作品タイトル不明
第120話「実権は俺だ・その1(司視点)」
#第120話「実権は俺だ・その1(司視点)」
あー、くそ、むかつく。
俺の極秘調査によれば、あの結城――例のゴミ漁り――はクラン『暁の牙』と合同討伐までやったらしい。
どうしてそうなる? 奴はオレオレ詐欺の元締めで金を作ってるに決まってる。あいつと一緒に行動するとか爆弾を抱え込むようなものだぞ!
……ふん、エリナといい『暁の牙』といい、本当に見る目がないな。
今に結城と一緒に転落するだろう。テレビのニュースにでも出てくれればいい。付き合う人間が悪いってだけの話だ。ふん、あいつらにとっては安い授業料だろ。
――と、他人の失敗を考えている場合ではない。それよりも大切なことがある。
俺はクラン『エクリプス』のリーダーを降ろされることが決定した。くそむかつく、石動のやろう。親父の点数稼ぎのためにちょこまか動きやがって。
だが終わりじゃない。実権は裏で握ればいい。表の看板が変わるだけだ。
会議室。石動が淡々と立つ。
「本日付で、クラン『エクリプス』のリーダー司さんは解任します。そして新リーダーは佐藤君。基本的な運営方針は『安全最優先、計画的なレベルアップ、日次報告義務化』などです。日次報告義務化は縛るようで申し訳ないのですがサボリ魔がいるので許して欲しい、異論はあるかな」
サボリ魔という言葉に笑い声が起きる。ほんと困った奴がいるのだな。さぼっていて強くなれるはずがないだろうに。まあいい、そんな奴はほっておけばいい。
そして石動には本当に腹の底が煮え立つ。俺のクランを本気で乗っ取ろうとしやがる。こんなひどいやり方をしていたら今に反発が起きるだろう。誰かがきっと怒り出すはずだ。
しかしメンバーは石動の言葉に頷くだけだった。誰か1人ぐらいは俺のリーダー解任に反対の声を上げてもいいだろうに。くそ、石動め、完全に手懐けてやがる。紗月もだ。面倒を見てやった恩も忘れて、涼しい顔で前を向いてやがる。こいつもなんて奴だ。
石動は続けた。
「予算執行は私の承認制になります。必要な費用があれば各自フォーマットに従って書面を作って佐藤君を通じて申請してください。当然のことながら必要なものは全面的に認めますが例外もあります。必ず事前にお願いします」
「また基本計画は佐藤くんが作っています。そちらはすでに承認済み。その計画に変更がある場合は必ず私に書面で伝えてください。“口頭決裁・変更は禁止”です」
「すなわちいつもと違う特別な行動をする場合は必ず書面で連絡を。もちろんクラン活動は義務ではありません。休みを取るのは各自の自由ですがそれも書面で事前申請をお願いします。ではあとは自由にミーティングをなさってください」
それだけ言うと一礼し、会議室を出ていった。
よし、本番はここからだ。
俺は立ち上がり、ゆっくりと場を見渡す。空気は重い。だからこそ、強い声で押し切るのが正解だ。
「――佐藤。とりあえずリーダーは譲る。だが実権は俺だ。方針は俺が決める。分かったな?」
佐藤は目を瞬き、すぐに立ち上がる。気弱な顔。そう、それでいい。
「御影さん。ご意見は伺います。ただ、決定は――」
「決定は俺がする。お前は印鑑を押すだけでいい」
沈黙。メンバーが固まる。ここで一押しだ。
「いいか? 俺には経験と人脈がある。交渉もレベリング人材も装備ルートも俺が握ってる。お前が空気読んで動けば、皆が早く強くなる。反対する理由はないよな?」
佐藤は視線を落とし、拳を握った。ほら、来た。
「……分かりました。ではきちんと“書面で”御影さんの提案をください。討伐計画などに反映できるものがあれば検討します」
書面? 何を回りくどい。
「口頭でいいだろ。今ここで決める」
「すみません。さきほどもあったように石動さんから“口頭決裁・変更禁止”と言われています。何かあれば書面でお願いします。後はこちらから石動さんに上げますので」
……あの石動の野郎、細かい罠を。
横で紗月は何も言わない。ちょっとぐらい俺を助ける発言してもいいだろうに冷たいもんだ。誰も助け舟を出さない。なら、強引に進めるだけだ。
「じゃあ書け。今決める。レベリング人材の手配――」
佐藤がかぶせる。
「無理です。レベリング人材の勝手な手配は石動さんから禁止されています。書面でその必要性を訴える必要がありますが現状、無理でしょう。もちろん御影君がどうしてもと言うならば提案は石動さんに上げるので書面を作ってください」
何だそれは。ゲームじゃあるまいし。
「そんな面倒なことをしていたら、現場が回らん」
「いえ、回します。回らなければ僕の責任です」
気弱な顔のくせに、言葉は折れない。イライラが喉にせり上がる。
「……いいだろ。好きにしろ。ただし、俺の助言は最優先だ。分かってるな?」
そう言って椅子に腰を下ろす。佐藤は小さく会釈する。
「もちろん。有益な助言なら石動さんに書面で提案します。それで却下される可能性もありますが。もちろん書面は御影君が書いてくださいね」
“有益な”ね。言外のトゲが鬱陶しい。しかも俺に何度も書面を書けと言ってくる。ふざけんな。
「みんな、こんなんでいいのか? 何をするにも書面提出。こんなの俺たちに自由はないぞ?」
おそらくみんな石動のやり方に腹が立っているはずだ。俺に賛同する声が出てくるはずだ。そうすれば俺に実験が戻る。
さあ、俺に賛同するが良い。俺がひっぱってやるぞ!