軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18:不安にさせていた。 side:スヴェン

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彼女(リン) が不安そうな顔をして執務室を訪れた。

悩み事かと聞くと、なぜ分かるのかと聞かれた。

少し臆病な一面があるようだが、それを人には見せないようにしている。ここ最近、私の前では少し素を出してくれているなと嬉しく思っていた。

そんな気遣いしいな彼女が、明らかに暗い顔をしているんだ。分からないわけがない。

てっきり故郷が恋しくなったのだと思った。

最近は楽しそうに料理をしていたが、先日王都から白米が届き、それを食べたせいで故郷を思い出して泣いていた。

家族とも友人とも離れ離れになり、一人きり。慣れない貴族の生活の中で友人と呼べる者は、鏡の向こう側の世界にいるあのキャスリンのみ。辛いのだろう。

なるべく積極的に関わるようにしていたが、領主としての執務や騎士団の仕事もあり、ともに食事を取ったり休憩時間に少し話すことしかできていなかった。

「さて、どんな悩みかな?」

何を言われても、どんなわがままだろうと、対応しようと思っていた。彼女ならば、絶対に無理を言うことはない。キャスリンが言いだしたら、鼻であしらうかもしれないが、彼女が言うのならどんな願いも叶えてやりたい、と。

「ずっとここに居続けるわけにはいかないなって……」

そんな言葉を聞いて、腹の奥底に黒い何かが生まれた。

「ここを出てどこに? あてはあるのか?」

「っ……ない、です」

「それなら、なぜこんな話を?」

明らかな怒りだった。

出て行けなど言ったことはないのに、なぜそう思うんだと。怯えた表情の彼女を見て、失敗したと気付いた。感情をコントロールできないなど、あってはならない立場なのに。彼女を目の前にすると、どうにも揺らいでしまう。

謝罪し、話を聞きたいと言うと、おずおずと話し始めてくれた。

「私は…………っ、ずっとキャスリンでいなきゃ駄目でしょうか?」

「キャスリンで?」

「私は凜です。キャスリンじゃない。でもここではキャスリンでいないといけないから……苦しいです」

私の配慮不足のせいで不安にさせてしまったが、不安を感じている理由があまりにも愛おしかった。胸が締め付けられる。

「ややこしい状況なのは分かっているんです。スヴェンを巻き込みたくなくて。でも自分ではどうしようもなくて…………キャスリンみたいな行動力が欲しいです」

いや、それは求めないでくれ! 頼む。それだけは止めてくれ。あの女に見習う場所などないだろう!?

そして、見たことも聞いたこともない『ヒロイン』という存在がいるから、ここにいるわけにはいかないと言い出した。

何だそれはと聞くと、ここに来たときに話していた物語の中の存在。私たちは物語の中にいて、そこに彼女が迷い込んできているのだと。名前がにているから、キャスリンと入れ替わった。

キャスリンとして断罪され、離婚して身を引かなきゃいけない。なぜなら、私と出逢い愛される『ヒロイン』が待っているからなのだと。

――――なぜそうなる!

「なぜ、いもしない相手を勧めてくる? 私は君といい関係を築けていると思っていたんだが?」

「っ……キャスリンとでしょう?」

「違う、君とだ」

「私は、キャスリンでも、君でもないです……」

――――そういうことか!

わざと名前を呼んでいなかった。わざと認識しないようにしていた。いつか、手放さなければならない日が来るかもしれないから。

だがそれは、杞憂だったようだ。

いつまで自分は『キャスリン』なのかと泣きそうな顔で訴えられた。私と仲睦まじくしていても、傍から見たら私と『キャスリン』の仲が深まっているようにしか見えていないと。

そんな天変地異が起きるはずがない。私があのキャスリンと仲睦まじくなど、できるはずがない! あの女は、辺境だと言うだけで、領民たちを馬鹿にしていた。当たり前のように暴言を吐いていたんだぞ!?

「リン」

名前を呼ぶと、心臓が夏の陽射しを浴びたかのように熱を帯びた。そして、心臓からぐんぐんと芽が出て、茎が伸び、大輪の向日葵が咲いたような気がした。

ああ、ずっとこの 娘(こ) の側にいたい。ずっとこの娘を見ていたい。

気付いたらリンを抱きしめていた。あまりも愛おしい。これからは必ず『リン』と呼ぼう。そして愛も囁こう。

「リン」

――――愛しい、リン。

「っ…………はい」

「リン、ここにいていい」

――――ずっと側に。

「でも……」

「リン、私はリンといたい。リンは違うのか?」

「違わない、です」

――――ああ、愛しいリン。

抱き締めていたリンが体をよじり、私と向かい合わせになるように体勢を変えた。初めは強張っていた体から力が抜けていき、胸に縋り付いてきた。そして、幼い子供のように声をあげて泣き出した。

あぁ、この娘を守らなければ。

リンはきっと私のためにここに呼ばれたのだろう。そして、私はリンのために存在するのだろう。

これこそが運命の出逢いだと私は確信している。