお、まるで普通の会社みたいだ。

机が並び、資料棚が整理されスタッフらしき人たちが忙しそうにパソコンを操作している。その姿は真剣そのもの。見た目に仕事ができる人達という印象だ。

『暁の牙』のオフィスはマンションの一室を改装したような雰囲気だったから、随分と印象が違う。

このあたりはトップの好みの問題なのかもしれないな。俺も将来的にはこういったオフィスを作ることになるのだろうか?それはさすがに気が早すぎか。

そんなことを考えていると、エリナさんから話しかけられた。

「朝倉さんのことで、何か聞きたいことがあるのよね?」

「はい。ちょっと失礼な話かもしれませんが……どこまで信用していいのか、少し迷っていて」

俺がそう言うと、ルナが隣で軽くうなずく。

エリナさんは少し目を細めて、ため息をついた。

「それはルナからの助言かしら?」

「はい、そうです」とルナが答える

「そう……やっぱり、あなたから出た話なのね。でも、そろそろそういった話をしようと思っていたところだから丁度良かった。正直に言うわ。朝倉さんは“信用しない方がいいわよ”」

「えっ?」

あまりに即答だったので、思わず声が漏れた。

エリナさんは朝倉さんと一緒にいることが多いから普通に仲間だと思っていた。まさかそんな言葉が返ってくるとは。一体、どういうことなのだろう?

エリナさんは腕を組み、ゆっくりと言葉を選びながら続けた。

「まず誤解させるといけないから言うけど私は“朝倉さん側”の人間で間違いないわ。詳しくは少しずつ話するけど私は私の考えで彼の側についているの」

「ハンター協会の内部はね、以前少し話をしたかと思うけど大きく二つに分かれているのよ。一つは“企業側”。企業側は自由化を進め、ダンジョンの規制を緩めたい派ということになるわね。そしてもう一つは“公務員側”。公務員側は政府寄りで規制を維持しようとする派ね。そしてこれは朝倉さん側でもある。この2つは様々な点で対立しているけど、どちらが正しいとも言い切れない。そこは個々の判断に委ねられるわね」

彼女はデスクの端に腰をかけ、視線を少し下げた。

「例えば、企業側が出している案のひとつには“13歳以上、すなわち中学生以上ならダンジョン入場を認めるべき”というものがあるの。早いうちからダンジョンに慣れれば成長が早くなり、安全に討伐ができるようになる、更には子ども向け装備の販売も増え経済も回る。少子化で行き詰まっている日本経済の起爆剤になる。それによって多くの人が救われる。理屈としては理解できるでしょ? 良いこと尽くめだし」

「そうですね。いい案だと思います……いや、でも、それは危険じゃないですか?13歳ではさすがに早すぎると思います。1階層ぐらいまでなら大丈夫かもしれませんが」

「もちろん危険よ。だから公務員側は危険だからダンジョン入場の低年齢化は許されないと否定するわ。でも一理あるから完全には否定できない。そして意見がぶつかる。こうして、理屈と正義がぶつかるのが“ハンター業界の現実”なのよ。他にも企業側は様々な形で自由化を求めているわ。それは一見正しそうに見える提案だけど見極めは慎重にしないと駄目ね」

エリナさんの声には苦味があった。

「朝倉さん個人が悪いとは思う必要はないわ。でも彼が公務員側の重職にいる以上、政治家など影響力のある人たちの意向を無視できない。それがおかしな意見でもお世話になってきた人ならば賛同しなければいけないケースもあるでしょうね。大人の世界では正義よりも“利害”が優先されることも多いの。札束が飛び交う、そんな汚い世界でもあるの」

「でもその人達も家族があって守るものがある。上の意見がおかしいからと言って簡単に反発すると最悪クビになり大切な家族さえも守れない。そのため基本的には従わざるを得ない。これまでの言動と矛盾していても押し通すケースもある。家族を守るためなら、それを全て否定するのもおかしな話。結局、何が正しいのかなんて誰にも分からないもの。最終的に多少、安易な方向に流れても仕方がないのね。その決断は責められるものでもない」

俺は息をのんだ。

ルナが言っていた「大人は自分の正義のために裏切る」という言葉が、頭をよぎる。その正義も多種多様だ。人によって違うのだろう。

となるとその判断が間違っているとも言い切れない。そしてそのために俺は裏切られる可能性もあるかもしれない。

でもそんなことを言い出したら俺は誰を信用したらいいのだ?朝倉さんでも信用できないならばエリナさんを信用すればいいのだろうか?

俺はもしかしてとんでもない世界に入ってきてしまったのだろうか?

そう思っていたらエリナさんが会話を続けた。それは更に俺に考えを求めるものだった。