作品タイトル不明
16:相談相手は役立たず。
スヴェンに気持ちを話さないとと思いつつも、タイミングが掴めずにいた。
相変わらずお菓子や軽食を作っては、一緒に食べて美味しいねなんて会話はしている。
今日はお米が届いたので試し炊きしたお米を使ってちょっと小さめのおにぎりを作ることにした。
サーモンに塩を振り、フライパンで焼いてからほぐしてマヨネーズと少量の砂糖を入れてよく混ぜる。あとはご飯の真中に入れて握るだけ。
鶏ミンチはケチャップと炒めてご飯と混ぜ合わせた。
フライパンで薄焼き卵を作り、おにぎりを上に置き卵で包む。
おにぎりは手で食べてほしいけどラップとかないし、難しいかなぁと思ったけど、クッキングシートみたいなのはあったから、それをおにぎりの下に敷いておいた。
一応フォークも持ってスヴェンの執務室へ向かった。
「今日は軽食?」
「はい。あの、ありがとうございます」
「ん?」
「お米、届きました」
「あっ! お米を使った料理かい?」
スヴェンがキラキラとした笑顔で聞いてくれた。それだけで心がふわふわと浮き立つような気がする。
ソファに移動して横並びで座った。
おにぎりの説明をし、できれば手掴みで食べてほしいなぁと思いつつスヴェンのお皿にはフォークも添えて渡すと、私にはフォークがないことに直ぐに気づかれてしまった。
「君はどうやって食べるんだい?」
「こう、手掴みで……」
はしたないんだろうなぁと思いつつおにぎりを手に取ると、スヴェンがにこやかな笑顔のままでおにぎりを手に取った。
「君と同じように私も食べるよ?」
「っ、はい」
頬が熱い。
顔が赤くなっていることがバレたくなくて少し俯き加減で鮭おにぎりに口をつけた。
お米の優しくて甘い味がふわりと口の中に広がっていく。次いで鮭のしょっぱさと芳ばしさ。お米と混ざって鼻から抜けていく。
――――懐かしい。
たった四ヵ月。でも、長い長い四ヵ月。
気付いたら、ポタリポタリと涙が落ちていた。
「……どうしたんだい?」
スヴェンの落ち着いた優しくてこちらを気遣う声。鼻声で何でもないですと答えると、ゆっくりと背中を擦ってくれた。
「この料理は、おにぎり、だったっけ?」
「はい」
「美味しいね」
「っ、はい」
「また作ってくれるかい」
「はい……また」
「ん」
私の涙が止まるまで、スヴェンはずっと背中を撫でてくれていた。
『え? まだ話してないの!? あれからもう一週間よ!』
「まだ一週間だよ……」
そう言うと『呆れた』と溜め息をつかれてしまった。
だっておにぎりとか色々あってタイミングが掴めなかったんだもん。
『ねぇ、話す相手は私じゃないでしょ?』
「……うん」
それは分かってるけれどと言うと、全然分かってないと怒られた。
『私これからデートだから忙しいのよね。じゃあね!』
「え!? 今から!?」
『そうよ。だから今日の報告会は少し早めにって言ったでしょ? じゃあね!』
確かに昨日の夜に、明日の報告は仕事から戻った直ぐの時間にって言われたけど、理由は聞いてなかった。ただ単に冬の特番か何かを見たいのかとばかり。
いつの間にデートする相手とか見つけたのよ。私、二十五年間いなかったのに!?
中身が変わると、彼氏も見つかるのかな? それとも好きな人ができたからこそ、デートに行くのかな?
ていうか、好きな人とかデートする相手とか出来たなら相談して欲しかった。キャスリンの相談相手としては役立たずかもしれないけど、それでも教えてくれてもよくなかった? という淋しさがある。
そういえば元の世界で好きな人は出来たことあったけど、自分から行動したことなかった。好きだなぁと思っても話せたら嬉しいくらいで、いつの間にかそんな気持ちも消えていた感じ。
キャスリンはずっと動いている。自分で考えて、行動して、自分を見つけて、自分を出して。
それに対して、私は何をやっているんだろう? いっつも部屋でしょんぼりして、キャスリンに愚痴ったり、ぼーっとしてるだけ。
少しは自分から動かなきゃ。
今日は騎士団の件で、スヴェンは外出していた。夕食には戻って来たから一緒に済ませたけど、スヴェンは執務室に戻って仕事をしているはず。
執務しているのに、そんなことで訪れていいのかなとも思う。邪魔して煩わしく思われたら? って。
でも、そうやって今までずっと先延ばしにしてきていた。そろそろ、ちゃんと動かないと。
一時間くらいぐるぐると考えていたけど、スヴェンと少しでも話したくなって、部屋を出てスヴェンの執務室に向かって歩き始めた。
足が重たい。怖い。
何で怖いのか、それは……なんとなく気付いている。嫌われたくない。
震える手に力を入れて執務室のドアをノックした。中からスヴェンの少し低めの声が聞こえてきた。
「少し、時間いいですか?」
「ん? どうした?」
――――話さなきゃ。