作品タイトル不明
第870話 畑と果樹園と、エイデン
アースドラゴンのステーキは、頬が落ちるんじゃないかというくらい美味だった。味付けをしてなくてもペロリと食べられてしまうほど。
『美味しい』じゃなくて、『美味』が合う。そのくらい、本当に美味しかったのだ。
美味しすぎて自分にしては食べ過ぎた意識はあるのだけれど、胃もたれもしていないのだから不思議だ。
「この艶々具合は、ドラゴンの肉のおかげよね」
ドラゴンのお肉を食べた翌朝、顔を洗った後に鏡に映る自分の顔を見て、肌がいつもよりも輝くように艶が出ていることに気付いた私。自分の指で頬をつつく。
「この肌の張りは、浮腫んでるでも、太ったわけでもないし」
私はすでに三十代になっている。本来なら、お肌は曲がり角を過ぎているけれど、自分で言うのもなんだが。
「……十代の肌と言ってもいい気がする」
その日は朝から曇り空だったけれど、そんなのは関係なく、私の気分もいい。思わずニヨニヨするのは仕方がないと思う。
調子がいいのは肌だけではなく、気持ちや体調もだ。
「さてと」
私は完全防寒の上、タブレットを手に家を出る。やる気に満ちている私は、ログハウスの敷地の畑を見に行くことにした。
ちなみに、私が外に行こうとしているのに、マリンもノワールも寒いからと言って暖炉の前から離れなかった。まぁ、いいのだけれど。
エイデンの離れの向こう側に広がる小さな畑。今は何もない状態。
――『収納』の中には、色々野菜が残ってるけれど。
タブレットの『ヒロゲルクン』の畑のメニューをチェックする。五年目にもなると、苗の種類も増えている。
この畑で植えるなら、季節は関係なく植えることはできる。何せ、土の精霊たちが期待の眼差しで待ち構えているから。
『なにをうえる?』
『なにをそだてる?』
『おおきくする?』
うずうずしている彼らの様子は、可愛すぎだ。
「そうだねぇ。白菜とかほうれん草、大根もいいかもしれないね」
自分の言葉に、頭の中に浮かんだのは鍋。
「ポン酢で食べるのもいいなぁ」
『ぽんずー?』
『ぽーんぽーん』
『ぽんぽんぽん!』
ポン酢が何かわかってるのか、わかってないのか。楽しそうに踊りだす。それを見ながら、私は鼻歌交じりに野菜の苗を選んで植えていく。
元々小さい畑だから、植えるのなんてあっという間。
――今日は無理でも、明日の夜は鍋にしよう。
そんなことを考えながら、次は果樹園に向かう。
果樹園の果物は時季になると、村の子供たちがお手伝いに来て採ってくれる。先日はオリーブを採ってくれて、まだ熟しきれていないのが残ってるのがあると教えてくれていたのだ。
実際に行ってみると、黒く熟したオリーブの実はほとんど残っていなかった。たぶん、私が見に来るまでに熟してしまって、鳥に食べられてしまったのかもしれない。
ちょっと残念に思いつつ、ログハウスの敷地に戻る。
「五月~!」
エイデンの声に上に目を向けると、人の姿のまま飛んで来た。安定のエイデンである。
「おはよう~」
私が手をあげて返事をすると、ストンと目の前に降りたつ。早い。
「おはよう。五月、今日は暇か?」
にこやかに問いかけるエイデン。
「そうね~」
午前中の残りはオリーブを採るつもりだったので、その作業がなくなったから、時間が空いてはいる。午後もこれといった決まった予定があったわけでもない。
「じゃあ、ちょっと出かけないか?」
ニッと笑うエイデン。
「? どこに?」
「獣王国に」
それは、ちょっと、という距離なんだろうか。