作品タイトル不明
第112話「リーダーはく奪その1(御影視点)」
#第112話「リーダーはく奪その1(御影視点)」
やばい。どうしてこうなった――頭の中で石動の言葉がぐるぐる回る。
石動に突き付けられた猶予は一か月。その間にメンバーから最低1人、レベル4を出す必要がある。できなければ俺はリーダーを降ろされる。
冗談じゃない。俺様、御影司がだ。社長の息子なのになんでこんな奴に縛られないと駄目なんだ、くそっ。
ともかく短期間でレベル4を作るには“引き上げ”役が必要だ。これは確定している。
結局、つまりところ金が必要だ。親父の顔で通るところは通るにしても、やはり現場は数字で動く。どうしても金が必要なんだ。
それは分かってる。だから俺はネットで資金調達を調べた。怪しい情報はいくらでもあった。ふん、俺様はそんなのには騙されないぞ。基本的にシンプルに行けばいい。
いろいろと調べて俺は良い方法を思いついた。クレジットカードのキャッシング。複数枚を限度額いっぱいに使えばいい。これを合わせて合計一千万。
しかも細かくチェックしたところ、リボ払いってやつで計画的に返せる。さすが俺、頭がいい。これで人を雇える。レベリング要員を1人、いや短期だったら2人だって行けるかもしれない――。(文末注意事項参考)
「司くん、勝手に進めたらまずいって。石動さんに相談した方がいいよ!」
紗月が口を挟んでくる。本当に面倒くさい女だ。
「うるさい! その石動との約束であと1か月でメンバーを1人、レベル4にしないとダメなんだ。――レベリング人材の依頼を出す!」
大丈夫、金ならあるんだ。俺は胸を張って協会ビルへ向かった。変な人間を雇うと問題が発生することもある。それで前に痛い目を見た。だから今日は、申請の段取りも、必要書類も、全部抜かりなく持ってきたはず。
俺も成長している。学んだことはしっかり生かすのだ。
ハンター協会ビルのエントランス、ざわ……と空気感がが変わった。うん?俺に注目しているのか?まあ俺もそこそこ有名人になったのだろうか。いい気分だ。
いや違った、そこには人だかりがある。その中心に、あの女――高階エリナ。誰もがうらやむレベル7。憧れのハンター、超有名人だ。紗月が目を輝かせるのが横で分かった。
「司くん、見て! エリナさんだよ! ハンター憧れの“レベル7”に到達した初の女性!」
紗月も憧れている。なら分かった、ならば俺のいいところを見せてやろう。俺ぐらいになればエリナさんとも対等に話できる。軽く挨拶してやろう。
「本当だな。ちょっと挨拶していくか」
「えっ、何を言っているのよ。司くん、だめだって、いきなりは失礼だよ――」
紗月の制止の声が聞こえるが関係ない。その止める声を断ち切って、俺は前に出た。俺のかっこいいところを見るがいい。
「初めまして。クラン『エクリプス』リーダー、御影司です。今はレベル5ですが、すぐ追いつきます。父は御影グループの社長で――」
「……あっそ。頑張ってね」
なんだこいつ。軽い、あまりに軽い。俺が挨拶しているのになんて態度だ。ほとんど無視しているようなものじゃねーか。レベル7はたいしたものだが、こいつはくそ生意気な女だな。
俺は二言目を飲み込んだ。そこへ、見覚えのある顔が現れる。あいつはゴミ漁りの結城じゃねーか。
でも、そこで俺はとんでもなくびっくりした。なんとエリナさんがそいつに声をかけたのだ。
「レン、来たのね。一緒に行きましょう」
「はい。今日もお願いします」と二人が返事を返している。
レンはエリナさんと知り合いなのか?しかもかなり親しげじゃないか!どういうことだ。俺の方がエリナさんにはふさわしいだろうに。くそっ、ならば俺が親切に教えてやる。
「エリナさん、こいつは“ゴミ漁り”って言われてた低レベルの奴です。相手にしない方がいい。俺の方がよほどふさわしい」
ふふん、びしっと言ってやったぜ。これで分かっただろう。エリナさんにふさわしいのはレンではなく俺だ。
でもエリナさんの回答はひどく冷たいものだった。
「あなた、えっと……名前は忘れたわ。まあ覚える必要もないわね。確か、ようやくレベル5になった“程度”の人間、しかも見た感じレベル5の実力もなさそう。そんな程度の人間が私に向かって何を言ってるの?偉そうに」
更にエリナさんの視線が刺さってきた。
「レンは、あなた程度の人間と違って“将来有望な若者”よ。全く比べ物にならない。――今すぐに私の目の前から消えて」
やばい。エリナさんが怒っている?言葉は淡々としているがとんでもない圧だ。いつでも攻撃がとんできそうな雰囲気、やばい。怖すぎる。しょんべんちびりそうだ。
これはさすがにまずい。レンの話を出したのは悪手だった。虎の尾を踏んだらしい。ならばここは戦略的撤退の一手だ。
俺はなるべく平静を装った。そして「くそっ……紗月、行くぞ」と踵を返した。ここでやり合えばどう考えても負けだ。現時点で勝てる相手じゃない。いつか仕返ししてやるから覚悟しろ!
――それにどうでもいい。もともと本題は全く別件なんだ。そちらを急ぐべきだ。
受付カウンター。俺は申請書一式を出し、滑らかに説明する。これで名誉挽回だ。
「クラン『エクリプス』からレベリング支援者の派遣を依頼したい。対象は一名。目標は三十日以内でレベル3から4へ。危険補償は既定プランの上限で契約。報酬は前金半額、達成時半額。資金は用意してある」
職員が手際よく書類をめくる。でも視線が一度だけ止まりどこかに電話をかけはじめた。その後、上目遣いで俺を見てきた。
「失礼ですが信用審査においてちょっと問題があります。いきなり複数のクレジットカード限度額を借りているようですが? 大丈夫ですか?」
「俺は御影グループ社長の息子で家族カードだ。問題ない」
「一応、分かりました。何かあっても協会は責任を取れませんのでこちらにもサインをお願いします。協会が無理やりお金を借りさせたとなったらこちらの信用問題になりますので、音声も録音しますのでそちらにも依頼理由などの説明をお願いします」
「分かった。サインでも録音でもいくらでもする。今は時間の勝負だからな」
横で紗月が袖を引く。
「司くん、これはかなりまずいよ。やっぱり、いったん戻って石動さんに相談を――」
「うるさい、黙ってろ」
職員は事務的に微笑んできた。
「では派遣候補者の提示には二、三営業日いただきます。連絡は携帯電話でよろしいでしょうか?」
「ああ、それでいい。なるべく早急に頼む」
とにかく結果を出せばいいだけだ。手続きは終わった。俺は書類を掴むと踵を返す。紗月が追う足音が聞こえる。
さっきのエリナとのやり取りのせいか、周りが俺を見てひそひそ話をしているようにも見える。背中に冷たい視線が刺さっている気もするが、今はそんなことは構ってられない。
エントランスを出たところで、少し胃のあたりが重くなった。今後はクレジットの返済も必要か。最悪親父に泣きつくしかない。
でも石動との約束はこれで何とかなるだろう。むかつくが条件達成だ。これでリーダーを続けられるはず。
「司くん、本当にこのやり方で進めるの?まずいよ――」
ほんとに、このくそ女はしつこい。俺に黙って付いてきたらいいだけだろうに。
「黙れ。結果が出れば、誰も文句は言えない」
自分にも言い聞かせるように、俺は言葉を吐いた。
やり方がどうだろうと、結果を出せばいい。結果が全て、勝てばいいだけだ。
1か月で1人のレベル4。数字だけは必ず叩き出す。そうすれば、リーダーは引き続き俺のものだ。
しかし俺の奮闘もふるわずリーダーはく奪に向かっていった。石動の奴はすでに先手をうってやがったのだ。
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(補足事項)
賢い読者の方ばかりだから大丈夫だとは思いますが司のようにクレジットカードのキャッシング、限度枠いっぱいに使って大丈夫なわけありません。リボ払いも同じ。下手すれば利息だけ返すので精一杯になりすぐに借金が膨れ上がり破綻します。
テレビCMとかでご利用は計画的にとか言っていますが、普段の生活のためにお金を借りるとろくなことはありません。できるだけ金は借りずに、しっかりと働き稼いだお金でやりくりしましょう。