作品タイトル不明
第104話「4階層での戦いと宝箱の煩悩」
#第104話「4階層での戦いと宝箱の煩悩」
ここしばらくの稽古と実践は袈裟斬り一択になっている。
半身→袈裟斬り→半身→袈裟斬り→半身――ひたすら反復。
予備動作が小さいぶん、相手に読まれにくい。ボクシングで言うジャブに近い。はまった時は、一方的に先手・先手で押し切れる。
ただ、弱点もある。振りかぶらないぶん威力は少し落ちる。こちらの一撃で沈まない敵、そういった敵が被弾覚悟で突っ込んでくるとやや分が悪い。なので相手のタイプを理解し、かつしっかりと見ながら攻撃する必要がある。防御重視の半身の構えが中途半端だと特に危険になる。
――この当たり前をやっと身体で理解し始めた気がする。
そしてルナが繰り返し言ってきた「敵をよく知れ」の意味も、ようやく腑に落ちてきた。
敵の種類が変われば戦法も変わる。組み合わせが変われば優先順位も変わる。
だから敵モンスターと対峙した瞬間に、群れの構成と位置関係を一瞥で拾い、どの順で落とすかをシミュレートしてから短く指示――ここまでが一呼吸。ゲーム時代に鍛えた感覚が実戦でも役に立ってきたように感じる。
4階層は常に5~15体の混成。その中心のクイックウルフは1~3体。
まずウルフの位置取りと進行方向を瞬時に把握し、弱い個体を削る動線を決める。
今回は10体混成で2体のクイックウルフが見えた。
「俺は 右(のウルフ) を担当する、左は任せた。雑魚はこちらに多いので順に削っていくのでうまく牽制してくれ」
ラムにそう投げ、俺は近くにいるクイックウルフに注意を払いながら袈裟斬り→半身→袈裟斬りで素早く倒していく。ラムはうまく片側のクイックウルフを牽制し時には攻撃を加えている。
俺が雑魚を片付けるとほぼ同時にラムがクイックウルフ1体を討伐。残ったクイックウルフを2人(1人と1体)でたこ殴りにして終了した。
ふう、2人(1人と1体)なら10体の敵構成ならば何とか余裕になっているな。敵が15体にもいずれはチャレンジしていきたい
運用もだんだん固まってきた。今ではラムかリンと組んで1日100体以上を倒すことが余裕になってきた。とはいえ、経験値の旨味が大きいウルフは20体前後で、一人あたりなら10体ほど。約1万体の討伐でレベルアップと考えると先はかなり長い。
――4階層からは、経験値を貯めるのが本当に難しい。
レベルアップのペースはがくっと落ちるだろう。それでも経験値を積むしかない。
代わりに4階層では基本銅箱だらけとは言え宝箱がやたら出る。モンスターの討伐数に対して5%前後だ。日にもよるが5個以上の銅箱が拾える。銅箱の販売相場はおよそ1個2万円、すなわち単純計算で1日で10万円以上。なんとその数字だけ見れば俺はもう数千万円プレイヤーだ。
3階層までとは景色が違う。4階層はちゃんと回せば金が湧く。ハンターは夢のある商売だ――と、実感してしまう。
……でも、俺はその銅箱をも開けることにした。
ほぼ外れだと分かっていて、がんがん開ける。
「今日も10万円をドブに捨てた」と考え出すと少し胃が痛くなるが、よくよく思い返せば、俺はこれまで金箱を何度も開けてきた。あれだって、相場で2000万円をその場で捨てるような行為だ。
そう思うと、多少は心が落ち着く――いや、やっぱり落ち着かない。俺は貧乏時代が長かったせいもあって煩悩はかなり強い。毎日10万円を捨てるなんてどう考えてもあり得ない。
結局は思考の置き所なのだろうか。
気になってルナに聞いてみた。
「金の重さ、どう捉えてる?銅箱の相場1個2万だよな。ルナは普通に毎日5個以上銅箱も開けているけど胃が痛くなることはないのか?」
彼女は肩をすくめた。
「ああ全く気にしていないな。私は強くなることしか考えてないよ。結果としてお金は付いてくるだろう?まあ私の場合は配信でも勝手にお金が入ってくるという事情もあるけどね」
……やっぱり、違う。育ちとか環境とか、そういうものも含めて、基準線が根本から違うのだと思う。よく考えたらルナはお嬢様と呼ばれていたものな。そもそもが俺とは違うのだろう。
俺が煩悩まみれなのは否定しないけれど、それでも――
「やっぱり安全第一、そして金よりも強くなることを優先で行こう」
「ああ、それが一番だと思うよ。強くなればお金には余裕が出てくるだろう」とルナが言ってくれる。
そうだな最後はそこに戻る。やっぱり強くなることが最優先で大事だ。
そして今はダンジョンに入る時間をきっちり決めることにした。知らぬうちに疲労がたまると危険だからね。そして疲労を感じたら早めに出ることも確認事項とした。
俺は楽しくなってつい討伐に夢中になるから注意しないと駄目だ。
そうやって地味な作業を積み上げる。
そうすれば、たぶんお金に困ることはないし何より死なない。
そしていつか、クイックウルフでさえも袈裟斬り一発で安全圏から決め切るところまで届けば――その時は、胸を張って“強くなった”と言えるはずだ。