軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第122話「立ち位置(紗月視点)」

#第122話「立ち位置(紗月視点)」

私は何度も司くんに忠告したんだ。

「石動さんに相談してからにしようよ」――でも、彼の暴走は止まらない。どこからかお金を集めてレベリング人材を雇おうとした。

結局、私は社長直轄の司くんの相談役、石動慎一さんに連絡した。やはりというべきか、石動さんはすでに司くんに見切りを付けていて淡々と準備を進めていた。

石動さんもなんだか悲しそうだ。本当は司くんに独り立ちしてもらいたくて道筋を作ろうと動いているのに司くんはその真逆な方向に動く。だからどうしようもない。現状では彼から選択肢を奪って突き落とすしか選択肢はないとも思える。司くんのリーダー降格は決定的だ。

そして、その時が来た。

夕方の会議室。石動さんは集まったクランメンバーの前で淡々と告げた。

「御影さんはリーダー降格です。新リーダーは――佐藤くんになります」

いきなりの発言に空気が凍るかと思ったけれど、誰も反論しなかった。そりゃそうだ。みんな我慢していただけで司くんにはとっくに愛想を尽かしている。

そして、そんな絶望的な状況でいちばん真面目にダンジョン活動を頑張り続けていたのは佐藤くんだ。妥当だろう、というより他に選択肢がない。おそらくは他のメンバーもそう思っているはず。

そして石動さんのことだ。すでに各メンバーに佐藤君で良いかどうかも確認していることだろう。

石動さんは必要事項だけを手短に伝え、さっさと部屋を出た。

――そして、おそらくこれも計算。石動さんがいない場で司くんがどう振る舞うか、その勝手な振る舞いをみんなに見せつけようと思っているのだろう。そうすれば更にみんなの心は司くんから離れていくはずだ。

その思惑通りに司くんは最後までもがこうとする。それは蜘蛛の糸に絡んでいる虫のようにも思えた。もがけばもがくほど体力を使い果たして状況が悪くなり術中にはまるだけだ。ある意味でこっけいだな。戦いにもならない。あまりにも一方的だ。

怖いけれど、これが大人のやり方なのだろう。場当たりで動く司くんには勝ち目がない。

それでも、私は司くんが真面目になって欲しいと思う。最後まで諦めたくはない。石動さんもそれに賭けているのだろうと思う。

(今からでもぎりぎり間に合うかもしれない。石動さんの指示どおり真面目に動けば。そして信頼を積み重ねていけば――みんなが認めてくれる可能性があるかも)

そう思った矢先、司くんはやはり反発した。予想通りとは言え悲しい。

「みんな、こんなやり方を飲んでいいのか? 何をするにも書面提出って完全に手綱を取られているんだぞ。あり得ない話だ。こんなの俺たちに自由は全くないぞ? 俺たちはクーデターを起こすべきだ!」

はぁ、クーデター?もしかして独立を考えている?馬鹿馬鹿しい、そんなことして何のメリットもないだろうに。本当に考えが軽すぎる……でも司くんの暴走は予想どおりのこと。しかも、石動さんがいない時だけ強気。

これもすぐに報告が上がるのに――そんな簡単なことさえ、今の彼には見えないのだろう。彼の安直な行動にため息しか出ない。

一人のメンバーが勇気を振り絞って前に出た。

「御影くん、それは仕方ないよ。実質クランを仕切ってる石動さんが言うんだ。その通りにするしかないよ。それに社会人になったら書面提出は常識、今までのような学生時代のノリは無理だよ」

彼は私に似たタイプの人間だと思う。現状を把握し計算して動く。今は石動さんに付いた方が得だと判断して言及したのだろう。そうすればクラン内でも立場が有利になる。ならば私も動くか。

私も口を開いた。

「私は司くんの言うことも一理あると思うよ。でも、今は石動さんが事実上の実権を握ってる限りはしかたないよ。言う通りにやらないとクランから追放されるかもしれない。それは司くんも困るよね……だから言う通りにやろうよ、ねっ?チャンスはまた廻ってくるよ」

司くんの味方であることをアピールしつつもクランを回すことを優先するべきだと発言した。これである程度はクラン内での立ち位置も確保できるはず。

佐藤くんはそれを受けてまとめようとしてきた。うん、私の発言を受けてだから良い流れだ。これでいいはず。

「みんな、石動さんの方針に従うことで一致、でいいかな。反対の人は手を挙げて……いないようだね」

「では計画に沿って、討伐はレベル5の御影君が中心になります。明日から週5で6時間、レベル3の人たちをレベル4に引き上げる補助を御影君にはお願いしますね――」

司くんはなおも反発する。

「ふざけんな! 実権は石動や佐藤が握って、きついことだけを俺がやる?そんな馬鹿なことができるか! おかしいだろう!」

……最悪だ。こう言うだろうと、たぶん石動さんは全部読んでいた。佐藤くんは顔をこわばらせながらも、はっきり返した。

「困るよ、御影くん。討伐の中心がいなくなるのは本当に困る。でも、石動さんの計画に従えないならクランからの追放が選択肢になるよ。……御影君はそれでいいの? 一緒に頑張ろうよ」

うまく石動さんを後ろ盾にしている。何かあっても石動さんの責任にできるから弱気な彼でも強気に出れる。そう仕込んだのは石動さんだろう。本当に怖い人だ。何があっても石動さんだけは絶対に敵に回してはいけないな。

思えば石動さんも忙しいはず。それなのに片手間で司くんを計算通りに落としていく、もしかしたら駄目な人間を追い落とす方法を実践として私達に見せつけるためにわざと私達に時間を与えているのかもしれない。その時にどういう立ち位置を取るべきか判断することも勉強になる。私たちの成長を促している。おそらくそれは会社にとってもプラスになるだろう。

どこまで計算づくなのか?そこまで考えると石動さんは本当にやばい人だ。そりゃそうか。御影社長から信頼されている人間。たくさんの修羅場を潜り抜けてきたのだろう。司くんを落とすなんて赤子の手をひねるようなもの。そしてその状況さえも会社の利益のために利用する。どこまで計算しているのか私なんぞには測りようもない。

会議は、それで終わった。散っていく背中を、私は黙って見送る。

今の司くんは救いようがない。

高校のとき、私が選んだ“安定”は、たしかに当時の正解だったはず。けれど今、彼は自分で自分を追い詰めている。冷めていた気持ちは、さらに急激に冷えていくのが自分でも分かった。状況によっては完全に離れることも選択肢だ。

私も計算して動くしかない。

立ち位置はクラン側――それは譲れないだろう。けれど同時に、司くんの「唯一の味方」という札も、手元に残しておく。彼は社長の息子。どこかで状況が反転する可能性はゼロじゃない。

その時に、私はすぐ立場を切り替えられるようにしておく。薄情?いいや、生き残るための術だから当然のこと。私は私の人生を切り開く。

高校のときに選んだ道は、今から見れば間違いだったのかもしれない。でも、あの時はほぼあれしか選択肢がなかったから仕方がないんだ。

――でも今度はいくつかの選択肢がある。それが見えるようになった今は絶対に間違えないようにしないと。いつでもどちらにでも動ける立ち位置の確保は絶対だ。

私はスマホを握り石動さん宛の下書きを保存した。これで連絡はいつでも送れる。要望されたらすぐに応えるべきだろう。

私は冷えきった心で次に進む準備をしていた。