作品タイトル不明
第858話 『緑の手』グレースへの罰
大きくため息をついたのは私だけではなく、稲荷さんも。
「はぁ……レィティア」
「は、はい」
呆れたような声に、ビクリと肩を震わすレィティアさん。オドオドした顔で稲荷さんの顔色を窺っている。
「私は こちら(エルフの里) のことには、あまり口出しするつもりはなかったんですがね」
「……」
「イグノス様とのこともありますからね」
レィティアさんはサーッと顔を青ざめ、ディアナさんは心配そうに両親の顔を見比べている。それはレディウムスさんとブラトンさんも同じ。
違うのは若者エルフたちだ。この状況にも関わらず、稲荷さんを訝しそうに見つめている。
――もしかして、稲荷さんの正体《神様》を知らない?
これはまた何かやらかすんじゃ、と心配になるが、そこまでの気力はないようだ。
「ノワールもやりすぎではありますが、死者が出なかったので、まだいいでしょう」
「俺だって、それくらいわかってる。やりすぎたら、五月に叱られる」
自慢げに言うノワールに、ジロリと睨みつける私。
森の火は、エルフたちの魔法を使ってほぼ鎮火しているそうなのだが、窓から入ってくる熱気は顔を顰めるほど。
――里の森の半分も燃やすとか、十分、やりすぎでしょうが。
それでも、稲荷さんやノワール的には、許容範囲のようだ(遠い目)。
「『緑の手』グレース」
「……」
グレースは口をへの字にしながら、稲荷さんに生意気そうに目を向ける。
「日頃から『緑の手』の名をかさにきて、驕った行為が多かったようだな」
グッと口を引き締めるグレース。
「では、その名に相応しく、お前にエルフの里の森の再生を任せよう」
稲荷さんの言葉に、目を見開くけれど、すぐに自信ありげな顔に変わる。それを見た稲荷さんが、ニタリと意地わるそうな顔をする。
「ただし、精霊たちは手伝わせない」
「なっ!」
「お前は『緑の手』の名で、日頃から精霊たちをこき使っていたようだからな。精霊たちよ、それには応えなくていいぞ」
実はこの部屋の中には小さな精霊の光の玉たちが浮かんでいた。うちの山にいる子たちに比べても、かなり弱々しい光の玉だ。イメージしてたよりも精霊たちが小さくて、心配になるほど。
稲荷さんの言葉に返事を返せる子たちはいないが、嬉しそうにピョコピョコ動いている。
「そうだ。森の再生が終わるまで、望月様のところで預かってもらいましょうか」
「え。まぁ、うちは構わないけど」
「ノワール、里の精霊たちをお前がドラゴンの姿で山まで運びなさい。今回の件はこれでチャラにしましょう」
「こいつらの力じゃ、山につくまえに消えそうだからな」
「ま、待ってくださいっ。それでは、いつまでも森がっ」
慌てて声を荒げるグレース。
「お前は『緑の手』なのだろう?」
「そ、そうですが」
「本来、『緑の手』とは自身の魔力をもって植物を育ててきたはず。精霊たちは、気に入った相手に力を貸すだけだったのに、まるで奴隷のように使っていたようだな。だからこんなに弱々しい精霊しかいない」
グーッと顔を近づけた稲荷さん、細い目から青白い怪しい光が浮かんでる。
「お前には『緑の手』ではなく『精霊殺し』の名のほうが相応しいかもしれんな」
突然、グレースの身体がぼんやりと白い光で包まれる。
「えっ」
「な、なんだ」
「グレース様っ」
エルフの若者たちが慌てだす。
「おやおや。イグノス様、よろしいんですか」
稲荷さんが視線を上のほうに向けると、ホワリと遮光器土偶が現れた。いつもよりもミニサイズだ。
『構わない。五月に関わる者に手を出そうとしたのだ。自業自得である』
「イ、イグノス神様……!?」
「まさかっ」
「……どういうこと」
驚きの声をあげる正座しているエルフたち。
『『緑の手』の称号はそのままだが、同時に『精霊殺し』の称号も付けた。お前に力を貸す精霊はいない』
「ひぃっ!」
イグノス様の言葉に、グレースは甲高い悲鳴をあげて気絶してしまった。