作品タイトル不明
11:青い花の髪飾り。
◇◇◇◇◇
子どもたちと話したあと、スヴェンの機嫌が良くなったというか、妙に楽しそうな雰囲気が漏れ出している気がする。
さっきまで屋台を見ては、ぽそぽそ話していただけなのに、いまは何か違う。
「これ……ラズベリー?」
赤黒くてつぶつぶした野苺のような果物が、大きなカゴにどっさりと盛られていた。辺りには甘酸っぱい匂いも漂っている。
「ん? そうだが、好きなのか?」
「好き? あ、はい。そうですね、好きです」
スムージー系のお店で飲んだものが美味しかったなぁ、と思い出していただけだった。好きかと聞かれたら確かに好き。ただそう聞かれると思っていなかったので、返事が微妙な感じになってしまった。
「ふむ」
なんだ『ふむ』って。
スヴェンの返事も微妙な感じだった。
またぽてぽて歩いて市場巡り。
薪を山積みにしているお店や、干し肉を山積みにしているお店、カッチカチの岩みたいなパンのお店が何軒もあった。雪かき用の道具を揃えているお店、手芸用品店なんかも。
スヴェンいわく、ここはいつも市が出ているが、いまは越冬の準備のための大掛かりな冬市を開催しているのだとか。
なるほどそれで視察に来たんだなぁと納得した。
薪や干し肉、何やら固そうなパンなどはそれ専用、新鮮な野菜や果物は常設のお店らしい。
「ああいうアクセサリーのお店も常設なんですか?」
「ああ、ここの冬は寒い。雪などでこもっている間に沢山作り、市で売って一年の生活費を稼ぐものも多いんだ」
「へぇ!」
そうか、元の世界みたいに車や除雪車なんてないから、基本的には人力で雪かきしないとだし、寒いから家にこもりきりになる。時間を潰せるテレビやスマホなんてあるわけない。
冬になると、男性も女性も家で内職する人が多いのだそう。
「貴族の人たちもですか?」
「人によるだろうが、本を溜めておいて読み耽る者、カードゲームやボードゲームなどで暇を潰す者が多いな。女性はレース編みをしたり、刺繍をしたりだな」
「レース……刺繍…………」
出来る気がしない。文字は日本語じゃないのになぜか読めるから、私の場合は本を読んだりして時間を潰すしかないのかな?
「苦手なのか?」
「苦手というか、したことがありません」
「したことが、ない!?」
酷く驚かれたけど、あっちの世界でレースを編める人なんて一握りだと思う。刺繍は小学校とか中学校で家庭科の授業でやったけど、ミリも覚えてないと思う。
動画見ながらとかだったらやれるかもしれないけど、その動画の媒体がない――わけではないけど、ちらりと頭をよぎった方法に不安がある。
手芸店をちらりと覗いて、隣の店に移動した。
スヴェンいわく、平民向けのアクセサリーの店だとのことだったけど、色鮮やかなガラス細工のものもあった。ガラス細工などはちょっと奮発して買うタイプのものらしい。
「わぁ」
台に並べられているアクセサリーは、本当に可愛いものだらけだった。
うすピンクの花飾りが付いたネックレスや、カラフルなガラス玉を連ねたブレスレット。中心が青く、外に行くにつれて水色にグラデーションしている、星型の花の髪飾りなんてものもあった。
青い花の髪飾りを手にとって眺めていると、スヴェンが私の手元を覗き込むようにしてきた。
――――わ、近い。
「ブルースターだな。買いたいのか?」
「え……」
買いたいかと言われてもお金など持っていない。見ていただけだと答えると、スヴェンがクスリと笑って私の手から髪飾りを取った。
「店主、これを」
「領主様、ありがとうございます。ですが……その、奥様には安すぎるかと…………」
店主さんらしい少し若めの女性が、私をチラチラと見ながら顔を青褪めさせていた。後からキャスリンにいちゃもんをつけられたり、何かしらされるのではといった恐怖があるのかもしれない。
「妻はこれが気に入った」
――――妻。
「値段よりも店主の技術を見ている。大丈夫だ」
スヴェンが店主さんにそう言うと、店主さんが嬉しそうな笑顔でお礼を言っていた。
凄い人誑しだなぁと思いつつ、お金を払うスヴェンを眺めていたら、くるりとこちらを向かれたのでつい後退りしてしまった。
エスコートスタイルもだけど、なんか近いのだ。パーソナルスペースを保たせて欲しい。
「動くな」
「ほへ?」
ズイッと近付いて来たスヴェン。どん近で上から見下されるかたちになってキョドっとしていたら、スヴェンの大きな手が髪に優しく触れた。
「ん、似合う」
「っ!?」
まさか買ってもらえるとも思っていなかったし、つけてもらえるとも思っていなかった。なんだこれ、漫画のに出てくる彼氏彼女でしか見たことないやつが、現在進行系で自分に起きているとか予想外すぎる。
そもそも、人生初だ。なんだこれ!? あ……やばい。顔がめちゃくちゃ熱い。変な汗が出てきた気がする。
「他に見たいところはあるかな?」
「ななななないでしゅ」
――――噛んだ。
「っ、ふふっ。ん、そろそろ帰るか」
「ふぁい」
「ん」
スヴェンがクスクスと笑いつつ、右肘を差し出して来た。これはエスコートスタイルになるやつだね。流石にちゃんと覚えたよ。
そっと手を添えると、またクスリと笑われた。
行きよりは明るい雰囲気で馬車に乗り、辺境城に戻った。