軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6:ドレスを着るのって、大変。

キャスリンと入れ替わってもうすぐ二ヵ月になろうとしていた。なのに、いまだに引き籠もりから進展なし。

使用人さんたちに気さくに話しかけても怯えられるし、丁寧に話しかけると恐れられる。なんでよ。

スヴェンと一緒に食事はしているものの、なかなか込み入った話をしにくい。かと言って、お休みはいつ? とか、一緒に過ごそう! とかにはならない。

「…………はぁ」

一人で部屋でぼうっとしていると、出るのはため息ばかり。

『朝から辛気臭いわねぇ』

「だって……。キャスリンは毎日楽しそうね」

『ええ、楽しいわよ! じゃ、行ってくるわね!』

「はぁい、いってらっしゃい」

私もキャスリンみたいに我が道を突っ走ればよかったのかもしれないけれど、今更急に路線変更って難しい。

しょんぼりしつつ、朝食の席に向かった。

「君…………何か問題でも?」

「え? いえ。何もないですよ?」

「……そうか。ならいいが」

「はい」

珍しくスヴェンが話しかけてきた。彼が妙に険しい顔なのは、辛気臭い顔になっていたせいで、不快な思いをさせてしまったのかもしれない。

慌てて笑顔で返事をすると、怪訝そうな顔をされてしまった。

食事中の会話はそれで終わって、そのまま食後のティータイム。これ謎なんだけど、まぁいわゆる食後のゆっくりする時間っぽい。スヴェンは朝早くから仕事をすることはあんまりないらしく、いわゆるフレックスタイムくらいな感じで動いているっぽい。

スヴェンは先週の新聞をこの時間に読んでいる。王都から届いているらしく、辺境での新聞は一週間程度の遅れになるそう。

そう考えると、元の世界って、情報伝達がめちゃくちゃ早かったんだなと思わせられる。有名な人のライブ配信なんて同接◯万人とかだし、ネットニュースは世界中に発信されて、どんなタイミングでも読めるんだから、なんて元の世界に想いを馳せても仕方ないんだけどね。

この時間、私はというと、食堂にも窓があるから外を眺めながらぼーっとしているか、なんか居づらくて部屋に戻ると宣言してから逃げ出すかだ。

今日に限ってスヴェンは新聞を読むことなく、ゆったりとコーヒーを飲んでいた。こっちをガン見しながら。

初めは私の後ろに何かあるのかと振り返ったが、誰もいないし何もないから、たぶん私を見ているんだろうという結論に辿り着きはした。が、なぜに?

もしや、そろそろ実家に帰らないのかとか、元の世界に帰る方法は見つかったのかとか、聞きたいけどスヴェンは優しいっぽいから、言い出せずにいるとかかもしれない。

え、嫌だ。ってか、無理。キャスリンの親と対面とかまだ覚悟できてない。

「…………君」

――――あ、私か。

スヴェンは、私に向かって『キャスリン』とは呼び辛いらしく、『君』と呼ぶようにしているっぽい。ぽい、ってだけだから反応に困るけど、多分これは呼びかけられてるやつ。

「はい」

「ご……午後の予定はあるか?」

午後の予定? そんなもんありはしない。二十四時間の中で予定があるのは、トイレとかお風呂タイムくらいだ。嫌味か?

「なんにもありませんけど?」

ちょっとイラッとしてしまって、語気強めに返事してしまった。こうなってるのはスヴェンのせいじゃないのに。いや、ある意味スヴェンのせいかな? だってスヴェンがキャスリンを断罪しようとした時に入れ替わったし…………いや、一番悪いのはキャスリンだな。自分だけ新しい世界を堪能しやがってぇ!

「だよな」

それはどういう意味ですかね? と問いただしたかったけど、スヴェンが少し迷っているような様子で、口元を隠すようにして顎に手を当てていたので、ぐっと我慢して次の言葉を待った。

何か言うのを躊躇ってる、とか?

「午後から……視察で、城下町に向かう。視察で、だ」

――――なぜ二回も言ったよ?

視察で出かけるから、昼だか夜は一人で食べろってことか、なーんだ。と了承の返事をしたら、なぜが俯き加減になり口元を隠していた手が額に移動してしまった。

あれ? なんか、落胆させた?

「っ……その、一緒に行かないか? たまには外に出て新鮮な空気を吸うのもいいんじゃないか?」

「へ!?」

「いや、無理にとは言わないが、部屋に籠もりきりだときいてな…………嫌ならいい」

「行きます行きます行きます! 行きますっ」

「っ、はははは! ん、一緒に行こう」

ドレスアップしておいでと言われて、はたと気づく。完全に今のまま――ブラウスとロングフレアスカートで行こうとしていた。流石に駄目らしい。

部屋に戻ると、怯えた顔の侍女さんや使用人の女の子たちがドレスや宝石を用意して待っていた。

「お、お好きなものをお選びください……」

そう言われても、なんか全部派手だ。あとなんか若々しい。もう少しおとなしい色合いのものはないかと尋ねると、顔面蒼白で謝られてしまった。

「あっ、ちがっ、怒ってないから。ただ、あるのかなぁって…………ある?」

「はっはひっ!」

改めて持ってきてもらえたのは、紺や深緑のドレスやくすみカラーのドレス。その中に少し濃い目のコーラルピンクのドレスがあったので、それに決めた――――ら、そこからが地獄の始まりだった。

お風呂に入れられ、全身洗われ、なんか塗りたくられやっと解放されたかと思ったら、侍女さんがものすごく硬そうなコルセットを持ってきた。それもうギプスなんじゃない? みたいなやつ。

腰にあたる部分がどえらくえぐれてるけどマジで? それがなくてもドレス着れそうじゃない? と聞いてみたら、きょとんとされた。

「す……少し柔らかく緩めのものに変更しますか?」

「お願いっ!」

「は、はい……」

どうやらコルセット無しはナシらしいので、妥協案としてソフトなタイプのコルセットにしてもらった。が、侍女さんたちが「絶対にラインが美しくないとか言い出すのに……」なんて、ボソボソと話しているのが聞こえてしまった。

なんか、キャスリンがダメダメな子でごめんね、という気分だ。

新たに持ってきてもらったほぼ布で作られているっぽいコルセット。それを、ギチギチに締められた。

なんか内臓が飛び出しそうなんだけど、コルセットってこういうものなの?

ドレスを着るだけだと思ったのに、既に二時間も経っている。ドレスを着るのって、こんなに大変だったんだ……。