取って来た獲物を他の令嬢にあげる婚約者に、優しく恥をかかせる方法
作者: へんりん毎朝7時投稿
本文
ピーヒョロヒョロ
遠くから鳥の鳴き声が、山にこだまする。
今日は初狩りの日。我が国では、十六歳の成人を迎えた貴族令息は山に狩りに出かける。そして、そこでとった初めての獲物を麓で待つ愛する人に渡す、という古くから伝わる慣習があるのだ。
麓には多くの令嬢が押しかけていた。私もその一人である。
中には婚約者が今日参加しない者もいる。今や初狩りは一種の名物であり、どの令息が一番早く獲物を捕ってくるか賭ける場所でもあるのだ。一番槍の令息の家には、予期せぬ幸運が訪れるのだとか。
馬蹄が近づいてくる。現れたのは白馬に乗った私の婚約者、ラクード公爵令息だった。馬にくくりつけられた紐には、一羽大きな鳥がつるされている。
「皆の者!見よ!私が一番乗りだ!」
麓にいる人にアピールしようと手綱から左手を離した影響か、どこかたどたどしい動きをする白馬。あんなのが一番乗りだなんて、今年の令息はたいした事無いのだろう。
「さて、ここで皆に伝えなければならないことがある!ダジリー!君との婚約を破棄する。すまないが、私はこのウェルダス嬢と運命の出会いをしたのだ!ウェルダス嬢と婚約を宣言する!」
ひときわ大きな声を上げるラクード。下の馬が嫌そうに首を振る。
――婚約破棄は百歩譲ってどうでもいい。でも私はこの炎天下の中、虫のはびこる屋外でひたすら待たされたのだ。それがこの仕打ち?いくら何でもあり得ない。
少しぐらいやり返しても罰はあたらないはずだ。
「はぁ、そうですか。素晴らしき出会いに心より祝福申し上げますわ」
「そうか!ダジリーなら祝福してくれると思ったぞ!」
この場面に本当に心から祝福できる奴がいたとしたら、そんなのペテン師か脳みそクルクルパーかのどちらかに決まっている。もちろんラクードは後者だ。
「では一つ提案がございます。ラクード様が討ち取られたその鳥、どうかウェルダスさんにあげてください。――ただし、せっかくの運命の出会いをされた相手なのですから、普通に渡すのはおすすめしません。その美しい愛馬に乗ったまま、両手でお渡しすると言うのはいかがでしょうか?」
「おぉ!!素晴らしい提案だ!ありがとうダジリー!」
さすが脳みそクルクルパー。元気な返事ができて偉い。
ラクードは私が言ったように、ウェルダス令嬢の近くに馬を進めると、両手で鳥をつかんで手渡そうとする。ウェルダス令嬢も頑張って手を伸ばすが、馬上と地面とでは距離がある。ラクードは両足で馬具ごとがっしりとつかみ、何とか体をくねらせ戦利品を渡そうとする。
変な体勢だったからだろうか、馬具が絡まって痛かったからだろうか。下の白馬がグイッと身をよじった。
ドッシンッ!!
地面に響きわたる衝撃。ラクードは顔面からガッツリ地面に落ちていった。頭は半分土にめり込んでいる。加えて笑えることに――ゴホン。可哀想なことに、持っていた鳥はラクードの手から投げ出され、ウェルダス令嬢の頭の上に落下した。結果、世にも珍しい、地面に這いつくばる公爵令息と男爵令嬢が誕生した。白馬はそれを見て愛想を尽かしたのか、どこかに走って行ってしまった。
確かに運命的な出会いというのも納得である。地面に頭から突き刺さっている状態で、頭に鳥をのせたまま突っ伏している人と出会える確率なんて、一生に一度起こりえるかどうかなのだから。
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その後すぐ判明したことだが、ラクードは自分で獲物を捕っておらず、山に隠れていた従者が取ってくれた鳥を見せびらかしていたらしい。本当に救いようが無い。
彼はあれから「ラクーバ」というあだ名をつけられ、社交界で酷くもてあそばれることになったそうだ。