作品タイトル不明
13:なに作ろう?
スヴェンが厨房の使用許可をくれた翌日、朝食の後に早速厨房に向かった。
スヴェンは仕事に向かうのかと思いきや、私の後ろをついてきて、今は斜め後ろでにこにことしている。
厨房では、予想通りというか、お手伝いらしき使用人さんには小さな悲鳴をあげられ、いかつめの料理長にはかなり警戒をされた。
仕事の邪魔はしないし、こちらは気にしなくていいから、とお願いして食材を見せてもらった。
「こちらです……どうぞ」
「ありがとう」
野菜類は見た目は少し違うものの、大概は見覚えのあるもので、時々海外にしかないっぽいものもあった。
穀物類が置いてある場所でお米お米と探していたけど、全然見つからなくて焦っていた。
「何を探しているんだい?」
「お米……」
「オコメ?」
スヴェンの反応からもしや無いのかと焦ったら、王都にはあるらしいと教えてもらえた。
「こことはちょうど反対側の国の特産品でね、王都では時折食べられているんだよ」
「そうなんですね……」
なんだ、あるのはあるけど、ここにはないのかぁ。ちょっとしょんぼりだ。
「欲しいなら取り寄せるよ」
「いえ、大丈夫です」
取り寄せてもらうのにいくら掛かるのか分からないし、輸入品ならそもそもの値段が高いはず。人件費や材料費に見合うものなんて作れはしない。
それに、キャスリンが湯水のように無駄遣いしてたのに、私まで無駄遣いしたら申し訳ない。あるもので何か作れたらいいなーくらいなのだ。
穀物類のところに小麦粉があったし、卵や牛乳があるんだからホットケーキでいいやとなった。
グラムとか分からなくても、混ぜた感じである程度は分かるもの。
「ここらへん、使わせてもらっても大丈夫ですか?」
「は、はい……どうぞ?」
料理長さんが、私となぜかずっと斜め後ろにいるスヴェンの顔をチラチラとみて、不思議そうな顔でコクリと頷いてくれた。
許可を貰えたことにホッとしつつ、ボウルを二つと泡だて器やヘラを借りて、先ずは卵黄と卵白に分けてボウルに入れた。
卵黄に砂糖を入れ、しっかりと混ぜ合わせてそこに牛乳を入れながら砂糖と卵黄を溶かす。
そしてそこに小麦粉をふるい入れ、しっかりと混ぜ合わせる。固さは泡だて器からボテッと落ちるくらい。
次に、もう一つのボウルに入れた卵白をしっかりと泡立ててメレンゲを作る。固さはしっかりとツノが立つくらいに。
そうしたら、卵黄と小麦粉の生地が入ったボウルの上に卵白を入れて、ヘラで優しく混ぜ合わせる。多少ムラがあっても大丈夫。
料理長さんにお願いしてお皿とフライパンとバターを用意してもらった。
火は暖炉に薪で起こしているらしく、そこから火を分けるらしい。やり方がよくわからなかったので、料理長さんがしてくれるのをしっかりと見ておいたので、次からは自分でできると思う。
「さて……」
フライパンをしっかりと温め、バターをたっぷりとひき、混ぜ合わせた生地を手のひらサイズでドーム型に盛りながらそっと置く。スヴェンも食べるって言っていたから、二個作ることにした。
ジュワジュワとバターが泡立ち、生地が焼けていく匂いがする。
火加減は少し緩めがいいのでときおりフライパンを持ち上げたり、釜の中で燃える薪を動かしたりして調節した。
生地の縁が固まりだしたらヘラで裏返すのだけど、勢いよくやりすぎると生地が飛び散るので転がすように裏返す。そうしたら蓋をしてしっかりと蒸し焼きにする。
「すごくいい匂いがする」
「ほんとですか? よかった」
私の作業の邪魔にならないようになのか、調理の間スヴェンは少し離れてくれていた。だけど今は興味深そうにフライパンの近くに来ている。
そろそろいいだろうと蓋を開けると、もわーんと甘い匂いが辺りに漂った。物凄くホットケーキの匂いだ。
細長い串のようなものを借りて、五センチ以上に膨れているホットケーキの斜め上から中心に向かって差し込んだ。スッと引き揚げると、串には何もついてこなかったので、中までしっかりと焼けているようだ。
お皿に出して、もっこりとしたホットケーキの上に三センチ程度のバターを乗せ、はちみつをたっぷりと掛けた。
「出来ました」
スフレタイプのホットケーキなので時間が経つと少ししぼんでしまう。準備しながらや焼きながら洗い物は多少済ませていたけど、ヘラやフライパンはそのままだった。料理長に食べた後で片付けに戻ると伝えたものの、洗い物は自分たちの仕事だからと断られてしまった。
粘っても逆に怯えさせてしまうだけだろうから、今回はお願いしますと頭を下げたら、余計に怯えられてしまった。なんでなのよ。
ダイニングに移動し、スヴェンの前と私の前にひと皿ずつ置いていただきますをした。
さっき朝ご飯を食べた気がするけど、これは別腹。そう言い聞かせながらナイフとフォークを構えた。
「ん? ケーキみたいに柔らかいんだな」
念のためナイフも用意していたけれど、フォークだけでも充分に切り分けられた。
ちょっと大きめの生地に溶けたバターとはちみつをしっかりと絡めて口へ運ぶ。はしたないかなとは思いつつも、大きく口を開けてガブリ。
鼻に抜けるバターの芳醇な香りと蜂蜜の甘さ、そしてホットケーキのじゅわりとした柔らかさ。
「美味しい……」
スヴェンがボソリと呟いたあと、ものすごい勢いでホットケーキを食べ終えてしまった。早いのに所作はとても綺麗で、ちょっとびっくりしてしまった。