軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最終話:本の中の悪役令嬢と入れ替わってしまったけど――――。

キャスリンと入れ替わって、いつの間にやら三年もの月日が流れていた。

スヴェンとの間に授かった子どもは男の子だった。髪も瞳もスヴェンそっくりで、ずっと可愛い可愛いと言っていたら、スヴェンがちょっとだけやきもちを妬いていた。

名前の候補はいくつかあったけれど、セオドアに決めた。

出産して三ヵ月が経ち、私も落ち着いたタイミングで、キャスリンの父親から手紙が届いた。辺境を訪問して孫に会いたいということだった。

スヴェンと何度も話し合い、訪問を受け入れることにした。そして、私とキャスリンが入れ替わっていることも伝えると決めた。

元の世界にいるキャスリンとも対面させたい。スヴェンも鏡の中のキャスリンに会えるんだから、キャスリンのお父さんも会えるはずだ。

あと、いつの間にやら作っていた恋人と結婚秒読みらしいのでその報告もさせたいなと思っている。

あのキャスリンが「心から愛せる人ができた」と頬を染めて言っていたのだ。奇跡かと思った。そしてスヴェンはそれを口からダダ漏らししてキャスリンとめちゃくちゃ言い合いしていた。

キャスリンのお父さんが来る朝。

日が昇る前から興奮して目が覚めていた。隣ではスヴェンがすやすやと眠っている。ちょっとモヤッとしているのは秘密。

落ち着かなくて、セオドアの様子を見に行くも、セオドアもすやすや。しょんぼりしつつ私室に行くと、キャスリンが何やらテレビを見ていた。

「え、キャスリン、起きてたの?」

『……徹夜した』

「徹夜…………は、美肌の大敵だよ?」

『わかってるわよ! 寝れないのよ!』

キャスリンも人の心があるんだなって、ちょっと安心した。きっと彼氏さんもキャスリンのそういうところ分かってあげられる人なんだろうな。

会ってみたいって言ったけど、嫌だと言われた。理由は私が知っている人だから。やきもちなの? と聞くと、頬を染めて頷くものだから、めちゃくちゃ気になるけど何も聞かないことにした。

「ふふっ。ちょっとは寝なよ?」

『リンもね』

「うん。また後で」

『また後で』

夫婦の寝室に戻るとスヴェンが起きていた。どこにいたのかと聞かれて、キャスリンと話していたと言うと、全く似ていないのに、そういうところは似ているのかと笑われた。

「まだ日も出ていない時間だ。眠れなくてもいい、ベッドには入っていなさい」

「うん」

玄関で馬車を迎える。

降りてきたのは思ったよりも年配のシルバーグレーな老紳士。キャスリンは随分と後で産まれた子供らしいとは聞いていたけど、この世界では珍しい気がする。

お母さんはキャスリンを出産する際に亡くなられたのだとか。だから甘やかしちゃったのかなとも思う。

「卿、ご足労感謝します」

「こちらこそ、迎え入れてくれて感謝するよ」

――――紳士!

なぜこれからアレが生まれた? と言いそうなほどにキャスリンのお父さんは、めちゃくちゃ優しそうな紳士だった。

「キャスリン! 見違えたぞ…………子どもを産むとこうも…………小綺麗に」

お父さん、ウルウルしてるんだけど。あと小綺麗ってどういう意味?

「飾り立てるばかりが美じゃないと言い続けていたが、やっと!」

なるほど! すみませんお父さん、私、別人なんです。とノリで言えたら良かったけど、流石に無理。

「お……お父様、すこし込み入った話がありますので……私の部屋に来てくださいますか?」

「……キャスリンがまともに喋ったんだが?」

キャスリンのお父さん、スヴェンにどういうことなんだ、何があったんだと詰め寄っているけど、状況がわからない。なぜ普通に令嬢っぽく話しかけたのに、この反応なの。キャスリン……何やらかしてたの。

「な……? キャスリンじゃない?」

「はい」

斯々然々で、スヴェンと二人で入れ替わりの説明をしたものの、やっぱり理解不能だといった反応だった。

鏡台の向こうから、キャスリンがやんや言っているけど、布をかけているので今はまだ見えていない。

「さっきから聞こえる女性の声はいったい……そして、キャスリンのような口調なのだが」

『リン! 布を取りなさい!』

「あーもー! キャスリンうるさい!」

鏡台からズバンと布を取ると、私の姿のキャスリンとお父さんが向かい合う形で対面することになった。

「誰だ?」

『お父様の娘よ! 姿が変わったくらいで困惑しないでくれる? 鈍感ね!』

「……あ、キャスリンだね」

――――今の一瞬で!?

スヴェンに、お父さんにもし信じてもらえなかったら? と話していたけど、スヴェンは絶対に大丈夫だと言っていた。その意味がやっと分かった。すっごい簡単に伝わった。

「なんでこんなことになっちゃったのかねぇ?」

『知らないわよ』

「うん。そうだね。そっちで困ってないかい?」

『ええ。楽しいわよ――――』

キャスリンが元の世界の楽しいことをお父さんに色々話していた。とても楽しそうに。

二人の時間が必要だろうと私とスヴェンは部屋から出ることにした。

三時間後、キャスリンのお父さんがリビングに来て、今までキャスリンがした悪行や迷惑のことを謝り始めた。

「卿、確かに色々とありましたが、今は彼女ともいい関係を築けています」

――――いい関係?

顔を合わせれば罵詈雑言を言い合っているのは、いい関係なんだろうかと首を傾げていたら、スヴェンにジロッと睨まれてしまった。

「 い(・) い(・) 関(・) 係(・) だ」

「はーい」

それから、お父さんと今後どうするか話し合いをした。お父さん的には、私のことも娘として受け入れたい。いや、娘だ、娘が二人になったと言い出した。

お父さん、甘すぎる。なるほど、キャスリンが出来上がるわけだ。

「それで、孫には会えるのかな?」

「はい――――!」

キャスリンのお父さんが孫にでろでろになり、別れ際に半泣きになりつつ王都に帰って行ったことをキャスリンに伝えた。

『全く、甘すぎるわね』

「でも、いい人だね」

『ええ……明日早いから。じゃ、またね!』

鼻声のキャスリン。絶対に明日は何もないはず。きっと、泣きそうなんだろう。

「うん。またね」

「またな」

『貴方には言ってないわよ』

「チッ……」

「あははははは!」

最近は月一での連絡になっていた。

これからもそれは続けることにしている。

それぞれ、新たな人生を歩もうと決めた。

キャスリンはきっと、自由奔放に。

だけど、私の家族を大切にしてくれているのはなんとなく伝わって来ている。

私も、キャスリンの家族を大切にしたい。

本の中の悪役令嬢と入れ替わってしまったけど――――私、とても幸せです!

―― fin ――