作品タイトル不明
第856話 稲荷さん、叱り飛ばす
食事を終えた私たちは、 こちら(日本) の街中にある稲荷さんの家、というか稲荷神社の社務所に戻った。
そんなに大きくもない稲荷神社だけれど、ポツリポツリと参拝者がいた。よほどご利益があるんだろうか。お賽銭を投げ入れて祈っている人たちを見て思ってしまった。
神社にいた稲荷さんの眷属たちに軽く挨拶をしてから、転移用の部屋のドアを通って、再び、エルフの里の稲荷さんの家へと戻る。
「……どうしたんですか」
転移用の部屋から、今朝お茶をいただいた応接間に行くと、レィティアさんとディアナさんが困った顔で出迎えてくれた。
そして同時に、目の前でガタガタ震えて土下座しているエルフたちに気が付く。
老人エルフが二人に、若いエルフが三人。若い女性と男性二人。さすがエルフ。皆、美形だ。
そんな彼らを、ムチムチした腕で腕組しながら不機嫌そうな顔で見つめるマリンとノワール。
二人がレィティアさんたちに迷惑をかけてないかな、と心配していたのだけれど、案の定、何かあったらしい。
「モ、モチヂュキ様」
私の名前を呼びながら、顔をあげたエルフの老人。よほどなめにあったのか、真っ青な顔で泣きそうな表情だ。
――あれ? どこかで見覚えがあるなぁ。
そう思って考えていると。
「レディウムス、何をやらかしたんだ」
稲荷さんが、すごく怖い声で問いかけた。
――レディウムス? レディウムス……ああ、カスティロスさんのおじいちゃんだ!
しばらく村に来ていないので、すっかり忘れていた。
そのレディウムスさんは、口をもごもごしながら何かを言っている。
「はっきり言わんかっ!」
細い目をカッと見開いて怒鳴る稲荷さんに、そばにいた私は思わずビクッと身体を震わせる。稲荷さん、神モード降臨か。
「は、はひっ! じ、実はっ」
正座したままのレディウムスさんが言うには、私と稲荷さんが出かけて少しした頃、レディウムスさんがレィティアさんに会いにやってきたらしい。
二人は茶飲み友達らしく、今日もいつものようにお茶をしに来たのだが、そこでノワールたちと遭遇したらしい。
レィティアさんが、私から預かっていること、聖獣とドラゴンが人化していると説明はしたものの、エルフの里では小さな子供は珍しく、レディウムスさんは大はしゃぎ。一緒に外に出て、追いかけっこをしたりと、遊んでいたらしい。
最初の頃こそマリンたちも楽しんでいたようなのだが、レディウムスさんが友人を呼んでからが、よくなかった。
その友人というのが、もう一人の老人のエルフ。
「く、薬師をしております、ブラトンと申します」
こちらもかなり怯えている様子。チラチラと視線がノワールに向けられているあたり、これはノワールが何かしでかしたのだろう。
「こ、このたびは、我が弟子たちが申し訳ないことをっ……」
ふり絞るような声で頭を下げるブラトンさん。その声に、彼の後ろで土下座をしていた三人の肩が震えた。
「で、何をしたのだ」
「こいつら、俺とマリンを飼うとぬかしたのだ」
「そうそう。特に、その女ね」
――うわぁ~。二人とも、怒ってる~。
二人の冷たい視線は、グサグサと若いエルフたちを突き刺している。