軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第114話「不条理(紗月視点)」

#第114話「不条理(紗月視点)」

ああ、もう──司くんには呆れるしかない。

社長の息子ってだけで、どうしてああも偉そうでいられるのか。理解不能だ。だからこそ“相談役”という名の監視役まで付けられたんでしょ?

それなのに、その相談役に全く相談せずに暴走。ここまで来ると才能だよ、悪い方だけどね。

石動さんが付いたことで多少は良くなると期待したけど、逆に悪い方向に加速しているとさえ思えてきた。

今日も私の制止を振り切って、司くんはレベリング人材の申請を出しに、ハンター協会ビルへ向かった。

何度も「石動さんに一言、相談してからにしよう」と言ったのに、「うるさい」の一言で片付けられる。ほんと、どうしたらいいの。私にはもうどうしようもない。

そうこうしているうちに、エントランスで私は固まった。

エリナさんがいる。レベル7、女性初の到達者。憧れの象徴だ。私にはとても届かないけれど、彼女を目標にして頑張っている人は多い。凄い人だ。

そんな凄い人に、司くんは初対面でまるで「対等の人」かのように話しかけに行った。

やばいよもう。心臓がきゅっと縮む。失礼にもほどがある。案の定、相手にされない。せめてそこで引けばいいのに、空気を全く読まず引かないのが司くんの悪いところだ。

……その時、視界に飛び込んできたのは、エリナさんと、レン、そしてひより──三人の親しげな会話。

音もなく、私の中で何かが崩れた。

どうしてあの二人がエリナさんと自然に笑い合ってるの?エリナさんはレベル7、ハンターにとっては雲の上の存在なのに。

現実に引き戻されたのは、司くんの声だった。よりにもよって、レンを馬鹿にするようなことを、エリナさんの目の前で言い出したのだ。

場の空気が一瞬で凍る。周りの視線が冷たい。エリナさんの一緒にいる人を馬鹿にするとかかなりまずい。エリナさんにたてつくようなものだ。何が起きてもおかしくない雰囲気を感じた。

でもエリナさんは、短く、冷たく、しかし理性的に「去りなさい」とだけ告げた。何も起きなくて良かった。本当に心臓に悪い。

司くんは場の雰囲気を読んだのかようやくエリナさんから離れてくれた。ほっとする。本当に司くんはどうしようもない。

その後、司くんは懲りずにレベリング人材の申請を出した。……ダメだ、このままだとクランは更に悪い方向に向かう。

仕方ない、私は決めた。石動さんに現状を相談しよう。

急いで連絡を入れると、石動さんはすぐ応じてくれた。

「ありがとうございます、紗月さん。助かります」

いつも通り丁寧に頭を下げられると申し訳なくなる。こんなに真面目で、動きが早くて、筋道の通った人が見てくれているのに……司くんは、どうして自分勝手に動くのだろう。石動さんの言うとおりにすればいいだけだろうに。

「申し訳ないのですけど、私から石動さんに相談したことは悟られないようにお願いしたいです」

「それはもちろん。私が司さんを追求する時にはハンター協会受付やカード履歴から辿った、という形にします。私こそ力及ばずで申し訳ありません」

やっぱりこの人は有能だ。段取りが正確で配慮も早い。そして私のような人間にも気配りもしてくれる。任せておけば何の問題もないだろう。私はほっと息を吐いた。

そうして、ほっとしたはず……だれど、どうしても心が落ち着かない。

頭の奥で、さっきの光景が何度も再生される。司くんはエリナさんに全く相手にされなかった。それはまあ分かる。レベル7から見ればレベル5になりたての司くんなんて眼中にないだろう。それはいい。

でもそのエリナさんがレンに対しては「《《将来有望な若者》》」という評価をしていた。エリナさんが言うのだから間違いのない事実なのだろう。

おそらくハンターとして、すでに司くんよりレンの方が格上。そしてエリナさんの対応から推測するに、その差は既にとてつもなく大きいのだろう。

そうなると実力はレンが上。更に人間性もレンが上。もう司くんが勝っている部分は何もないかも。

──それは、悔しいほど明白だ。レンは今後、ハンターとして成功し有名になってお金持ちになっていく可能性が高い。そうなると司君が社長の息子であっても関係ない。言うまでもなくレンの方が上だ。

すなわち、私は選択を間違ったということだ。目先の利益のためにレンを捨てて司くんを選んでしまった。

何故そうなったのだろう?あの頃は学生だったからだろうか。学生は結果は求められない。お金さえあればなんとかなる。楽しむことができる。私はその目先のお金と楽しさに目がくらんでしまった。

でも社会人になったら基本的に結果がすべてだ。そしてその過程も重視される。私から見ても司くんはどう考えても駄目だ。レベル5という結果は出しているもののそれはほぼ全て親頼み。自らの力でないのは明白だ。そしてその過程が無茶苦茶なのだ。社会人としての実力も自覚も全くないと言わざる得ない。

一方でレンはあのエリナさんに実力で高く評価されるほどになった。もうこれは認めるしかない事実。

やっぱり私はレンの方がいい。私にふさわしいのは本来はレンなんだ。でも、そのレンの隣でひよりがエリナさんと一緒にいた。そして楽しそうにしていた。

はっきり言って羨ましい。本来は私がいるはずだった場所にひよりがいる。ひよりさえいなければ私がそこに戻ることも可能かもしれないのに……今はとても無理だろう。本当に悔しい。

私はこんなに努力しているのに、たいして何もしていないひよりがすべてを持っていく。

人生は理不尽だ。不条理だとつい口にも出したくなる。

はぁ。ああ駄目だ。そんなことを考えても意味がない。どうしても思考がマイナス思考に沈んでしまう。

それよりも今の私はクランでの動きが必要なんだ。結論が出ないことをいつまでもぐじぐじ考えて悩んでいるような余裕はない。

まずは石動さんと連携して司くんの暴走を止めるのが先決。

その後はどうするか?

一応は司くんのそばにはいるが、立場的には距離を置いた方が良さそうだ。時にはクラン側について司くんを突き放すことも必要かもしれない。でも私にはそれができるだろうか。

それができないと私はクランの中でも生きていけないかもしれない。今後しばらくは立ち位置が難しい、大きな選択する必要もありそうだ。慎重に考え動いていこう。