作品タイトル不明
第857話 ノワール、エルフの里で大暴れ
薬師のブラトンさんは、友人とはいいつつも、一応、カスティロスさんの遠い親戚でもあるらしい。そのブラトンさん、実は我儘姫の記憶をなくす薬を作ってくれたエルフらしい。
そういえば、そんなこともあったか、と思い出す。(※1)
そんな立派な薬師なのに、弟子だという若いエルフの三人がやらかしたという。
「『飼う』はないなぁ」
「失礼だろ?」
「も、申し訳ございませんっ! ま、まさか、聖獣様にドラゴン様とは存じ上げず!」
声をあげたのは、若いエルフの中でも男性の一人。
「そ、そうですっ。ご紹介を受ける前に見た姿が、とても可愛らしくっ! て、てっきり、人の子かと思い、グレース様がお気に召されてっ」
グレースと呼ばれた女性のエルフがビクリと肩を震わす。
「え、何。人の子だったら『飼う』の?」
思わず声をあげる私。
レィティアさんとディアナさんが額を手で押さえる。顔色も相当悪い。
レディウムスさんとブラトンさんは顔を強張らせている。
「まさか、エルフってそういう感じ?」
レディウムスさんに目を向ける。
よっぽど私の目が冷ややかだったのだろう。レディウムスさんは、ブンブンと顔を振って否定する。
「そんなっ! そんなことはございませんぞっ!」
隣で正座していたブラトンさんは、うんうんと必死に頷く。
「そうだよねぇ。カスティロスさんはうちの村でも子供たちと仲良くやってるし」
「ええ、ええ!(さすが、我が孫、カスティロス!)」
「てことは、そっちの若いのがおかしいってことよね?」
ジロリと三人に目を向ける。
「申し訳ございませんっ。この者はエルフの里でも唯一の『緑の手』、何卒、ご容赦をっ!」
ブラトンさんがグレースの前に這って行き、懇願する。たぶん、足が痺れちゃっているのだろう。
それよりも気になったのは『緑の手』というワード。どこかで聞き覚えがあると思えば。
「あ。もしかして、モリーナを苛めてたエルフじゃないの?」(※2)
私の言葉に、ハッと顔をあげたグレースは、真っ白な顔になっている。
ビンゴである。
「そっか。前に聞いてたんだよねぇ。なんか、すごく偉そうな従姉がいるって。そっかー。あんたがその従姉かー」
どんどん声を低くしながら、私はグレースの前にしゃがみ込む。
「うちの子たちを『飼う』とか、モリーナを苛めるとか、よっぽどエルフの里では甘やかされてるみたいねぇ。ねぇ? レィティアさん?」
私の背後で頭を抱えていたレィティアさんに据えた目を向けると、絶望の表情を浮かべている。
「も、申し訳ございません。でも、あのっ」
「でも、も、あの、もいらないんだけど」
「いえ、その、まず、外を見ていただきたくっ!」
レディらしからぬ勢いで応接間の窓を大きく開ける。
「んっ、何、この熱気はっ」
思わず右手で顔を庇う。
「ノ、ノワール様がキレてしまいましてっ! 里の森の半分が焼かれてしまいましたっ!」
レィティアさんの甲高い叫び声が、応接間に響く。
すでにノワールがやらかしてた模様。
バッとちびっ子に目を向けると、マリンはてへっと笑い、ノワールはピープーと口笛を吹いている。
「……怪我人は」
「はい、あの、火傷を負った者、転んで怪我をした者など数人おりますが、死者は出ておりません」
「はぁ……」
思わず、大きくため息をついた私である。