軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

019 ギルド登録 3

「……あ、あの、ありがとうございました……」

おお、空気が読めるヤツ、セリアが横から声を掛けてくれたぞ。

まあ、普通はセリアとリゼルを助けたと思うわなぁ、このシーンだと……。

俺の位置は、セリアとリゼルの位置に近い。だから、このおっさんが頭を下げたのはセリア達に対してだと思われても無理はない。

……というか、そう考えるのが普通だから、多少頭を下げた方向がズレていても、みんな然程気にしないだろう。

おっさんがラブリーな仔犬か仔狼に頭を下げるというのより、冗談半分で、気取ってふたりの新入りの少女を高貴なお方みたいに扱ってやったという方が、ずっと違和感がないからな。

登録早々嫌な思いをさせたくないからと、笑いによって気分を変えてやろうという、先輩ハンターの優しい心遣い。

うん、何のおかしなところもない。

……この俺が、明らかにそれが自分に向けられたものだと認識していることを除いて……。

俺、多分狼より上位種である、フェンリルだぞ。

野生の勘で、他の生物の感情の起伏とかには敏感なんだよ。

……そしてそもそも、俺はここの人間との会話に言葉を使っているわけじゃない。

考えていることを読めるわけじゃないけれど、相手が自分の意思を伝えようとして言葉にしたことが、音声だけでなくその意味する概念、意図が直接頭の中に伝わってくるんだよ。

だから、この獣人のおっさんが言葉を紡いだ対象が俺であるということは、間違えようがないんだよなあ……。

ただ、おっさんが俺のことを『自分の言葉を理解できるはず』と思っているのか、白い狼がこのおっさんにとって大切にすべき対象だからああいう言葉を掛けただけなのかは分からない。

ここでは白い狼は珍しくて、犬系や狼系の獣人にとっては『神の遣い』だと思われている、とかね。

……って、セリアの言葉はガン無視かいっ!

そして、俺をじっと見詰めたまま……。

セリアが、どうすればいいのか分からず、困惑しているぞ。

ううむ、仕方ないなぁ……。

「わふ!」

おっさんに向かって嬉しそうに吠えて、目をキラキラさせて、尻尾を振った。

プリティフェンちゃん、大サービスだぞ!

あ、おっさん、ちょっと驚いたような顔をしたけど、黙ってもう一度頭を下げて、元いた場所へと戻っていった。

うむうむ、何とか丸く収まったな。

* *

「……何だったのかな、あの獣人のおじさん……」

「まあ、助けてくれたのだから、いい人でしょ。 口下手(くちべた) だとか、可愛い女の子と話すのが苦手だとかいうだけで……」

「自分で『可愛い』とか言うか?」

ハンターギルドを出て宿を探している時に、リゼルの口から出た疑問に対して返されたセリアの言葉に、突っ込みを入れた。

……いや、ボケには突っ込むのが礼儀だからな!

スルーなんかすると、とんでもない失礼になるぞ。

「うっ、うるさいわよ!」

あ、赤くなってやがる。

そんなに恥ずかしいなら、言わなきゃいいのに……。

いや、まあ、確かに可愛いんだけどね、セリアもリゼルも……。

勿論、俺もね!

「あ、宿屋は、カウンター係がネコミミ幼女のところがいいな!」

「ないわよ、そんな宿屋!!

……いや、まあ、絶対にないとは言いきれないけれど、この程度の町じゃあ、多分ないわよ。

王都ならあるかもしれないけどね、小さな娘がいる、猫獣人が家族経営でやっている宿屋……」

あ~、獣人は表向きはそう差別されているわけじゃないけれど、やっぱり人間からは下に見られやすく、金持ちとか経営者とかの獣人は少ないらしいんだよな。だから勿論、宿屋の経営者とかにも、獣人は少ないらしいんだ。

それで、その少ない獣人経営の宿屋があり、幼い娘がいて、カウンター業務を任されているというのは……。

確率低そうだな。ガックリだぜ……。

……俺はロリコンじゃないぞ?

そもそも、俺は生後半年チョイなんだ。俺より幼い子供がカウンターにいることなんて、あり得ないからな。

「しかし、どうしてフェンが獣人の幼女に会いたがるのよ。

アンタなら、普通の犬か狼の子供と遊ぶ方がいいんじゃないの?」

いや、確かに犬や猫と遊ぶのは好きだったよ、俺。

でもそれは、前世で人間だった時の話だ。

いや、今でも犬や猫は好きだよ。……でも、それは俺が人間として動物を愛でたいのであって、自分が対等な立場で一緒にじゃれ合いたいってワケじゃないよ!

「…………」

「あ、ナシ! 今の私の発言、ナシ!!」

俺の、何とも言えない悲しみをたたえた目を見たセリアが、慌てて自分の不用意な発言を取り消した。

……そんなに憐れみを 誘(さそ) うような目をしていたかな、俺……。

* *

数軒廻った後、宿は普通の人間の少女がカウンター係をやっている、家族経営のところに決まった。

ネコミミ幼女はいなかったので、仕方なく妥協したんだよ、うん……。

カウンター係が少女だと、セリアとリゼルが話しやすいだろうから、この町のことを色々と聞けるからな。

むさいおっさんが仏頂面でカウンターに座っていたら、話し掛けにくいよな、常識的に考えて。

今はまだ初対面だから、カウンター少女に無理に話し掛けたりはせず、真っ直ぐ部屋へ。

そして、荷物を置いて、いよいよ待望のお風呂へ出発!!

……セリアとリゼルが……。

動物は入れてもらえないんだってさ、銭湯。

うん、知ってた……。

まあ、普通、動物は駄目だよなぁ。毛がたくさん浮くし。

……毛皮系の獣人はどうなんだ?

さすがに、『毛がたくさん浮く』、『排水溝に詰まる』という実害があるから、入れてもらえなくても差別とは言えないよなぁ……。

日本の銭湯や温浴施設では、衛生上の理由から『おむつが取れていない乳幼児の入浴は禁止』というところが多いけど、それを差別だと言って騒ぐ人はいないよな。

大勢のお客さんの安全と快適さを守るためには、仕方ないよなぁ……。

ま、獣人は獣人専用の風呂屋に行くか、井戸水を被るくらいで我慢するしかないのかな。

それが嫌なら、成り上がって風呂付きの家に住めばいいだけのことだ。

それに、俺はちびっこいから、湯船に入ると常に泳ぎ続けなきゃならない。背が立たないからな。

それは何だか疲れそうで、嫌だなぁ……。

ま、俺は銭湯に行かなくても、タライにお湯を張れば充分だしな。

だから、留守番になるのは納得できる。

女湯に入るのは少し気が引けるから、丁度良かったな、うん。

……別に、悔しくはない。

酸(す) っぱい葡萄?

何のことだ?

チクショウ……。